気高い貴女
交わした言葉は多くない。
でも、害がないと判断してくださったのか。
それともたまたま瞬間的にだったのか。
時折発する言霊には
そのままが少しだけ溶けていたようだ。
ほんの少しの、その方の色の付いたカケラを拾ったようで。
それはじんわりと私の中で溶けて
ぼんやりと浮かんだそのイメージは、私がまた言葉にする事で私の中で形になっていく。
白、では無い。光沢のあるまるで研ぎたての刃物のように、月明かりに照らされて目が眩むほど輝く雪原のような白銀の毛並み。
そして、人を乗せるのが容易い程大きく逞しい、それでもしなやかな体躯。
鋭さすら感じる程真っ直ぐに立てられた三角の耳は少しの聞き漏らしも許さんとばかりに私に向けられている。
害でもなそうものなら、たちまちにその前足の爪と大きな口でかみちぎってやらんばかりの圧迫感を発していた。
もののけ姫の、モロの君。
イメージとしてはそれが一番近い。
モロの君をより鋭く、毛量を落としてしなやかに
更に隙を無くしたような。
そんな恐ろしくも美しい白銀の狼様が私の中で姿を現した。
もちろんこれは、私の解釈で形を成したものだ。
そう、言葉を借りるなら。
私は時折その人の言葉、仕草、声色、それらの中からフィルムの欠片のようなものを拾う。
私の中に取り込まれたフィルムはゆっくりゆっくり私の想像力と混ざって溶けて。
一枚の写真を現像する様に。
そう、あくまでその瞬間の静止画、会話は勿論できないし、チェキみたいにその場で写真にはならない。
なんともアナログ。
まぁ置いといて。
その狼様の美しい事。
凛々しくて、恐ろしくて。
彼女が背に乗せることを許す存在とはどれだけ尊い方達なのだろうか。
私は、生まれ持った使命、というものは信じてみたい方だ。
私しかなれない「私」である事。
個性が存在する、故にきっとあると思ってる。
ただ、背後に居る存在によってそれらは大きく左右するのかも知れない。
【首輪で繋がれる】なんて彼女が許すはずもない。
どこまでも気高く、誇りを持ち、滅多に群れようとしない、少なからず影響はあるのかもしれない。
ならば、私はどうなんだろう?
相変わらず細長い毛の生えた何かが私の周りを行ったり来たりしているだけだった。
龍なのか、蛇なのか、獣なのか。
背後と言うより腰あたりにゆるく巻き付くそれがいつか本当の姿を取り戻した時。
私の中で脈打つ青い火種とやらも、爆ぜる時が来るのだろうか。
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