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初めて会った日から何周か回って恋をした 29

◯◯が手にしたアルバムは、中学生の時に撮られた写真が収められているアルバムだった


蓮加:うっわ…笑顔ぎこちな

◯◯:ちょっと気味悪いな、この顔


二人は、過去の己の写真を見て毒を吐いた


蓮加:え、これって入学式…じゃないよね

◯◯:流石に卒業式だったともうけど…
  あ、ほら入学式のはこっちだよ


◯◯が指した写真には、満面の笑みの二人がいる


蓮加:すごい変わりようだね…

◯◯:容姿はどっちも大人になってるけど…
  うん、ほんとこの時は辛かったな


呟く◯◯の目をみる蓮加

その目には何の感情が映ってるのか




小学校を卒業して約一月…

迎える中学校の入学式



晴れやかな空の日に、晴れの日を迎えられることに感謝して

僕は真新しい制服に袖を通した


このときの僕の胸の中には、新しい中学校という場所でどんな事があるのかというワクワク感と

蓮加の制服姿見るの楽しみだな、というドキドキで埋め尽くされていた


部屋から出て、朝食のためにリビングへ行くと

既に父さんは仕事に行ってしまっていた


◯◯:ほんとに入学式来ないんだ

◯母:忙しいらしいから
  ほら、早く食べちゃいなさい


俺の席の前に出されている食事を見て母さんは言った


入学式の前だからと言って母さんは慌ただしく動いてはおらず

淡々とやることをこなしている姿を見て、母さんは母さんだなと改めて思いつつ

こういうことを思うのも、中学生になるからかな…と感じた


◯母:あ、そうだ
  知ってるかもしれないけど、中学でクラブチームに所属している生徒は…

◯◯:部活には所属できない、でしょ

◯母:そう、くれぐれも乱入とかしないでよ?

◯◯:しないしない、そんな小さい子じゃあるまいし


母さんに鋭く言われたことに、俺は笑って返した

いくら自由奔放な俺だからといって、そんなマナーのない行動はしない


◯母:昔っからそういうことする子だったから
  それに、あの人の子供だし…

◯◯:…父さん何したんだよ


時々出てくる、あの人の子供っていう発言に俺は呟いた

もしかしたら、父さんって場の空気が読めない人なんだろうか

そんな風にこの時は思った


◯◯:ごちそうさま!
  じゃ、準備終わったら行くね

◯母:はい、いってらっしゃい


部屋に戻って俺は持ち物を確認した

上履きは勿論、必要な書類とか諸々…


◯◯:よし、行きますか!


晴れやかな空の下

俺は新たな生活を送り始めようとしていた



一方、準備が遅い蓮加はというと


蓮加:んぅ…おはよう


意外にも、早起きしてリビングにやってきた

これには、両親ともに驚き


蓮母:早いわね、蓮加…
  もしかして楽しみで寝れなかったとか?

蓮父:いや、多分中学生になるから
  そういう意識が芽生えたんだよ


本人を置いてきぼりにし、二人の間で話が盛り上がってしまっている

が、蓮加は眠たくてそんなことを気にしていなかった


蓮加:ママ…ご飯

蓮母:あぁ、ごめんなさいね
  今パン焼くわ


眠気により少し不機嫌に聞こえる蓮加の声で、両親は盛り上がっていた話をやめ

朝食を再開させた


ちなみに、蓮加が早く起きてきた理由は…


蓮加:◯◯と一緒に登校する前に、制服に慣れておかないと…

という理由だったらしい


何はともあれ、蓮加は朝食のパンをゆっくりと

眠気と戦いながら食べていく


やがて、父の出勤の時間になり

父と簡単な挨拶をして見送った頃には、ぱっちりと目が覚めていて

今から始まる中学校生活にワクワクをつのらせていた


蓮加:ママ、れんか何の部活に入ろうかな〜

蓮母:それはじっくり悩んでいいんじゃないの?
  最悪兼部できるなら兼部してもいいと思うわ

蓮加:兼部かぁ…


漠然と運動系の部活がいいと思っていた蓮加は、頭の中で想像を膨らませた

どれも自分が活躍する姿を、◯◯が見てくれている想像だ


蓮加:いひひっ

蓮母:あ、なんかよからぬ想像してるわね?

蓮加:してないよ〜だ


こうして蓮加は、待ち合わせの時間まで母と楽しく会話しながら

家を出発していった



待ち合わせ場所は、小学校の時と変わらない場所で


◯◯:お、来た来た

蓮加:ごめ〜ん待ったでしょ

◯◯:ん、全然
  ちょっとだけだったし


◯◯はそう軽く答える

そして、すぐにその視線は蓮加の制服に集中する


蓮加:ん?どうした?

◯◯:いや、なんというか
  似合ってて、大人っぽいなぁって


少し照れながら言う◯◯の姿に、蓮加は珍しく思ってニヤッと笑い


蓮加:もしかしてさぁ…見惚れちゃってる?

と◯◯に聞いた


◯◯:うん…可愛いというか、大人っぽいよ

蓮加:やったぁ!


はにかみながらの◯◯の言葉に蓮加はすごく嬉しそうに飛び跳ねた


後にわかることだが、◯◯は制服を着た女子自体が好きらしい


◯◯:さっ、入学式で遅れたらまずいし
  早く行こ

蓮加:そだね


気を取り直して◯◯は蓮加に伝えて二人仲良く中学校へ歩いていく

少しダボッとした制服に身を包んでいるからか、とても初々しいカップルに見える


◯◯:もう少し身長伸びれば、ズボンぴったりになるのかな

蓮加:蓮加のブレザーも袖ちょっと長いんだよね
  まあ、これはこれでいいけどさ


袖の端を持って◯◯に向かって手を振る

その姿も◯◯の心には刺さるらしく


◯◯:かわいぃ…

蓮加:へへ、でしょ?


いつにもまして誑しの◯◯が発動している


◯◯:てか蓮加さ

蓮加:ん?

◯◯:また同じクラスだから、席近くがいいね

蓮加:たしかに〜
  ◯◯出席番号何番?

◯◯:24かな、りだし後ろなんだよね

蓮加:私30だから、もしかしたらすぐ近くかも


こんな風に話していると、小学校よりも集合場所から近いからか

中学校の門に着いた


蓮加:意外と早いな、着くの

◯◯:まあ、歩幅も大きくなったしね

蓮加:あ〜、たしかに?

◯◯:じゃ、改めて…
  中学三年間もよろしく


◯◯は手を出した

蓮加は◯◯の顔を覗き、◯◯が微笑んだのを見て

蓮加も微笑み、◯◯の手を掴んだ


蓮加:れんかこそ!


こうして◯◯と蓮加は入学式に向かっていった



入学式の、あの長くて退屈しそうな話

でも、どこか新鮮で背筋の伸びるような空気感

それに押されて、◯◯はずっと耐えて式を終えた


蓮加:…◯◯、寝た?

◯◯:いいや、寝てない

蓮加:ほんっと◯◯は真面目だねぇ
  れんかちょっとしたら寝ちゃったよ


教室に帰る道中の廊下

蓮加は◯◯と会話していた


それを後ろから眺める影が二つ


智也:入学式から熱いねぇ…

昌輝:だな…
  まあその内、俺にも彼女できると思うけどな

智也:どの口が…


ニヤニヤと笑う昌輝に肘を入れる智也

この二人もまた◯◯と楽しい日常を繰り広げていくことだろう


◯◯:まあ、でもあくびはたくさんしたかも

蓮加:眠たくなるよね〜

◯◯:ね、

蓮加:あ、その顔入学式で眠たくなるのはあんまり良くないんだよなって思ってるでしょ

◯◯:え…何で…?

蓮加:顔に書いてあるよ〜だ
  れんかにはお見通しなんだから

◯◯:敵わないなぁ


そんなこんな、仲良く話している二人の目に一人の女子生徒が目に止まった

廊下に屈んでずっとそこにいて、若干体が揺れているように見える


◯◯が蓮加に耳打ちした


◯◯:なんか、あの子泣いてない?

蓮加:だよね…
  声、かけたほうが良いかな

◯◯:うん、たぶん…
  でも、俺が声かけるよりも

蓮加:れんかだよね
  わかってる、いってくるね


トコトコと蓮加がその女子生徒の方に向かっていった


蓮加:もしも〜し
  大丈夫?


蓮加が優しく声をかけると

女子生徒は顔を上げて蓮加の顔を見た

やはり、その目には涙が溢れており顔も少し濡れていた


蓮加:どうしたの?
  何か無くしたとか?親がどっかいったとか?


あくまでも蓮加は優しく、圧をかけないように声をかけ続ける

何回目かの声かけで、女子生徒は口を開いた


??:…人が…多すぎて

蓮加:ひ、人が多すぎる?

??:ももこ…こんなに学校に人がいると思わなくて…

蓮加:…桃子ちゃん、っていうの?

桃子:うん…

蓮加:桃子ちゃん、人が多いと怖い?

桃子:怖い…


蓮加は桃子が人が怖いと言ったので、◯◯を手招きして呼び寄せた


◯◯:どうかした?

蓮加:人が多いのが怖いみたいだから、私一緒にいてあげることにするから

◯◯:ん、わかった
  じゃ、先行ってるよ


短い会話ながら、蓮加の言いたいことがわかり

◯◯は頷いて一人、先に教室に行った


蓮加:とりあえず、れんかが落ち着くまで一緒にいてあげるね

桃子:蓮加ちゃんっていうんだ…
  ありがとう
  

桃子は少し安心したように、蓮加に礼を言った

ゆっくりと、人が廊下を通過していく


少し二人の間に沈黙が流れて、蓮加が口を開いた


蓮加:そういえば、桃子ちゃんは何組?

桃子:ももこ、三組

蓮加:え、三組!?
  れんかと一緒〜!


蓮加は笑顔を弾けさせて桃子に言った

その笑顔に桃子は初めて、くすっと笑った


蓮加:ん?どうかした?

桃子:ううん…蓮加ちゃんの笑顔
  なんか可愛いし、太陽みたいだなって

蓮加:…そう、かな?


◯◯以外にそういうことを言われるのが初めての蓮加は照れてしまう


その後少し会話して、人がまばらになった頃

蓮加は桃子の手を取って、三組の教室に歩き出した



ここで、蓮加の生涯にわたっての親友の一人と出会ったのだった



◯◯:大園さん、緊張強いなのかな?

蓮加:さぁ…
  でも、笑うと可愛いんだよ


自己紹介等々が終わり、早々に帰宅となった◯◯たちは

母たちに許可を取って、門の前で写真を撮影した後

一足先に家路についていた


◯◯:でも、新しい友達だね
  蓮加のさ

蓮加:そうだね
  でも、何で◯◯が嬉しそうなの?


ニヤニヤしている◯◯を見て蓮加は笑いながら聞いた


◯◯:なんか感慨深いなってさ

蓮加:何それ、家族じゃないんだからさ

◯◯:確かに家族ではないけど
  ずっと蓮加のこと見てきたから、かも


かも、のところで微笑む◯◯に蓮加はドキッとして顔を背けた


◯◯:どうした?

蓮加:な、なんでもない!

◯◯:え〜、きになるな

蓮加:なんでもないも〜ん!


急に走り出した蓮加を追いかける◯◯

今はまだ、純粋な交際が続いていた


…そう、今はまだ

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