おこちゃま系彼女 Ⅱ
茜色の空から、甘いような光が窓から差す
人にはどうも腹をすかせると、甘いものを食べたくなる習性があるようで
現に、駅から出て腹の虫の暴れに耐えかねた俺は
手からプリンアラモードの入った袋が下がっている
○:帰ったよ
冷たいノブを下に押し、扉を開けた
目の前に、まるで餌を待つ犬か猫のように
玄関で待ち構えた彼女
理:遅いじゃん
○:そう思うなら、料理できるようになりなっての…
袋を預けて、上着をベッドに放り投げる
○:要望
ぶっきらぼうに聞くと
理:リゾット
チーズ増々
○:今度一緒にどこか行こうな
理:やったね
○:運動不足解消のため
理:ケチめ…
こんなのも、また日常で
俺の作るご飯以外は、どうも受け付けないらしく
理:外食は極力しない!
と言い張るほど
○:まあ、そうさせた俺も悪いけどねぇ…
理:まだ〜
○:起きてると催促してくるから嫌い
理:酷いぞ〜
トマトの加熱した、あの甘くてどこか酸い匂い
そこにご飯を突っ込む
○:サニーレタス食べる?
理:プリーズ トゥ キャロット
○:You not rabbit
理:無駄に発音いいのムカつく…
○:誰かがいなきゃ、留学してたからね
理:誰だろうね、人の留学止めさせた
可愛い彼女は
カタンと、ヘラを縁に置く
○:人参生で食わせるぞ、おい
理:冗談だよ
自分で可愛いとか言わないから
よしっ
と呟いて、またフライパンに向かう
会話をはさみ
またはさみ…
○:ほん、
熱いから気をつけて
理:どうも…
あ、プリンアラモードは?
○:ご飯のあとで
楽しみはとっとくもんよ
理:お母さんが子供に言うみたいで
嫌だ
○:そういうところだっての…
はい、手を合わせて
後ろに回って強引に手のひらを合わせる
○:いただきます
理:人を子供みたいに扱うんじゃないぞ…
ボソボソいいながら、スプーンを口に運ぶ
○:美味いなら美味いと言え
拗ねた様子の彼女に言うと
理:…それなりに
○:二度と作らねぇ…
理:ごめんなさい、ふざけました
○:俺との関係はご飯作ってもらう関係なのか?
理:心を癒やしてくれる関係です
大真面目に答えるところ
まだ変わらないなぁ
なんて思って己のスプーンを口に運ぶ
理:プリンアラモード、ほんとすきだね
○:喜んで食べるのはどこの誰?
ベランダで紺碧の空を眺めながら、二人で食べる
理:さくらんぼあげるからね、キウイ頂戴
○:はいよ…
スプーンがお互いの容器を行き来する
○:風呂、ちゃんと入りなよ
理:仕事の前日に入らなかったことある?
○:高校の時に、髪を必死に濡らして誤魔化してたけど?
理:それは言わないお約束
面を向かわせなくても、どんな顔してるのかわかるのは
付き合いの長さだけじゃないはず…
○:髪乾かすまでは起きててあげるから、早く入ってよ?
理:一緒に入ってもいいんじゃないの?
○:今日は色々とお疲れ気味ですが
よろしいので?
理:そっちがいいのなら
空になった容器を持って、水場にそれを置きに行く
温もりと、爽快さを求めて風呂場に行く足は
二本でなく
四本で