ふわしゅわお嬢様はご執心 9
二年生に進級してほんの少し経った、四月の中旬
僕は桜ちゃんのプレゼントを早めに用意しておかなきゃと焦り出していた
なにせ、十年ぶりの再会で好みもなんと開くしかわからないあやふやな状況で
一応お友達である井上さん、一ノ瀬さんに相談はしてみたものの、まだ何にするかを決めきれない薄志弱行な僕
そんな悩みが気づかずに生活にも出ていたのか
咲:どしたの◯◯、最近浮かない顔してるけど
普段はあまり僕のクラスに来ない咲月が珍しく僕を訪ねてきた
どうも長い付き合いだから、些細な変化でもわかるらしい
秀:なんだよ、その目線は
僕と菅原さんじゃ君と関わってきた年月が違うじゃないか
◯:いっつも一生にいるんだし気づくもんなんじゃないの?
普通さ
秀:あのね、僕だって君の変化には気づいてたけど
あえて、あえてだね…
どうも友人の逆鱗に掠ってしまったようで、二、三分僕へのお節介な弁論が続いた
秀:わかるかい?
◯:はいはい、僕の気配りが足りませんでしたよ
秀:まだ足りないようだね
咲:まぁまぁ、二人とも
熱の治らない友人を見かねて咲月が仲裁に入ってくれた
咲:その話題はまた後でにしてもらって…
私は、◯◯の浮かない顔の理由を聞きたいの
秀:確かに、これまで見たことないくらい浮かない顔をしている
よくいうよ…と内心思いつつ
僕は桜ちゃんのことを話ていない咲月に事実を少し曲げて状況を話した
咲:つまり、従姉にあげる誕生日プレゼントで迷ってると
◯:そ、留学とか云々もあったし歳も子供じゃないから僕も
何にした方がいいんだろうって
咲:確かにこれは、そういうことに対しては真面目な◯◯からしたら悩むわ
秀:無駄なところで真面目だからね、君は
友人のお返しと言わんばかりの皮肉に腹が立つが、ここは流そう
…あとでじっくり返してやるけど
◯:いいものない?
咲:んぅ、そうだな
従姉って確か今年で大学三年だよね
◯:その通り、さすがの記憶力だね
咲:てことは、ボーrペンとかどう?
結構エリートじゃん、あのお姉さん
◯:将来はいい会社の秘書になるとかいってるからね…
ありだわ
咲:まあ、他には無難にハンカチ、ハンドクリーム、髪留めとか?
◯:去年咲月には、キズパワーパッドをあげた気がするね
真面目に返してくれている咲月を揶揄うために僕はそう細くするように付け加えた
すると咲月は虚をつかれ、しどろもどろになって
咲:だって、ほらバスケで怪我とかするでしょ?
それに、まあなんというか
◯:見た目の割におっちょこちょいだから、咲月は
咲:ちょっと!?どういうことそれ
今それは関係ないでしょっ!?
こうやって笑わせてくれるところが、咲月のいいところ
表情とか、リアクションとかそういうのが面白い
秀:まあまあ、答えをくれたんだからあまり揶揄うんじゃないよ
◯:いやぁ、楽しくてつい
咲:んもう、失礼しちゃうな
◯:悪い悪い、ありがとな咲月
そう言って肩をポンっと叩くと
ふん、と言いながら自分の教室に帰っていった
秀:で、実際はあの子にあげるんでしょ?
よく誤魔化せるもんだ
咲月がいなくなってから、友人は少し呆れるように言った
◯:実際の従姉がタイプ似てて助かったよ
秀:でっちあげじゃないんだね、あれは
◯:ああ、ほんとに僕より頭がいい従姉がいてね
少し天然というか、不思議ちゃんなんだけど
秀:えてして、天才とかってのはそういうもんじゃないかい?
◯:かもね
ま、いいヒントをもらったよ
僕が微笑んで答えると、友人は自分も何か雑貨を買いたいから買う時はついて行くよと言った
が、僕は恥ずかしいからとそれを断った
こういうものを買うときに人といると、なんだかいいものを選べる気がしないからだ
秀:つれないねぇ…
◯:君も十分つれないあことあるけどね
秀:それとこれとは別問題さ
爽やかに言った友人に僕は自然と笑ってしまい、友人も釣られて笑ったから
教室で二人笑い合うという変な光景が広がっていた
☆
和:そういえばさ、美空は桜の誕生日プレゼント何にしたの?
学校の帰り道、和は美空に聞いた
今日は桜が習い事の日なので二人で帰っている
美:まあ、無難にもこもこのパジャマとか、紅茶の詰め合わせ…
あぁ、香水っていうのもありかななんて
和:いや、どこぞのお嬢様になってるし
美:絵、桜ってお嬢様じゃん
和:いや、それはそうなんだけど
今の発言聞いてると、美空までお嬢様に聞こえてくるんだけど…
和の言葉に美空は、ん?と首を傾げてよくわかっていない様子
和:もこもこのパジャマはいいとしても、紅茶の詰め合わせとか出てこないでしょ
和足たちまだ学生なんだしさ
美:でも桜からはそういうのもらってるじゃん
去年、私香水もらったし
プレゼントの感覚が違うのか、二人は桜から少しお高いものをプレゼントにもらっていた
和:それはそうだけど…それとこれとは
美:それに、親からはもらったものに見合うお返しをしなさいって言われてるんだよね
和:レベルが違うでしょ、私たちと桜だったら
美:なんか和がいつもより食い下がってくるなぁ…
あ、わかった!バイトしてないからお金があんまりないんだ!
美空が自信満々で和に向かって言った言葉は、実は図星であった
推しへの投資(グッズ等)にお金を使っていた結果
懐が寒い状況に…
和:別に…、そんなんじゃないし…
美:あぁ、ごめんね人のお財布事情を邪推しちゃって
ま、私はそういうの考えてるよってこと
図星で隠そうとしていることをなんとなく察した美空は、そう言ってその話を流した
美:あ、そうだ和!
桜もいなことだし、ちょっと二人で遊んでかない?
和:遊ぶって、イオン?
美:そう!二人でプリクラ撮ろうよ
和:い、いいけど…
美:そうと決まったら、行くよ!
和:あ、ちょっ
美:ほらほら、早く!
早くしないと私がお金出してあげないぞ?
強引に和の腕をとり、美空は走り出した
引かれている立場の和は、痛いよと言いつつ笑顔だった
☆
私は習い事が終わって、少し寄り道をしてから家に帰ってきた
桜:ただいま〜
…って、誰もいないんだっけ
私のお母さんはキャビンアテンダントで世界を飛び回っていて今は家にいない
お父さんも私が小さい頃におじぃちゃまの会社を継いでから忙しくなっちゃって遅く帰ってくる
最近は、私が転校したこともあってかお母さんもお父さんも家にいてくれることが前よりはあったけど
またもとに戻りつつある
桜:…なんか寂しいな
はぁ…
ため息をついて階段を登って自分の部屋に
扉を開けてすぐベッドに飛び込んだ
桜:んぅ…ふわふわだけが私の癒し…
前に和から誕生日にもらったふわふわの毛布にくるまる
…誕生日?
桜:あ!そういえば◯◯ちゃんって私の誕生日覚えててくれてるのかな
かれこれ十年も会ってなかったから忘れてるんじゃ…
そういう不安と家に1人で居る寂しさで、気付くとベランダに出て◯◯ちゃんに電話をかけていた
◯:もしもし?
桜:もしもし?◯◯ちゃん?
◯:ん、そうだよ
珍しいね桜ちゃんが電話なんて
帰り道なのか◯◯ちゃんの声の他に少し雑音が聞こえる
桜:あのね、◯◯ちゃん
忘れてるかもしれないけど、今週末は私の…
◯:誕生日でしょ?
大丈夫、ちゃんと覚えてるから
少し不安だった私の声を遮るように、◯◯ちゃんは明るく、はっきりと言ってくれた
それが、とっても嬉しくて嬉しくて
桜:えへへへっ
そっか、覚えててくれたんだ
◯:忘れないよ、桜ちゃんの誕生日は…絶対にね
桜:もう…◯◯ちゃん私のこと大好きだね
すると、◯◯ちゃんはふふっと笑って
◯:当たり前じゃん、僕の初恋の人だよ?桜ちゃんは
桜:…もう、照れちゃうなぁ
◯:なんか照れてる顔が想像できる
◯◯ちゃんにそうからかわれてしまったけど、別に嫌な感じはしないし
なんか嬉しい
電話してるだけなのに、すごく楽しくて胸が温かい
◯:あれ?桜ちゃん?
桜:なんかさぁ、幸せだよ◯◯ちゃん
好きな人と電話するのって、こんなに楽しいんだね
◯:…そうだね、僕もすごい楽しいよ
◯◯ちゃんは少し感慨深いような声をして言った
一緒にいれたはずの十年は失われてしまったけど、こういう時間を過ごせているだけマシなのかなと思った
◯:まだ僕家つかないけど、続ける?
桜:桜ね、もう少ししたらご飯作るんだけどそれまで繋いでていい?
◯:勿論、いいよ
星が輝く夜空の下、私と◯◯ちゃんは小一時間電話をしていた