初めて会った日から何周か回って恋をした 5
体育館に近づくに連れて
体育館の声や音がよく聞こえる
◯◯:なんか、おもしろくなってきたな
◯◯は小さい頃から、あまり緊張というものを知らないで育ってきているためか
こういう初めての場所でやることにも
恐怖感や、緊張からの不安感ではなく
興奮なんかで満たされていた
一方蓮加はというと
蓮加:……うぅ
いつものお転婆な性格がなりを潜めて
萎縮した顔で、下を向きながら歩いていた
蓮加:うるさいし、こわいよぉ…
どうも、体育館からくるマイクの音やBGMの音量が大きくて怖いらしい
保護者は体育館に集まり出し、刻一刻と新入生である自分達の子供の入場を待つ
◯母:ったく…
もう始まるのに、なんで来ないのよ
中盤の方に場所を確保した◯◯の母は
さっき外に出て行くついでに探したものの、◯◯の父が来ないことに苛ついている
◯◯の父が遅刻したりするのはいつものことらしいのだが
一生の思い出にも残る入学式に来ないのは
確かに、いかがなものか…
先生:じゃあ、いくよ
みんな笑顔でね
体育館の扉のすぐ近くで、先生がクラス全員に伝える
大体の子は、そもそもワクワクしていて最初から笑顔なのだが
蓮加:えがお…
自分の頬を上げる蓮加だが、いまだに怖さが抜けず
声が泣くときに近い
そうこうしている内に、1年1組の入場が始まり
次は◯◯たちの2組になろうとしていた…
蓮加:え、がお…
おへんじげんきに……
蓮加は不安を押し殺すように呪文のように繰り返す
しかし、というか
当たり前だが、それで推し殺せるわけがなく
蓮加:ん…んう…
蓮加が泣くかと思われた入場直前
体育館の反対の入り口で、1人の男性が先生に
仕切りに入れてくれと頼んでいる姿があった
その男性を見ると、○○は
◯◯:とうさん!
◯父:お、◯◯
ほら息子がいるわけだし…
先生:いや、入場時間を過ぎていますので…
息子さんがいるいないの問題ではなく…
◯父:ん〜
しょうがない外で待ってるか
早く出てこいよ、◯◯
◯◯:あいよ!
側から見れば、ただの父子の会話
しかし、蓮加からすれば
蓮加:◯◯くんの、パパ…
◯◯くん…いるんだ
まるで精神安定剤のように働く
◯父:じゃあ、頑張れよ
2人とも、な
◯◯:2人…
ん!?
急に◯◯が後ろを振り向き、
◯◯:れんかちゃん!
と大きく手を振った
蓮加:ん、
言葉は出さず、◯◯にただ手を振りかえす蓮加
先生:さ、入場よ
微笑ましいやりとりに、担任の先生も笑みを湛えながら
クラスみんなに言った
さぁ、入学式だ
○○:えへへへっ
体育館から帰ってきて、一通りの自己紹介を終えた○○は
先生の解散の指示があると、真っ先に蓮加の机にやってきた
○○:れんかちゃん、おなじクラスだねぇ…
蓮加:そうだねぇ
れんかすごくうれしい!
○○:ぼくもうれしいよ〜!
この時既に、バカップル
というか、見せつける系のカップルの片鱗はあったようだ
○○:あ、そうだ
れんかちゃん、えがおキラキラしてたね!
思い出したように、乗り出していた身を更に乗り出して言った
蓮加:そう?
えがお、れんかのチャームポイントなんだぁ〜
と頬をつつきながら、○○に笑って見せる
○○:かわいい〜
と手で頬を撫で、さらには
チュッ…
蓮加:へっ…
○○:ふふふっ、やわらか〜い
とんでもないことをしておきながら、○○は笑顔で変わらず蓮加を見つめている
蓮加の場合、自分からキスをしにいったことはあるが
されたことは皆無
つまり、耐性がないわけで
蓮加:あっ、あっ……
○○:ん?
どうしたの?
○○は蓮加の様子が変わったのを不思議に思って見つめている
蓮加:そ、そんなみつめないでぇ〜!
○○:ちょっ…
なんでにげるのぉ!?
数分、二人の追いかけっ子は続いたそうです
そして、先生や親たちに連れられて外に出て
○○:れんかちゃん!
いっしょに、しゃしんとろ?
蓮加:いいよぉ〜!
ね、ママいいでしょ?
子供達だけで盛り上がっていて
取り残されていた両母親は、顔を見合って
蓮母:撮りますか
○母:そうですね
と探り探りではありつつ、写真を撮ることに
○母:あれでしょ?
お父さんと○○が会った女の子
○○:そうそう、かわいいでしょ?
と上目遣いの○○に見つめられる母
○母:えぇ、かわいいわね
とっても無邪気で
と答えた
蓮加:○○くんと、おしゃしんだって
やったね
と跳ねながら母に言う
蓮母:嬉しいわねぇ
撮りたがったもんね
微笑みながらカメラを構える
蓮母:あれ、入られないんですか?
○母:えぇ、二人が楽しければいいかなと
蓮母:あぁ、それもそうですね…
じゃあ、いくよ〜
はい、チーズ
そう、ここで撮られた写真こそ
二人の新居に飾られている写真である
一応、○○の母が撮ったのもあったのだが…
その話は今はまだ…
○○:じゃあねぇ、れんかちゃん!
蓮加:じゃあね!
手を振り合って別れた二人
○○:そういえば、とうさんいなかったね
○母:いつものことじゃないの
○○:それも、そうか
蓮加:○○くんのお父さん、外にいなかったんだよね…
蓮母:何かあったんじゃない?
蓮加:んぅ…
“なにがしたかったんだろう”
○父:へっ、クション!
こら、噂されたな…
看護:先生、まだ診察終わってませんよ
○父:はいよ、今行く
…成功したかね…
夕焼けの空を眺めながら、○○の父は診察室へ入っていった
○○:かあさん、ちょっとボールけっててもいい?
家に着きそうになると、○○は母に聞いた
○母:う〜ん、いいんじゃない?
ボール蹴るの好きだものね、○○
○○の頭を撫でて、言った
○母:ただ、服を脱いでからにしなさいよ?
転ばれたりしたらたまらないから
○○:は〜い
家に着いて、まっさきに服を脱いで
ボールを持って走っていった
○母:ほんと、好きねサッカー
誰に似たんだか…
呆れるように礼服をハンガーに掛けながら呟いた
蓮母:こら、蓮加!
そんな乱雑に脱がないの!
蓮加:だって、ちょっとあついんだもん!
蓮母:だからって…
ほんと、蓮加は
蓮加はそんな母のぼやきに聞く耳を持たずに
鏡の前にずっと立っている
蓮加:キス…
ねぇ、なんかずっとキスされたままなんだけど!
ねぇ、ママ!
なんともかわいいやり取りが蓮加宅では繰り広げられていた
そんな二人の小学校生活が始まりを告げた
まだまだ二人の話は始まったばかり