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ふわしゅわお嬢様はご執心 6

桜:乾杯〜!

◯◯ちゃんたちと合流して、一通りご挨拶が済んだので

私の声でみんな手に持っていたコップで乾杯した


本当は◯◯ちゃんと2人きりでお花見するつもりだったけど

まあ、結果オーライかなと思った



和:で、何話すの

みんなが飲み物を口にしたあと、すぐに沈黙が来て

和がそれを破るように言った


美:じゃあ、とりあえず
 許嫁になった理由話すっていうのはどう?

秀:それはとても気になるな


美空の提案に瀧山くんも乗ったので、私は◯◯ちゃんをチラッと見てから軽く説明することにした


桜:あれはね、今から大体11年前
 6歳になったばっかりの花火大会の時


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

桜:◯◯ちゃん、ほら早くいかないと料理なくなちゃうよ?


◯◯ちゃんパパママの仲人だった私のおじぃちゃまおばぁちゃまによく預けられてた私は

夏が近づくと◯◯ちゃん家の近くで見られる花火大会に行くのが恒例になってた


◯:ちょっと、待ってよ桜ちゃん
 走って転んだら危ないって


◯◯ちゃんは、頼りないと言うかナヨナヨ系というか

私の方がしっかりしてるってよく言われてたんだよね


桜:大丈夫!
 確かにちょっと歩きにくいけど、全然走れるもん


その日は浴衣を着せてもらってたから、確かにちょっと歩きにくかったんだけど

私はそんなことよりも早く行きたいっていう気持ちが大きくて、◯◯ちゃんを急かしてた


一緒に大人たちがいるところまで向かっているときに、◯◯ちゃんは暗がりでビクビクしてて

すごい可愛い、じゃなかった

頼りない感じだったんだけど


桜:もう、◯◯ちゃん
 早く行かないと


私が◯◯ちゃんの手を取って走り出そうとした時に


体が前に一気に倒れていったの

鼻緒が切れちゃったんだよね、あとから気づいたけど


それで頭とかぶつけて怪我しそうになったときに


◯:んっと…
 大丈夫?桜ちゃん


◯◯ちゃんががっしり私の腕を掴んで、そこから支えてくれたんだよ

もうあの時は感動した

泣きそうだったもん


で、そのことをおじぃちゃまおばぁちゃまに言って

花火大会を楽しんで


一旦帰る前に◯◯ちゃん家に寄った時に

許婚の約束をしたの


桜:将来、結婚しようねって


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


美:ふぅ〜
 なんかドラマみたいだね


美空がそうやって私と◯◯ちゃんを交互に見ながら言った

◯◯ちゃんは照れてるのか、飲み物を飲んでばっかり


秀:にしても、ほんとに許婚なんて存在するんだな


瀧山くんが隣の◯◯ちゃんを小突きながら言う

すると、◯◯ちゃんは


◯:最初はそれが許婚だなんて思ってもなかったし
 そもそも子供だけの約束だと思ってたんだよ

桜:それが、◯◯ちゃんパパママとうちのおばぁちゃまたちもおんなじ話をしてたから驚いたよね


和:つまり、なるべくしてなった許婚ってわけだ


黙って聞いていた和が総括するように言って、私はそれに頷いた


美:で、その後は?

桜:あ〜、まあ、その後は


美空の眩しい視線が痛く刺さる

その痛さは、単に好奇心が強いことによるものじゃなくて

思い出すと、あまりいい気持ちがしない話をしなければいけないから


◯:その後、小学校に上がってからも仲は続いていだけど
 小学校2年のときに桜ちゃん側に不幸があって、そこから桜ちゃんとは会えてなかったんだよ


◯◯ちゃんが私のなにかを悟ってくれたのか

私の代わりに説明してくれた

しかも、不幸っていう抽象的な言葉で配慮してくれたのもあって嬉しかった


和:それで、約10年ぶりに再開した許婚っていうわけか
 なるほどなるほど

美:なんかさっきから探偵みたいな口調になってるよ?


和の言葉に美空が突っ込んで、みんなが笑えた


やっぱり、こういうみんなで楽しむのも良いなって思えて

私は本来の予定とは違ったけど、よかったと改めて実感した


秀:じゃあ、ここからは中学時代の◯◯の話をしようかな〜

◯:何で僕の話題ばっかりなのさ


◯◯ちゃんは瀧山くんに言って話題を他のにしようとしたんだろうけど


美:え、気になる気になる

桜:ねぇ、なんでそんな美空が興味津々なの?
 私の◯◯ちゃんなんだけど!


美空が食いついちゃって、結局

そこからは◯◯ちゃんの中学時代の話になってしまった


ま、私も聞きたかったからいいんだけど



お花見が始まって、もう2時間ほどが経ち

段々とお腹の空いてきた僕たちは、桜ちゃんと井上さんの作ってきた軽食をつまみ出す


◯:え、何か桜ちゃんのお稲荷さん
 量が多くない?


井上さんの作ってきてくれたおはぎが、プラスティックのパック2つ分だったのに対して

桜ちゃんのお稲荷さんは、4つ分あった


桜:張り切ってたら作りすぎちゃって

美:そ、っか…
 まあ、そういうのも醍醐味だよね


桜ちゃんの笑顔での発言に、一ノ瀬さんは少し詰まりながらも答えていた

…なんで詰まったんだろうか


僕のその疑問は、桜ちゃんのお稲荷さんを食べてわかった


和:うぉ…チェレンジャーだ

美:ちょっと、そういうこと言わないの


2人が何やら小言でやり取りしてるのを見つつ

桜ちゃんの作ったものだし、食べないとなぁと思って口に入れたお稲荷さんは


とてもお揚げがしょっぱく

酢飯はもはや酢が効きすぎており

正直、すぐに吐いてもおかしくない味だった


桜:どう?◯◯ちゃん
 私のお稲荷さん、おいし?


目の前の桜ちゃんにそう言われ

横目で一ノ瀬さんと井上さんをみると

2人ともなんとも言えない顔をしていた


多分、一ノ瀬さんも井上さんも桜ちゃんが料理下手なのはわかりつつも

傷つけないように、あまりそういうことを言ってないんだろうと察した僕は


◯:う、うん…美味しいよ

桜:えへへ、よかった〜
 すごい心配だったんだよね、上手にできてるか


味見をしなかったのか

それとも味覚が僕の知らないうちに壊れてしまったのかわからないけど

これは飲み物でごまかすしかないな、と思った僕


秀:お、そうなのか
 じゃあ1つ貰おっと…


うちの友人が手を伸ばした時

2人は心配そうな目で友人を見ていた


正直にまずいと言わないかな、とか

吐かないかな、とか思っていそうな目だけど


うちの友人は、生粋のナンパ師

つまりは女の子が嫌な言葉は言わないのがポリシーだから

そんなこと言うはずがない


秀:ん〜、中々に美味しいね
 酢飯のパンチが効いてる

桜:え〜、そう?
 褒められちゃった〜


すごく嬉しそうな桜ちゃん

それを見てる分には僕も幸せなんだけど


秀:◯◯…これやばいな
 正直今すぐここで、のたうちまわりたいよ

◯:耐えてくれてありがとう
 とりあえず炭酸か何か買ってきな

秀:あぁ、元よりそのつもりだよ


ほとんど聞いたことのない友人の声、見たことのない顔

僕は何か申し訳なく感じた


秀:ちょっと炭酸買ってくるけど
 他に何か欲しい人いる?

友人はとても気が回る人で、こういうところをとても誇らしく思っている


◯:僕紅茶

美:私は何かジュース

桜:私も紅茶がいい!


友人の問いに、井上さん以外は答えた


秀:井上さんは?

和:私、自前のあるから大丈夫

秀:あ、そう
 川﨑さん、紅茶は微糖?無糖?普通のやつ?

桜:ん〜、微糖の気分
 あったらでいいよ

秀:オーケー


友人にとても感謝しつつ

目の前にある怪物お稲荷を食べなければいけないという地獄が僕には課せられており


桜:さ、◯◯ちゃん食べて食べて〜


楽しいんだけど、苦しくなってきそうな気がした

◯:うん、いただくよ



◯◯ちゃんを中心に、みんながお稲荷さん食べてくれて

完食してくれて私はとっても嬉しくなった


…なぜかみんなぐったりしてるんだけど


で、ひとまずみんな落ち着いたそうだからゆっくり桜を見て時間を過ごすことに


桜:◯◯ちゃんとお花見できてよかった


私は◯◯ちゃんに近寄ってそう言った

まだ大きくなる前に離れ離れになっちゃって、こういうこともやれていなかったから

今日できて満たされていく感覚があった


◯:僕もだよ
 まだまだ、あのまま続いていればやれることもあっただろうにね

桜:ね、
 あ、そうそうさっきはありがとう濁してくれて

◯:ん?あぁ、あれくらいなんでもないよ
 僕なんかより、桜ちゃん自身の方が辛かったでしょ?


◯◯ちゃんの、昔から変わらない

このどこか包みこんでくれるような優しさ、慈愛

そういうものが、私は昔から好きで


この優しさ、雰囲気があるから◯◯ちゃんに惹かれていったような気が

今はする


桜:ほ〜んと、◯◯ちゃんには敵わないや

◯:何それ


◯◯ちゃんは意味わからない、っていうような顔をしているけど

私がわかってればいいの


そう心でつぶやいて、私は◯◯ちゃんの肩に頭を預けた


細いように感じるけど、やっぱり男の子だからガッチリしてる感じで

安心感があって、すごく居心地がいい場所


預けた瞬間から少し経つまでは、驚きみたいな顔をしていたけど

段々と慣れてきたのか、私の頭を撫でたり、自分の頭を優しく私の頭に重ねるように傾げたりしてきた



秀:傍目から見ても、お似合いなカップルだよね

美:間違いない


後ろから何かを話し声が聞こえてくるけど

そんなの全然耳に入ってこない


だって、◯◯ちゃんとこんなことしてるから

もうドキドキが止まらなくて…



◯:ねぇ、桜ちゃん

不意に◯◯ちゃんが私を呼んだ


桜:ん?

◯:僕たちって、カップルなのかな?それとも違うのかな?


◯◯ちゃんは前を向きながら聞いていた

多分、前から聞こうとしてたんだろうな

それが何となくわかった


正直、私にも◯◯ちゃんとの関係はわからない

少なくとも友達以上

だけども、彼氏彼女かと言われるとまだそこまでじゃない気もする


◯◯いずれは、ちゃんと…


そんな想いがあって私は、こう結論を導いて◯◯ちゃんに言った


桜:お互い埋め合わせしたいところ、新しく作りたい思い出とかあるだろうから
 埋め合わせできたかなって思ったら、告白して?

◯◯ちゃんは虚を突かれた顔をして

すぐニコッとした笑顔になった


◯:わかった
 僕が桜ちゃんとの埋め合わせができたら、その時は告白するよ

桜:うん、待ってるずっ〜と

◯:ふふ、そんな待たせないと思いたいけどね



新学期前の桜の木の下

私と◯◯ちゃんは、再スタートすることにした


友達以上、恋人未満

ありきたりな言葉だけれど、私はそれが丁度いい気がする


普通の関係じゃないし、いつかは告白される未来がくることもわかってる


けど、私はワクワクで胸の高鳴りが止まることを知らない


これから高校生活の中で、ずっと過ごしたかった◯◯ちゃんとの青春が実現するんだから

こんな幸せなことなんてないよ


桜:最初に言っておくね
 大好きだから、◯◯ちゃんのこと

◯:僕も大好きだよ


2人同時に笑って、真上の桜の木を見上げる

ひらひらと風に揺られ、青空に映える桜の花が私たちを祝福してくれているように見えた


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