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初めて会った日から何周か回って恋をした 28

バレンタインの自作チョコレートを◯◯に渡して上機嫌な蓮加は、とても軽い足取りで家に帰って

渡せた、という嬉しさと喜びで胸一杯になって1日を終えた


翌日、蓮加が朝ご飯を食べていると母親から


蓮母:ホワイトデーが楽しみね

蓮加:ん?なんのこと?

蓮母:◯◯くんにチョコあげたんでしょ?
  お返し楽しみって言ったのよ


と言われ、頭がはっきりと起きていない蓮加はそのまま朝ご飯を食べ進めたが

登校する頃になって、やっとその意味を理解した


蓮加:そうじゃん…◯◯からお返しが来るってことじゃん!

昨日は渡しただけで胸一杯で考えてもいなかったけれど

蓮加はその事実に気づくとワクワクして翌月が楽しみになって仕方がなくなっていた


蓮母:蓮加、そろそろ行かないと◯◯くん待たせるんじゃないの?


時計を見ながら言った母の言葉にすくっと立ち上がった蓮加は


蓮加:うふふふ
  いってきます〜!

と笑って学校に向かった


蓮母:よほど楽しみなのね、◯◯くんからのお返しが


蓮加の母は蓮加のその姿を見てとても微笑ましく思った

そして同時に、そういうところは変わらないんだなとも思い笑っていた




◯◯と一緒に登校するようになって、早1年と少し経った蓮加

遅刻するということはほとんど減ってきた


そんな登校時間

基本的には◯◯も蓮加も同じくらい話すんだが、今日は…


蓮加:ねぇ、◯◯!

◯◯:ん?

蓮加:お返しは…何をくれるの!?


蓮加のこのお返しは何?という質問でほとんど時間が使われていた

◯◯もそうやって楽しみにしてもらえている、という事実があって嬉しい気持ちにはなってはいるのだが

ここまでしつこく聞かれると、思うものはあるようで…


◯◯:なんでしょ〜

とはぐらかしていたのが

◯◯:すぐ聞きたがる蓮加には、あげないようにしちゃうぞ?

と脅すというか、言い聞かせるようになっていた


蓮加:むぅ…
  ◯◯のいじわるっ…


と蓮加に言われても、◯◯はあまり気にしていない様子で

楽しみにしてて、というだけ


◯◯:それよりも蓮加
  もうそろそろ卒業式だよ?


◯◯は自主的に話を変えた


蓮加:だねぇ…
  何か卒業って、感覚わかないよ

◯◯:卒園式とはまた違うもんね

蓮加:そうそう、卒園式の時はまだ小さいから気にしてない感じだけど
  卒業式だとねぇ


蓮加は真剣に考える顔をして言葉にする

◯◯はホワイトデーのことを忘れさせるためにこの話題にしたのか、それとも…


◯◯:あ、蓮加!
  もうそろチャイム鳴るかも


学校の敷地内に入っていた2人

校舎近くの時計が、8:20前を指していた


蓮加:ま、まずいっ!
  ◯◯急ご

◯◯:勿論!


2人は一目散に昇降口へと向かって走り出した




昌輝:…はぁ…


ホームルーム終わり

◯◯たちの移動教室の際、隣のクラスの昌輝がため息をつきながら教室の前をウロウロしていた


◯◯:とも、あれどうしたんだ?

◯◯が智也に聞くと


智也:んぁ…あの後も根気よく探したんだけど1個もなかったらしくて、あの落ち込みようだよ

◯◯:へぇ…なんと言ったらいいのか


◯◯はあまり下手なことを言うと、昌輝から反撃を食らうと思ったので言葉を濁した


昌輝:◯◯はいいよな…
  もらえる相手がいて

智也:お前はもう少し◯◯を見習えよ
  ◯◯とお前のどっちかに渡すってなったら、◯◯が多いに決まってるだろ?

◯◯:ちょいちょい、それは言い過ぎ


智也の話を聞いて、少し嫌な印象を抱かれそうだと思い◯◯は止めた

昌輝は拗ねた顔をして◯◯を見る


昌輝:…◯◯みたいになればもらえるのかな

◯◯:俺は昌輝は昌輝のままでいいと思うけどな
  昌輝の性格を良いと思ってくれる人はいるはずだし


◯◯はそう励ました

智也は、ほんと優しいなと感心して見ている


昌輝:んま、そうだよな!
  今日も根気よく探してみるか!

智也:なんでそうなるんだよ
  つきあわされてる俺の身にもなってくれ…


そうやって話している内に、休み時間は残り僅かになっていて◯◯と智也は廊下を早足で通っていく


◯◯:なぁんかあっという間だったな

智也:ん?あぁ、小学生活?


突然の◯◯の言葉に智也は一瞬わからなそうな顔をしたが、すぐに合点がいって返した


◯◯:ほら、智也が転校してきてさ
  1人親友増えたし、いっぱいサッカー楽しめたし

智也:まあそうだな
  前のところよりも、思い出は多いし楽しかった感じは俺もあるよ

◯◯:智也は、中学でもサッカー続ける?

智也:んまあ、一応


そう智也が言ったら、◯◯はニカっと笑って


◯◯:んじゃ、MF争奪だな

智也:おいおい、何で俺がMFになることになってんだよ

◯◯:智也はそっちタイプだろ、頭脳派だし

智也:俺はストライカーが夢なんだよ


何だかんだ言いつつ、2人は笑顔で理科室に着いたのだった



時は流れて、3/14

卒業式の日


◯◯は父親の用意した灰色のスーツを身にまとって学校に向かった


◯◯:すごい恥ずかしいんだけど

と両親に言っていた◯◯だが、式の時間にはその服装に慣れたのかいつも通りに笑っている写真が撮られている


蓮加:ふへへへ、◯◯かっこいい〜


蓮加はその◯◯の恰好を見て、似合うと連呼し

◯◯は照れ隠しに蓮加の服装を褒め、互いが互いに褒め合い照れている

いつぞやのバカップル状態になっていた


智也:散々だな、◯◯
  その服装若旦那って呼ばれてるぞ


式が終わって、学年の皆がアルバムに名前書きに来たり写真撮りに来たりして入り乱れている中

教室の角でアルバムに名前を書き続け疲れていた◯◯に智也が声をかけた


◯◯:こんな服を買った父さんが悪いんだよ…
  普通に黒とか紺がよかったな

智也:まあ、そうだろうな
  昌輝なんか腹抱えてその服のこと笑ってたぞ

◯◯:あいつ…


とかなんとか話しつつ、智也も◯◯にアルバムのサインを依頼した


◯◯:別に智也とかは今じゃなくてもいいだろ

と◯◯は言ったが

智也:こういう空気感のときだけしか、やってもらおうって気になれないんだよ
  恥ずかしいだろ、後日は


智也はそう言って強引に◯◯にアルバムを渡した


◯◯:全く…
  あ、そういや昌輝は来ないしさっきから見てないけど…


書きながら◯◯は智也に聞くように呟いた


智也:あぁ、あいつならバレンタインのお返し渡すからって先に帰ってたぞ

◯◯:はへー、随分気合入ってんな
  学校のどこかに呼びたしてわたしゃいいのに


実はバレンタインデーの翌日、昌輝の下駄箱には手紙とともに小さなチョコレートの入った箱があった


昌輝は飛んで喜び、その手紙を開け

ホワイトデーに公園でお返しを待つ、とだけ記されていたものを持って興奮していた


智也:んまあ、くれた人の答え合わせもあるからな
  バレずにやりたいんだろ

◯◯:そんなもんか…


◯◯はさくっと書き終えて智也にアルバムを返した


智也:で、お前はいつ渡すんだ?

◯◯:ん?え、内緒

智也:…なんだよ、俺にも言えないのか?

◯◯:誰かに教えたら、蓮加嫉妬しそうだし


◯◯の見つめる先には、少し涙目な蓮加が友達と話している姿がある


智也:ま、なんでもいいけど
  下手なものだけは渡すなよ?

◯◯:余計なお世話だ


智也がそう言って去っていき、少しすると段々教室から人が少なくなっていった


そのタイミングで◯◯は蓮加に


◯◯:いつもの、あの公園で待ってる

と伝えて足早に家へて帰っていった




蓮加:ママ!
  れんか変なとことかないよね?

蓮母:ないから大丈夫だから
  そんなソワソワしないの


蓮加は母と帰ってくると、一旦手洗いうがいを済ませてからはずっと玄関で落ち着かない様子で座っていた


蓮加:だって、こういうのって初めてなんだもん


クリスマスのときもプレゼントをあげたのは蓮加だけで、◯◯はあげていない

だから、蓮加からすると初めてのちゃんとしたプレゼントをもらうということになる


蓮母:それはそうだけど…
  ◯◯くん待ってるんじゃないの?

蓮加:でも、なんか…ちょっと…


恥ずかしいのか

ドキドキして落ち着かないのか

わからない蓮加は、行きたいけど行きたくないという複雑な感情で動けないでいる


それを何となく察した蓮加の母は


蓮母:早くしないと、私が蓮加の代わりにもらってきちゃうわよ?

と意地悪を言った


蓮加:それはいや!

蓮母:じゃあ行ってきなさい
  早く行かないと◯◯くんの気が変わっちゃうかもしれないわよ


そう言われ、ゆっくりと歩みだした蓮加は

意を決したように玄関の扉を開けると、勢いよく駆け出していった


蓮母:…最近の子は色々と早いわね


ポツンと一人になった空間で蓮加の母は呟いた




◯◯:あ、きたきた


しばらく待った◯◯は、やっときた蓮加に大きく手を振った

蓮加はそれに振り返すことなく、◯◯の前まできた


蓮加:はぁ…はぁ……走ってきたからつかれた

◯◯:別に急がなくてもどこにもいかないのに


◯◯は笑って言う

◯◯のその言葉にほっと安堵した蓮加は、息を整えて◯◯と向き合った


しばしの沈黙が流れ


そして…


◯◯:バレンタインのチョコありがと
  すごい美味しかった


◯◯が話しだした


◯◯:それでお返しって何返せばいいのか悩んだんだけど
  やっぱり蓮加は可愛いし、多分これから綺麗な人になってくと思うから


と前置きをして◯◯は持っていた紙袋を蓮加に渡した


◯◯:部活とかやるようになると手とか気になるかなって思って


中身はハンドクリームと、少量のお菓子だった


蓮加:えへへ、ありがと
  すごい嬉しい


予想していたものより大人なもので、少し蓮加は意表を突かれたが

◯◯の思いやりに胸がいっぱいになっていくのを感じた


◯◯:喜んでもらえたならよかった

蓮加:◯◯っ!


蓮加は◯◯に駆け寄り、その◯◯の体に飛び込みハグをした

◯◯は優しく蓮加の頭をなでその時間を過ごした



◯◯:あのハンドクリームずーっと使ってたよね

蓮加:そりゃ◯◯からのプレゼントだったし?
  なんだかんだあれが一番合う気がしたからずっと買って使ってたのよ


◯◯はそう言う蓮加の手を取ると


◯◯:ずっと変わらず綺麗だよ

と言った


蓮加:いやん、またそういうことする
  何回やられても慣れないんだけど


照れながら言う蓮加に、◯◯は手をくすぐり始める


蓮加:おい、それは…やめろって

◯◯:はいはい、ごめんって

蓮加:むず痒いんだから、もうっ


ベッドルームに持ち込んだ小さい頃の写真のアルバム

どれを見ても2人の思い出話は尽きることがない


◯◯:…なんかずっと語っていける気がする

蓮加:いっぱい思い出あるもんね
  それに、裏話とかもお互いありそうだし


◯◯はそう言う蓮加を見て笑いながら次のアルバムを手にした


それは中学生になってからの写真が貼られたアルバムで

その一番最初のページには


ぎこちなく笑う蓮加と

笑顔の薄くなった◯◯のツーショットが貼られていた


小学生編 fin.

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