初めて会った日から何周か回って恋をした 17
林間学校も終わって
少し肌寒くなってきた
かと言って、あの三人組がその寒さを気にするかと言われると…
昌輝:○○っ!
○○:…っ!
昌輝、もう少しペース合わせろよ!
大会がもう少しに迫った放課後、近くの運動公園に集まってパスの練習をしている
そして、今放たれた○○からのパスは昌輝の後ろに落ちた
昌輝:悪い悪い…
なんか、止まると取られそうで怖くてよ
○○:まあ、わからないでもないけど
どう、智也
少し離れたところで、二人のパス練習を見ていた智也は
智也:○○が、もう少し踏み込んで
こう…昌輝のところまで、虹を描くみたいに
木の枝を使って、ボールの軌道について○○に指摘する
○○:ふむ…
練習してみるか
智也:昌輝は、高く上がったボールの落下点を見ることだなぁ…
智也はやはりよく見ているな
と○○は思った
すると、公園の入口から
蓮加:○○〜!
おばさんから、ゆずのドリンク預かってきたよ!
と蓮加が○○の名前を呼んだ
○○:お、ありがと!
ボールを置いて、蓮加の元へ走る
あれから、蓮加と○○は
昔ほどベタベタという感じではないにしろ
○○と蓮加の仲は良好になっていた
蓮加:○○はさ、よくこういう時期に風邪ひいてるんだから
気をつけてよ?
蓮加から、ペットボトルに入ったゆずのドリンクを貰う
○○:まあ、気をつけてるつもりなんだけどねぇ
蓮加:ほんとぉ?
首元、寒そうだけど?
○○のシャツの開いた襟のところを指さす蓮加
○○は、熱いから襟元を開けているんだが
蓮加からしたら、サッカーしたさに毎回体調を顧みず外に出ている○○が心配でしょうがないんだ
智也:ありゃ、夫婦だな
昌輝:いや、まずどっちかが告白してカレカノになってからだろ
智也:いや、そういうことじゃなくて
遠目で見ている智也や昌輝にさえ、夫婦の会話のように見えるようだ
○○:大丈夫、大丈夫
これがあれば
貰ったペットボトルを見て言う
蓮加:もう…
風邪ひいたら、見に行ってあげないからね!
○○:わかったよ、風邪ひかない
その宣言を聞いて、蓮加は満足したのか
頑張ってよ
と伝えて家に帰っていった
○○:よ〜し、軌道を重視したパスを練習しよう
智也:いいのか?練習見てもらわなくて
○○:蓮加は、昔からよく見ててくれたし
蓮加も何かと忙しいでしょ
こういうところは、少し大人なんだよな
と智也は心で呟きながら
○○の意気込んだ蓮加を見ることにした
昌輝:智也、俺は何すればいい?
○○の練習を横で見ていた智也に、昌輝は聞いた
智也:ベンチのとこに俺のボールあるから…
俺が高く上げたボール、走りながらトラップするってのはどうだ?
昌輝:いや、さっきの○○にいったこともそうだけどよ
それって、コーチがよくやってる練習と同じだよな?
昌輝は、智也が出してる指示がクラブチームでの練習とほとんど一緒だということに疑問を持っていた
智也:○○と昌輝の場合、それをまだやる必要があるってことだよ
昌輝:…まあ、そういうことなら
昌輝は、とりあえず智也の意見に従って練習することにした
そして、迎えた
秋のクラブチーム大会
朝起きて、少しだけ気だるさのあった○○は
とりあえず熱を測ってみることに…
そこで出た数字は…
○○:げっ、37.6℃
まずい、風邪ひいた…
このときの○○は、試合に出られないうんぬんや
昌輝や智也なんかのチームメイトに迷惑かけるうんぬん
は考えもせず
蓮加が見に来てくれないかもしれない
ということにとても危機感を覚えていた
○○:と、とりあえず
ご飯食べよう
熱だけであとは元気かもしれない…
○○はそう考えて朝ごはんを食べにリビングに
○母:珍しく遅かったわね
○○:ちょっと興奮してきちゃってさ
○母:まあ、いいけど
早く食べちゃいなさい
母からはそれくらいしか言われず
意外と朝ごはんも食べ切れた
○○:これは…いけるぞ
頭は痛くないし、力も入る
熱だけだった
○○は喜んでユニフォームに着替えて、父の運転する車に乗り込む
○父:くれぐれも怪我だけはしないでくれよ?
母さんに合わせる顔がないから…
○○:わかってるよ!
それに、俺今日めっちゃ元気だし!
少しだけズレた言葉を口にした息子に対して
○○の父は、もしや…
と思った
○父:お前、熱とかないよな?
質問してみると
○○の顔が一瞬暗くなったのがミラーから見えた
○○:ないよ、大丈夫
遅れて○○からの返事がきた
○父:…まあ、とにかく怪我だけは、な?
○○の父は、何があったら自分が止めればいいと考えて止めはしなかった
これを後悔することになるんだが…
昌輝:お、○○来たぞ
コーチ:よしっ、○○が来たら一回みんな集まって作 戦会議だ
○○は、基本いつも最後くらいに来る
それはもうお約束になっていた
○○:遅れました〜
コーチ:よ〜し、一旦集まれ
コーチはチームメイトたちを呼び集めた
コーチ:初戦から油断せずにな?
集中しろ?
初戦で当たるチームは○○たち三人が、林間学校中に対策を考えていたチームのだ
コーチ:守りが固くて、カウンターが怖いチームだが
作戦は智也の立案に、一回乗ってみようと思う
智也に視線が集まる
智也は、少しだけ誇らしげな顔をした
ただ、昌輝はあまり良い顔をしていなかった
元々、作戦の原案を考えたのは昌輝だからだが…
○○:昌輝、そんな顔すんなって
ガツンって、作戦決めてやろうぜ?
○○がすぐ励ましに行ったことで、昌輝は一旦リセットできたようだ
コーチ:目指すはメダル!
勝つぞ!
“おー!!”
大会は、もうすぐ始まる
蓮加:あ、おじさ〜ん!
蓮加は、○○の父を自分が取っていた特等席に呼んだ
○父:おぉ、蓮加ちゃん
いいとこ取ったね
蓮加の横の段差に腰掛ける
大会の会場は、とても大きな公園
というか、芝の生えた空き地のようにも見える
保護者は、階段のところや
盛り上がった段差のところに陣取って子どもたちの活躍を見ることになる
蓮加は、事前に○○からどこのフィールドで試合をするのかと聞いていたので
○○チームのベンチがある方の段差に腰掛けていた
○父:これで近く応援ができるね
蓮加:へへ、ですね
そこへ○○が寄ってきた
○父:ほい、これ飴だ
今のうちに舐とけ
父から飴を受け取って、口に放り込んだ
そこへ智也が来て
智也:頼むぞ、○○
昌輝と俺と○○で勝つ
○○:まかしとけ!
智也に出された拳に、拳を合わせた○○
その後不意に、後ろから
蓮加:○○、調子乗らないこと
いい?
蓮加が指摘してきたが
○○:大丈夫、蓮加が見てなかった内に
俺だって成長してるから
○○はそう返した
蓮加は、その○○がカッコよく見えて何も言葉にできなかった
○○:よしっ、行くぞ!
○○の試合が始まった
最初は中盤近くでの小競り合いが何回も起きていたが
智也が勢いよくボールを奪うと、一気にチームメイトが上がっていく
智也:○○っ!
智也からのバッグパスが○○のもとに通った
○○:昌輝っ!
そのまま走り込む昌輝に○○はパスを出す
少しだけ距離が足らなかったが、昌輝が上手く合わせたことでパスは通った
しかし…
昌輝:あっ
すぐに昌輝の持ったボールが奪われてしまった
智也:なっ…
智也もそれには驚いた
そして、今度はすごい勢いでカウンターが○○たちを襲う
まだ体力があるからか、浅く上がっていたMFたちは戻ってこれたが
キーパーやセンターバックからは、人と人が重なって上手く見えていなかった
智也:やばいっ…
キーパー!左だ!左に飛べ!
シュート体勢に入ったのが見えた智也は叫んだ
ただ、ボールのもっと近くにいた○○にはそれ以外の情報が見えていた
後からもう一人来ている…
フェイントだと
ただ、○○は叫べなかった
もうシュートが放たれていたから…
案の定、フェイントからのシュートが決まった
智也:あぁ、まじか…
智也は少し落ち込んでいるように見えた
○○:取られた点はしょうがない
とりあえず、前半で1点返してこ!
と○○はみんなに向かって言うが、それに肯定したのは
昌輝ふくめ、三.四人しかいなかった
1点取られる前に取る
それだけが勝つ道だと硬く考えていたほかのチームメイトの顔からは早くも諦めの色が見えた
○○:…智也、まだ負けたわけじゃねぇだろ?
そんな落ち込むなよ
智也:あぁ…
智也はボールをもらって、センターラインまで行くが
まだ落ち込んだ顔をしていた
…もう俺でやるしかない
○○は、そう心に決めた
笛が響いて、昌輝にボールが渡る
すると…
○○:昌輝、1点返しに行くぞ!
と○○が昌輝に叫んでボールを要求した
昌輝:よしっ、行くぞ!
○○にボールを渡すと、昌輝も防御の間に走り込んでいく
その後を、重い足取りで他のオフェンス陣も追いかけてくる
ただ、○○が中々ボールを渡せず進めない
昌輝:○○っ
昌輝は上を指さした
○○は昌輝の方にボールを上へ蹴り出した
少し無理なクロスになったが
昌輝は、根性でディフェンスを掻い潜ってヘディングシュートを決めた
○○:よしっ!
昌輝:ナイスパス!
昌輝と○○はハイタッチして自陣に戻る
そんな時、○○の視界が揺れた
○○:あれ……っ
○○はここで、自分が高熱だったことを思い出した
○○:あはははっ…まずいなぁ
○○はゆっくりと自陣に走っていった
○父:おいおい…あいつ
まだ前半の半分がやっと終わった頃だぞ
蓮加:○○がどうかしたんですか?
○○の父のぼやきに、蓮加は鋭く反応した
○父:あ…いや、あいつ少し熱っぽくて
蓮加:は、はぁ〜!?
蓮加は○○の方を見る
ボールを持ったはいいものの、ふらついていた
蓮加:○○っ!
右!
蓮加は咄嗟に、○○に指示を出していた
○○:あ…やばいな…
目が回って、まともにどこに誰がいるのか…
辛うじて取ることのできたボール
それをドリブルしようにも
視界がくらくらしていて、進めない
そこへ
蓮加:○○っ!
右!
という声が…
○○:…蓮加だぁ
○○はおぼつかない足でドリブルし始めた
ふらつきながら、相手の選手をかわしていく
そして、チームメイトも段々と○○の異変に気付き始めていた
智也:おいおい、あいつ…
昌輝:あんなふらついた足で…
まさか
○○は体に染み付いた感覚と
音だけで相手陣内に切り込んでいた
昌輝:…○○があの状態ならすぐ交代だろ?
2点目入れねぇと
マークをなんとか外してボールを呼びたい昌輝
しかし、マークが外れない
智也:○○っ!
右斜め前だ、思いっきり蹴れ!
智也は、○○に叫ぶとその位置まで走る
○○:ともぉ…頼んだぁ!
シュート並みのパスが飛んでくる
それをトラップなしでシュートした智也は
自分のシュートがネットを揺らしたことを喜んだ
○○:やったぁ、
○○はそして、その場に倒れた
○父:あいつ…無理しやがって
○○の父は、○○をおぶるためコート内に走っていった
蓮加:はぁ…バカ
蓮加はおぶられて帰ってきた○○に向かって
そう言うと
蓮加:治るまで、毎日お見舞しに行ってあげるから
帰るよ?
と○○の耳元で囁いた
○○:かえぅ…
えんかだいすき…
○父:きっと、蓮加ちゃんにカッコいい姿
久しぶりに見せたかったんだと思うんだ
許してやって?
蓮加:…はい
蓮加は少し頬を染めながら○○の父の運転する車に乗った
○○の横で、ずっと○○の背中をさすっていた
○父:…こりゃ、いい夫婦になるわ
○○の父親のぼやきは、聞こえたんだが聞こえてないんだか…