雫の轍 4巻
十二天将揃い踏みしての緊急会議が終わって数日
ある一人の十二天将の名を賜っている陰陽師が上級陰陽師たちに手紙を一斉に送った
その内容は
【鵯森の奥の山に怪しい存在が確認されている】
鵯森とは、○○が史緒里と出逢った場所であり
化け物と対峙した場所でもある
○○:さてさて、この山を登んなきゃいけないわけね
○○は、もうすぐ日が暮れるというような時間帯に数人と一緒に山に登って怪しい存在を確かめに来ていた
各々これから時間がかかるなと少しがやついていると
「何をグズグズしているんですか!」
と後ろから、女性の声が痛烈に響く
それに○○は余裕を持って笑顔で対応する
○○:あのねぇ、こんな勾配のある山をスイスイ全員が登れるけないでしょ?
「だったら飛べる人間たちを集めてくればいいじゃないですか」
○○:今日の当直は、白虎一門と太陰一門だよ?
朱雀から非番で借りてくるのかい?
「緊急事態なんですから、できるはずです!」
○○:やだよ、跋凛に貸しを作るような真似したくないもん
「私情を持ち込まないでください!」
すると、周りからこんな声が聞こえてくる
“流石師弟だな、仲がよろしい…”
“息ぴったりだな、ほんと”
○○:ほら、俺たちだけでやるよ飛鳥
愚痴ばっか言ってたって始まらないからね
飛鳥:はぁ…何でこういうときに当直が被るかなぁ!
飛鳥が癇癪を起こしたことを示すように、周りにつむじ風が起こる
○○:癇癪起こさないでくださ〜い
しかし、あくまでも師である○○はおちょくっていると言うか
気にしていない様子
飛鳥:もう、私上に行っちゃいますよ?
半ギレ気味の飛鳥は、○○の真横まで来るとそう言って
先程と同じようにつむじ風を起こして飛ぼうとしていた
○○:まあ、待てよ
今俺が結界作ってるから
○○が一つ声のトーンを下げて、鋭く言う
それを聞くやいなや
飛鳥の立ち上っていた髪がさっと元に戻る
○○:もう少しなんだよ
もう少しでこの山を覆うそうなんだ
○○は剣印と呼ばれる
親指、人差し指、中指を立てた手の形でずっと立っていた
その行動の意味は…
○○:よし…
大山結界!
○○が叫ぶと共に、剣印を下から上に上げると
青白い光の山を覆う直方体のものがそびえ立った
○○:よ〜し、これで相手方に悟られずに済むな
飛鳥、飛びたきゃ飛べ
飛鳥:言われなくとも…っ
風行…
飛鳥も剣印を結んだ
飛鳥の周りに大きなつむじ風が起こり、飛鳥の体が風に乗り上がっていく
○○:全く…
木が折れるんだっての
“○○様は飛ばないのですか?”
○○:俺は飛ばなくとも、早く上がれる方法知ってるから
よ〜し、みんな集まれ
○○は付いてきている数人を集める
○○:木行…
また違うものを唱えようとしていた
一方、○○の家に居候をしている史緒里は
馬弓と共に屋敷の外に出ていた
馬弓:…そろそろ来ますね
馬弓は神妙な面持ちで史緒里に言う
史緒:いよいよですか…
初めての実戦なので、緊張してきます
史緒里は腕を組んで一回身震いをした
馬弓も、史緒里も着物の袖をたすき掛けをしており
動きやすい装いをしている
馬弓:来ますよ、史緒里様!
馬弓が史緒里に向かって叫ぶ
馬弓の見ていた方向から、何やら羽の付いた猿ようなものが飛んできているのが見えている
史緒:ふぅ…
馬弓:全部は捌かなくて大丈夫ですから…
この白虎亭がある岩山には、○○様の結界が張ってありますので
史緒:でも、完全じゃないんですよね?
馬弓:はい、かいくぐってくる奴らを
叩いてください
そんな話をしているうちに、その羽の付いた猿のようなものがすぐそこまで迫ってきている
史緒里は、ほんの二日前に○○から教えてもらったことを思い出した
□
○○:じゃあ、これから自衛のための初歩の技を教えます
史緒:よろしくお願いします!
綺麗に頭を下げた史緒里
顔を上げると、○○は剣印を結んでいた
○○:まず君があの日、咄嗟にやったあれからね
○○は剣印を下から上にやった
すると、青白い立方体が○○の体を包みこんでいた
○○:これが簡易結界
よくみんな略して、簡結って呼んでるんだけど
史緒:あのときのやつ、ちゃんとした防衛手段だったんですね
○○:そうそう、結構初歩的なやつ
とりあえずやってみる?
○○は史緒里にそれをまずやらせようとしたが…
馬弓:○○様、霊気の話をしなければ…
と馬弓が口を挟んだ
○○:あぁ…霊気ね…
俺たち陰陽師は、霊気っていうのを元にこの結界とか五行の技を出したりするんだ
史緒:霊気って…幽霊とかが発しているあれですか?
○○:概ね合ってる
ただ、幽霊とかだけでなくちゃんと人間にも備わってるんだ
史緒:そうなんですね…
史緒里は興味深そうに頷くと、すぐに不安そうな顔になっていく
史緒:霊気って、私はどうやって出せばいいんでしょう?
○○:簡単だよ、想像すること
それだけで十分
史緒:想像…?
○○:自分が形を決められるし、威力とかも決められる
想像すれば、何でもできるんだ
史緒:イマジネーション…ってやつですか
史緒里の現代言葉に○○は首を傾げながらも
○○は言葉を続けた
○○:まあ、とりあえずやってみて?
史緒:…はい、わかりました
史緒里は目を閉じて、深呼吸をしてから
集中した目で剣印を結んだ
史緒:展っ!
腕を目一杯使って、剣印を上まで上げると
青い結界が形どられていた
○○:おぉ…うまいうまい
それに色綺麗だね
馬弓:○○様のように透き通って見える方は珍しいですよ
○○は勿論、馬弓も褒めている
史緒:ほんとに頭で想像したら、ポンって出てきました!
○○:成功体験っていうのは重要だからね
それじゃ、少しだけ進歩させたものを…
○○は、また剣印を結ぶ
すると、今度は少しだけしか結んだ手を上げなかった
○○:この板状のやつが、よく陰陽師が対人とかする時に使う盾みたいなやつで
正式名称は、板展っていうんだけど
○○は史緒里の方を見て言葉が止まる
史緒里の結界がまだ消えていないからだ
○○:あ、結界を消すやり方教えてなかった…
剣印を、そのまま下ろすと結界消えるよ
史緒:あ、ありがとうございます
史緒里は言われたとおりにして結界を消した
○○:とりあえず実践してみよ〜
史緒:展っ!
史緒里は上手く小さな盾のような板を作ることができた
○○:いやはや、筋がいいなぁ
馬弓よ、これは逸材だ思わんかね?
馬弓:いかにも…
史緒里様は、ずっとここにいてほしいくらいですよ
史緒:ありがたいお言葉です
史緒里は優しく二人の言葉にほほえみ
感謝の言葉を述べた
○○:よ〜し、それじゃあ次は耐久を上げていく練習をするぞ〜
史緒:お願いします!
史緒里は○○の訓練を熱心に受けていた
○○:お、馬弓と史緒里ちゃん頑張ってるなぁ
山に登りきった○○と数人は、自分の屋敷の方を見て呟いた
飛鳥:何やってるんですか、早く済ませますよ?
これだけが当直の任務じゃないんですから
○○:はいはい…
飛鳥はほんとに我慢ができないやつだな〜
飛鳥:人をおちょくってないで、早く!
○○は飛鳥に急かされて、渋々怪しい存在の目撃情報のある場所に歩き出した
しかし、○○は既に感じ取っていた
あの化け物と対峙したときと同じ、嫌な空気を