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ふわしゅわお嬢様はご執心 3

学年末テスト目前に、私は10年くらい会えていなかった◯◯ちゃんと再会を果たした

◯◯ちゃんと一緒にいたことは昔のことなんだけど、忘れることなんて全くできなくて

ずっと…、ずっと……待ち望んでいた再会だったから高校合格したときの何倍も嬉しかった



美:へぇ…あの彼は桜の許嫁なわけだ

桜:そうなの!
 再会できてよかったぁ


テスト返しの行われている中、斜め後ろの美空と◯◯ちゃんについて話している


美:でも、10年くらい会ってないって何かあったの?

桜:まあ、ちょっとねぇ…


美空のその一言には曖昧に答えた

くりくりとした美空の目を見ていると、色々と喋っちゃいそうで怖い…

多分、男の子をああやって虜にしてるんだろうなってつくづく思う


美:桜が言いたくないならいいけどさ
 彼結構カッコよかったから、狙おうと思ってたんだけどな…

桜:ダメだからね!?
 美空は◯◯ちゃんの友達とお似合いだよ


美空の微笑みながらの言葉を、私は少し大きめの声で制する

◯◯ちゃんとやっと再会できたのに、取られるなんて嫌だから…


和:お〜い、美空
 あんた先生に呼ばれてるよ

美:えっ…
 あ、ごめんなさ〜い!


少し前に座っている和に声をかけられて、美空が教卓のところまで急ぎ足で向かっていく


そろそろ◯◯ちゃんに連絡して、会う約束をしようと思った私


テストの点数は、いつもよりは少し悪いけど

思ったよりは悪くなくて、不安だった心の嫌なものは無くなった



◯:んぅ…


テストが返ってきて、僕は席についてすぐ唸り声を上げる

あまり芳しくない点数だからだ


秀:どうしたんだい?
 まさか、あの◯◯が悪い点数を?

◯:いや、大して悪くはないんだけど
 目標に届かなかったわ

秀:まあ、◯◯は目標が毎度毎度高いからね
 しょうがないところもあるんじゃないかい?


友人は、少し嫌味に聞こえる言葉だけど励ましてくれているみたいだ 

けれど、僕の心には響かない


桜ちゃんと再会して、今回のテストは少し手を抜いてもいいかなという気持ちを改めた

何となくカッコ悪いし、桜ちゃんにそんなことして会うのが恥ずかしいなと思ったからだ


でも、付け焼き刃では自分のできないところが解決するわけもなく

やはり手を抜いた時期の長さがよくなかったんだろう


◯:はぁ…どうしましょうかね

秀:お疲れ様会するかい?

◯:いや、桜ちゃんととりあえず会うからそれはやらないかも


そう答えると、友人はあからさまに拗ねた

僕がお疲れ様会を断ったからじゃない


僕に桜ちゃんという許嫁がいて、また再会してしまったということにずっと拗ねている


秀:はいはい、そうですか
 どうせ僕はお払い箱ですよ

◯:別にお払い箱なんかじゃないさ
 ただ、桜ちゃんと今までの埋め合わせをしたいんだよ

秀:埋め合わせ…ってどういう

◯:10年間の埋め合わせさ…

僕が窓から空を見ながら答えると、友人は不思議そうな顔をしながら席に戻っていった


10年の埋め合わせ

その言葉の意味と重さを理解し始めていた僕



テスト返しの時間が終わって、桜ちゃんから連絡が来ていることに気が付いた

桜ちゃんも、そろそろ会うことを考えていたらしい


『ねぇ、テストも終わったことだしさ会わない?』

「僕も同じこと考えてたよ」

『お、やっぱり私たち息ぴったりだね』


画面越し、デフォルトの文字なのに

スマホの向こう側にいる桜ちゃんの顔が見える


多分、ニコニコしてるんだろうな…


「どこで会う?やっぱりイオン?」

『あ〜、それでもいいけど…駅前の喫茶店がいいかなぁ』

「駅前の喫茶店?」


僕はそう言われても、ピンとこない

そもそも、駅前というのが桜ちゃんの最寄りの駅前なのか、それとも別のところなのかもわからない


『あ、わかんないか…場所送るね』

共有されたマップを開いてみて、やっとどこの場所にあるのかがわかった


「オッケー、ここね」

『私な方が先に着くと思うから、待ってるね』

可愛いうさぎのスタンプで会話が切れた


◯:…よし、突っ走って行こう

桜ちゃんを待たせるのも悪いし、色々と話したいことがあるし



桜:やったぁ!◯◯ちゃんと会う約束できた!

和:よかったじゃん桜

桜:うん!


私が喜んでいて、和がそれに反応してくれていたんだけど…

少し離れたところから見てた美空が、私たちのことを見て

美:何かさ、小さい子とお母さんみたいに見える

と言った


桜:なにそれ、それじゃあまるで私が子供みたいな言い方じゃん

美:あながち間違ってないでしょ


笑いながら言う美空に、和も賛同するように首を縦に振っている


桜:ふぅんだ!
 ◯◯ちゃんは私の味方だもん!

和:まあまあ…そんな拗ねないで…
 でも、その許嫁の彼も桜のこと子供っぽいなって思ってるんじゃないの?


和は私の顔色をうかがうように見ながら言った

私の機嫌が少し悪いから、怒らせないようにしているっぽい


まあ、こんなことじゃ怒んないんだけど


桜:そんなことないよ?
 ◯◯ちゃんなんて、ほんとナヨナヨした子だったんだから

美:桜も、なんかふわふわしてるじゃん
 おんなじじゃないの?


美空も和に同調するように言った


桜:あのね、私結構しっかりしてるんだからね?
 ◯◯ちゃんのこと、お世話したりとかしてたんだから

和:お世話って…

美:お姉ちゃんかなにかなわけ?


怪訝そうな顔で、お互いの顔を見ながら言う二人


桜:今は、少し大人っぽくなってるけど
 昔は一人じゃ何もできないくらい、甘えん坊だったんだからね?

和:…まあ、そういうことにしておこうか


和は強引に話を終わらせて、明日の放課後行く約束をしていたカラオケの話に切り替えた

…明らかに、私に何か言おうとしたのを隠してる


でも、それを聞く隙も与えられずに

私は二人と分かれて駅前の喫茶店へと向かっていった




桜:ふんふふんふ〜ふ

鼻歌交じりの私は思ったよりも早く、お店に着いた


お店に入り、入り口がよく見えるところに座って◯◯ちゃんを待つ


こういう楽しみなことを待つ時間が、昔から私の至福の時間

楽しみがどんどん膨らんでいく感覚が何とも言えず好き


何話そうとか、何頼もうとか

色々考えていると、喫茶店のドアに付いたベルが鳴って


少し前に見た、◯◯ちゃんがキョロキョロと見回しながら入ってきた


桜:◯◯ちゃん!
 こっち!

私が大きく手を振りながら呼ぶと、◯◯ちゃんはゆっくりと私の座る席に近づいてきた



◯:待ったかな…

一応早めに来たつもりだったけど、桜ちゃんが既にいたので聞いてみた


桜:んまあ、少しは待ったけど
 待ったうちに入らないよ、これくらい


よくわからないけど、笑顔で桜ちゃんは言う

そう言ってもらえて、僕はホッとした


◯:とりあえず、何か頼もうか…
 僕は、ジンジャーエールにするけど桜ちゃんは?

桜:私はね、紅茶にしようかな


メニューを見るため、下を向いている顔すら

僕には輝いて見えるし、その顔に見入ってしまう


昔も確かに可愛かったんだけれど、今はそこに美しさと綺麗という言葉が付け足されている感じだ


桜:よし、とりあえずそれにしよっか

◯:あれ、なにか食べるものいらないの?

桜:んぅ…私はいいや
 お夕飯食べられなくなったら嫌だし


と言われると、僕だけ食べるのもなんだかなぁと思って僕も食べるものは頼まず

お互いドリンクだけ頼んだ


桜:えへへへ、こうやってさ◯◯ちゃんと喫茶店来れるの嬉しいなぁ


注文が終わって、僕が桜ちゃんの方を見ると

パッと、花が咲くような笑顔をして言ってくれた


◯:僕も嬉しいよ
 ずっと、桜ちゃんとこういうところに来れたらいいなって思ってたから

桜:えへへ、嬉しい
 

胸の奥でずっと速いリズムを刻む心臓の音がバレないか不安になりつつ

桜ちゃんとの会話は進んでいく


桜:ねぇ、私と再会して泣いちゃったけどさ
 やっぱり高校生になっても、◯◯ちゃんは変わらないんだなぁって思ったよ

◯:あれは…何ていうかその…
 感極まって…って感じで

桜:カッコつけなくてもいいんだよ?
 桜に会えて単純に嬉しかったんでしょ、10年くらいぶりだしさ


明るい調子で、されどその目のどこかには寂しさを湛えながら

桜ちゃんは聞いてきた


なんと答えていいのやら…

と内心は少し焦ったけれど、ここで何か繕うよりも

素直に言葉にしようと思って


◯:うん…ずっと…桜ちゃんのこと頭の片隅では考えてた…
 中学入ったときとか、高校入ったときとか、いないかなぁって


素直に、ストレートに僕は10年という長い月日拗らせて、言葉にできなくて苦しいとすら思っていたものを桜ちゃんに伝えた


すると、一瞬時が止まったかのように動かなくなった桜ちゃん

けれど、またパチクリと瞼が動いて


桜:そ、そうなんだ…嬉しいなぁ

とさっきよりぎこちなく言った


あぁ…何か気持ち悪いとか思われたかな

そう反省して、窓の外を見ていると


桜:あのね…桜もね、時々夢で見てたんだ
 ◯◯ちゃんと、あのまま進んでいった未来


昔の通り、一人称が名前になった桜ちゃんは

恥ずかしそうに呟いた


◯:え…そうだったんだ…

桜:◯◯ちゃんは…そんなことなかった?

◯:なかった…って言えば嘘になるかな
 時々あったよ、あのまま順調に許嫁の関係が進んでいった夢


許嫁

という関係がまだ何なのか、そしてどういう意味を持つものなのか知らずに

ただ、未来はこの人と結婚するもんだと思って育った数年間


その後、突然会えなくなって

つい最近再会できた僕たち



僕たちは、ドリンクが届いて色々とお互いが知らない10年間の話をした

笑ったり、少ししんみりとしたりしたものだったり


けれど、最後は二人共一緒のことを言った


“またこうやって会えるようになってよかった”


夕日が見えるくらいの時間まで話して、僕と桜ちゃんは分かれた


桜:またここで話そ
 まだまだ足りないから

◯:うん、僕も同じだよ


手を振りあって分かれて、僕はふと思った


この関係は、一体なんと言ったら良いのだろう…


別に、恋人ではない

ただ、友達だけかと言われると、それもなんか違う


許嫁という言葉の意味を、二人共十分に理解している

その中で、僕と桜ちゃんの関係は…果たして何なんだろう


僕はその日寝るまで、そのことが頭の中を占拠していた


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