初めて会った日から何周か回って恋をした 13
蓮加が○○の想いを知った
ただ、それは昔馴れ合っていた二人の間柄の時ではなく
思春期特有の、むず痒くて
どうも素直になれない中でのことだった
そして、蓮加がそれを知ってから
段々と、○○と接する機会が減ってきていた…
○○:なぁ、とも
クラブチームの大会が近くなってきており
○○は智也と昌輝
その他数人の仲間たちと自主練をしに大きな公園に来ていた
ただ、自主練とは言ったものの
実際にそうやって練習したのはほんの10分ほどで
それからは、鬼ごっこなりをする
ただ遊びに来ている小学生に戻っていた
そんな中、自販機の近くにいた智也に○○が話しかけた
智也:何?
炭酸を飲みながら、智也は○○を見上げる
○○:俺さ、蓮加に避けられてる感じがするんだけど
ストレートに、○○は智也に相談した
○○の周りに、こんなことを相談できる人間が智也しかいないこともあるが
○○は智也にそういう経験があるように思えたこともあり
相談してみた
智也:避けられてる…ね…
智也は含んだ言い方をして、炭酸を流し込んだ
○○:何か悪いことしたかな…
こういうときの○○は、試合中のような自信に溢れ、しゃんとした印象とは全く逆になる
智也は、
好きな人の前だと、○○も年相応なのか
と毎度毎度思っているのだが
智也:心当たりはないんだろ?
○○:うん
○○は弱々しく頷いた
智也:そうか…
あ、昌輝とか来たら面倒だから○○も何か飲み物買えよ
と智也は提案した
昌輝とかが集まると、また厄介なことになるし
○○も嫌だろうから
という配慮
○○:お、おう
○○もそれをなんとなく察した
自販機から、レモネードが出てきて
○○はその蓋を開ける
智也:じゃあ、間接的に何かあったか
くらいだろ
○○:間接的…かぁ
木々の隙間から、青空と雲が見える
そこを○○は見上げていた
智也:例えば、人伝いに岩本さんのことについて何か言ったのが本人に…とか
○○:何か…蓮加について……
○○はレモネードに蓋をして真剣に思い出そうとする
意外と○○は忘れっぽいところがあるので
智也はあまり○○の記憶ばかりを頼りにはしていないが…
○○は思い当たる節があったのを、ぱっと思い出した
○○:保健室…
智也:保健室?
○○がポツンと呟いた単語を反復した智也
○○:そう、保健室!
俺がさ、体育のときに転んで擦りむいたじゃんか
つい一週間ほど前の、蓮加を廊下で見たのにもかかわらず
担任が遅刻と言って、○○が大きな疑問を抱いていた日のことだろうか
あの日の3時間目は、体育館でのバスケットボールだったのだが
○○が勢い余ってすっ転んだ
ということがあった
智也:あ、あったあった
そんなこと
○○:その時さ、必然的に手当してもらうために保健室行くじゃん
○○はその時の話を智也に全て話した
智也:てことは、そこにいた人が岩本さんに言った可能性がある…ってことか
○○:うん、そう
多分そうだよ
○○は、そうだと確信しており
その時、ベッドにいたのは蓮加ではないと思っている
しかし、智也は○○の話の線もあるな、とは思いつつも
もしかしたらそれが蓮加なんじゃないか…
とも思っていた
智也:とにかく、そうだとしたら
厄介だな…
○○:そうだよな、もし蓮加だけじゃなくてさ
他の人にも言ってたとすると…
○○は少し強張った顔をした
智也:いや、一週間経って岩本さんだけが顕著に○○のこと避けてるんだから
岩本さんだけだろ
○○:何でそう言い切れるんだよ
○○はレモネードのペットボトルを智也の背中に当てた
智也:他の人に言ってるとしたら、何かしたら反応があるだろ
冷やかされるにしろ、引かれるにしろ、人がさーっと居なくなるにしろさ
智也は、トーンを変えずに○○に伝える
○○はそのことを聞いて、少し冷静になって
○○:あぁ、そうだな
それもそうだ
とレモネードをまた飲んだ
智也:ま、その話は直接聞くに限るだろ
と智也は炭酸を飲みきり、ゴミ箱に投げ入れた
○○:…ちょ、直接って…
そんなことできないだろ!
○○は、つい大きな声が出た
智也:そんな大きな声出すなって…
それに、そういうのは本人同士が話すのが一番安全なんだよ
○○:安全って、どういう…
智也:人が間に入れば、言いたいことが曲がって伝わることだってある
そうすると、余計に仲が悪くなることだってあるし
智也は○○に淡々と危険性の話もした
○○の心情的を読んで見れば、
智也が先生に見える…
と思えることだろう
○○:でも…
今更蓮加を呼び出してなんてこと…
智也:大丈夫、俺がなんとかするよ
それに、なんとかなるだろ
ほら、もうすぐあれがあるだろ?
○○:大会?
○○は、サッカーのことしかやはり頭にないようで…
智也は苦笑しながら
智也:違うよ
それも、大事だけどさ
学校の行事であるだろ?
○○:学校の行事……
あっ!
林間学校!
担任:はい、ということで
もう2週間前に迫ってきた林間学校のことについて…
智也と話した翌日
担任の先生が、林間学校の話題を出した
○○たちの小学校での林間学校は、ある意味修学旅行のプレバージョンと生徒たちに思われており
その盛り上がり方は、本当の修学旅行に匹敵する
担任:その林間学校の、係は決めたと思うんだけども
バスの席順を決めないといけなくて…
担任が、黒板にバスの簡単な席を書いていく
担任:男女で、通路隔てるのもいいし
混合で行くのもいいし
それは、君たちに任せる
と担任が言うと、学級委員の二人が出てきて
さも打ち合わせていたように、先生と何やら会話して
学男:はい、それじゃあ多数決でどんどん決めていきたいと思います!
学女:席を混合にしてもいいよって人挙手〜!
この学級委員二人は、いつも息がぴったりだな
と○○は黒板の方を見つめながら思っていた
ー 後に分かることだが、この二人既にできていたことが6年時の修学旅行で判明する…
学男:はい、混合にしてもいい人が多いので
混合にしていきたいと思いま〜す
学女:じゃあ次に、席に座る順番を決めていきます
二人のテキパキとしたやり方で、議論はさっさか進み
○○:班ごとねぇ…
林間学校の班ごとに、席に座ることになった
智也:どうするんだよ、岩本さんと離れたじゃん
下校中、智也が小声で○○に言った
○○:まあ、一番前と一番後ろってわけじゃないからいいけど…
なんでだろう
別に、そんなに近くが良かったとは思ってなかったのに
離れるって決まると、どうもムシャクシャする…
○○は、心の葛藤で色々と疲れてきていた
智也:まあ、それはいいや
沢山考えてくれよ、きっかけ作りは
智也は○○の肩に手を置いて
そう言い残して、家の方へ走って帰っていった
○○:きっかけ作り…
智也は、林間学校の時に何かしてくれるらしいけど
それにはまず、俺が蓮加にちゃんと話しかけないといけないんだよな…
改めて、自分と蓮加の溝というか隔たりを感じてしまう○○
どこでこうなったんだろう…
なんて考えてみても、結局答えなんてまだ幼い○○には出ず
すっきりとしないままに家に着いた
蓮母:蓮加、そろそろご飯できるわよ
蓮加:は〜い
ベッドでゴロゴロしていた蓮加は、母のその声に返事をして
ベッドからは離れた
しかし、考え事が頭から抜けず
そのまま少し立ち止まっていた
○○のこと、見てるだけで嫌って感じるのに
会えないとなんでこんなに寂しいというか苦しいんだろう
蓮加:はぁ…
なんか、もやもやする
蓮加は蓮加で、自分の行動と想いの差に苦しんでいるようだった
蓮母:どうしたの、顔色が悪いわよ
また辛くなったらお母さんに言いなさい?
蓮加:…うん、わかった
しかし、○○も
そして蓮加も
己の親にはそのことを言えず、ただ悶々とお互いに自分の感情と闘っていた
○○:蓮加…
蓮加:○○…
○母:ほら、早く食べちゃいなさい
遅くなるわよ、お風呂に入るのが
○○:は〜い
○父:…あ、俺おかわり頂戴
○母:食べすぎないでよ
医者なんだから
○父:へいへい
○○の父だけは、少し二人の関係性の変化に勘づいているのかもしれなかった