初めて会った日から何周か回って恋をした 11
爽やかな風が吹く
公園の砂を蹴る二人
少し肌寒くも、すぐにクラブに行く時間になるため
片方は半袖である
○○:とうさん!
大きく蹴り上げたボールが、父の方へ
○父:よっ…
無駄に力つきやがって
ボールを足で落として、止めた○○の父はそう毒づく
それを言われた○○は
にひひひっ
と笑顔で父のことを見ていた
○○は、日に日にキック力と動体視力か上がっていき
小さい歳の中では、結構上の方の実力になっていた
そんな○○のことを、蓮加は過剰なまでに褒め称える
そうやって、褒められながら力をつけていく○○を見て
父は、サッカーをやらせてよかったと思っていた
○父:ほら、いくぞ!
○○
ボールが高く飛び
木々の新緑と、空の青と、白い雲
そして、輝く日光
○○の目に飛び込んできた
それを、胸で止める
??:ヘイッ
○○!
呼ばれた○○は、手を上げた選手にパスを送る
○○:いけっ、昌輝!
昌輝、と呼ばれた少年は
○○のパスを受け取ると、颯爽と迫りくる相手を抜いていく
ただ、相手のディフェンスもやわじゃない
すぐに体を返して昌輝の前に戻ってくる
昌輝:…っ
やべっ
ボールをキープすることに精一杯になった昌輝
その横に、また一人の少年が
??:こっちあるぞ!
昌輝:頼む、とも!
とも、と呼ばれた少年
ボールをトラップすると、一直線にスピードでゴールを目指して駆けていく
そのスピードに、相手はついてこれない
このまま、シュート!
そう周りの皆は期待する
しかし、そんなに甘くない
バックがきっちりと固めたゴール前は
どうも突破できそうにない
スピードは落ちて、どうするかを考える
しかし、スピードが落ちれば
相手もボールを奪いにくる
二人がボールへと向かってきた
これは無理にでも…
そう考えたとき
○○:智也、上げろ!
後ろから声がした
智也の後ろから、キーパーから見えないように○○が上がってきていたのだ
智也:よしっ!
いけ、○○
真上に智也はボールを上げた
キーパーはそれを見て、そのままボールを取るためにジャンプした
キーパーは取ることを確信した
しかし、突如として現れた○○が
取るはずのボールをヘディングで、ゴールに落とした
そして、それは点として決まった
○○:よっしゃー!
智也:ナイッシュー!
昌輝:いや〜、うまく決めたな
おい
二人は○○の肩を揺らしたり、頭をもみくちゃにしたりした
コーチ:これで3点目ですね、5年チームは
少し離れたところから見ていたクラブのコーチが言う
その横には、監督がいた
監督:6年相手に、あの三人を中心によく戦ってるな
監督は感心しながら呟いた
そう、○○たち5年生は
6年生のチームとちゃんとした試合をしていたのだ
理由は、○○たち三人を使っているのを
6年生たちがよく思っていなかったから
6年生自ら、試合を申し込んだらしい
現在3:1
○○たちの5年生チームが勝っている
点を決めて、少しだけ浮かれる5年生チーム
しかし、その中で○○はあることを言った
○○:俺はこのまま下がり気味でいくよ
昌輝:おいおい、攻撃が最大の防御だろ?
○○がディフェンスに入ると伝えたら、昌輝はそれに突っかかる
○○は本来サイドハーフ
別にディフェンスに回っても問題はない
しかし、○○は得点力が高い
それをよく知っている昌輝は、攻撃に参加するように言ったのだ
○○:いや、なんか
先輩たち、目の色変わってるし…
智也:○○の言う通り
やる気になったみたいだから、○○は下がっていいだろ
昌輝:なんかよくわからないけど
智也が言うなら、いいや
昌輝は、時々言っていることが当たる智也の意見を聞いて
少しだけ不満そうにしながら、ポジションについた
智也と昌輝
この二人と○○の出会いは
小学校3年時
昌輝がクラブに入ったことから始まる
その時は、○○のことを少し下に見ていた昌輝だったが
○○の努力からきたボールの扱いの上手さ、天性の動体視力の良さ
この2つが、実力をつけていくごとにあらわになっていき
昌輝は○○の凄さに気付いた
昌輝:お前、けっこうすごいんだな!
○○:れんしゅうは、うら切らないらしいからね!
このとき、○○と昌輝は共にフォワード
ツートップを張っていた
この二人の攻めと、息の合ったプレーでちょっとした大会でもクラブは勝ち上がれていた
そんな折、少しだけ有名になったクラブに
智也が入った
転校生であった智也は、元々の地元のクラブでキャプテンを任され
プレーも上手かった
しかし、ここで3人の間にある問題が浮上した
○○、昌輝、智也
この三人、いずれもポジションがフォワードだったのだ
既にスタメンだった○○と昌輝
新しく入ったが、才能と実績は群を抜く智也
監督とコーチは一旦はスリートップにすることを考えた
しかし、そうはならなかった
○○:コーチ!
ぼくに、ミッドフィルダーのやり方教えてください!
と○○が言いに来たからだ
コーチ:○○、お前
ミッドフィルダーになりたいのか?
○○:はい!
もともと、ぼくがなりたいのはボールを一番長くさわれる選手なので!
○○の目は輝いていた
コーチ:監督
監督:ん…
それじゃあ、決まりだな
かくして、○○をサイドハーフに下げ
昌輝と智也のツートップ体制ができあがったのだ
ピーッ
笛の音が響いた
6年の先輩達が、一気に切り込んでくる
智也:やっぱり…
ほとんど全員でなだれ込む気だ
昌輝:おいおい…
そんなことされたら
バックの三人と、ディフェンスを任されたミッドフィルダー以外は全員上がっている
○○:多いな…
サイド締めよう
○○は、自分の方に先輩が来ていないことを確認して
ピッチの中心に走り込んでいく
しかし、6年の先輩たちのフィジカルやパスワークにチームメイトたちは押され
段々突破されていく
ゴールまでの壁が薄くなったところに、シュートが放たれた
キーパーは入り乱れた選手たちの影で初動が遅れた
これは決まったと思われたとき
○○:しゃ!
大きく飛んで、シュートを防いだ○○がいた
昌輝:おいおい、あいつキャプテン翼かよ…
智也:やることの無鉄砲さは、まさしくだな
二人は苦笑いをしつつも、走り出す
○○:カウンターだ!
○○は入り乱れた自陣を、他のサイドハーフと共に駆け抜け
前線の二人にパスを送った
昌輝:よっしゃ、いくぞ!
智也:ダメ押しだ、昌輝
少年たちの汗は、とてもキラキラとしていた…
蓮加:はぁ…
元気だね、ほんと
試合が終わり、少し遠くから見ていた蓮加は
○○の姿を見ながら呟いた
蓮加も、五年生となり
ルックスに磨きがかかっており
次第にモテるようになっていた
昌輝:…あ、
○○、彼女が見てるぞ
○○への蓮加からの視線に気づいた昌輝が、○○を冷やかす
○○:いやいや、彼女とかじゃないから
ほんとに
これに対して、○○も照れるように否定する
智也:ほら、行ってこいよ
嫁のところに
智也もそう冷やかし
汗で濡れた髪を拭いていたタオルをかけたままの○○を押し出すように蓮加の元へと送り出す
○○:…ったく、あいつら
毒づきながら、蓮加の元へ
○○:蓮加…
どう…だった?
恐る恐る
かける言葉を探るように言った○○
蓮加:まあ、いつもよりは
冷静なプレーだったんじゃない?
あんまり詳しいことは知らないけど
○○:そっか…
もっと冷静に動けるようにしないとなって思ってるんだよ
蓮加:頑張りなよ
それに、行くとこまで行ってくれないと
…その
そこまで言って、蓮加は口をつぐむ
○○:…あ、わかってるわかってるよ
がんばるから、おれ
○○は慌てて宣言して、すぐにチームのところまで戻る
蓮加:…ばか…
蓮加の声が夕焼けになりつつある空に放たれた
○○:あ〜、なんか蓮加の前だと変にきんちょうする〜!
帰宅後、自室でクッションに顔をくっつけながら叫ぶ
蓮加:あ〜!
何で○○の前だけ、あんなに冷たくなるんだろ
こちらも、自室で抱きかかえたぬいぐるみを殴りながらつぶやく
“素直に伝えたいことがあるのに!”
○父:思春期だね〜
青春だね〜
看護師:先生、次の患者さんが…
○父:あ、はいはい〜
五年生の初夏
この二人の、少しだけお年頃となった関係性は
大きく変わり始める
それは、二人だけの問題ではなくなり
他の人間、周りの人を巻き込みながら…