ふわしゅわお嬢様はご執心 2
友達とイオンで学年末テストの勉強をしていたその日
私がぶつかってしまった人は、少し変わっていて
でも、優しくて
私を友達のところまで送り届けてくれた
その時、彼の友達が読んでいた
《◯◯》という名前
きっとぶつかった彼のことを言っているのだと思う
《◯◯》という名前は、そんなありふれた名前じゃない
だから、私は少し胸が痛むと言うか疼く感覚に襲われた
もしかしたら、10年くらい前に会えなくなった
私の初恋の人なのかもしれないんだから…
和:何か桜、少し体調悪そうだけど大丈夫?
それから数日、テストは目と鼻の先に迫ってきていた
けれど、私の胸の中はあの日の彼があってドキドキが止まらない
桜:大丈夫だよ、ちょっと根詰めてるだけだから
美:そんな、根なんか詰めちゃだめだよ?
記憶力にもだけど、お肌にも悪いんだから
美空がほっぺをつつきながら私に言う
たしかに、肌にも悪いっていうのは聞いたことがあるかも…
とはいえ、何となくぼーっとしてしまってあまり勉強に身が入らない
和:ま、あまり他のこと考えてるとクラス別になっちゃうんだから気をつけてよ?
美:そうそう、3年間一緒にクラスで過ごすって約束したでしょ?
高校1年生のときに、3年間ずっと一緒にクラスで過ごそうと約束したことを思い出す
あの時は、高校の勉強がこんなに時間を浪費するものだとは知らなかったけど
何となくそれは大丈夫な気がしていた
けど、このままだと…
桜:大丈夫!
私、意外と頭いいんだから
和:まあ、それは知ってるけど
美:こんなふわふわしてて、なんで私たちの中で頭が一番いいんだか…
美空の一言に私が笑うと、さっきまでの空気は消え去って明るい空気になった
…大丈夫、あのことはあのことで割り切ればいいんだもん
私ならやれる…
私なら…やれる…!
☆
◯:ふわぁ…
眠いなぁ
秀:月曜からテストだよ?
あとちょっとしかないのに、よくあくびなんかできるね
◯:あくびしてたら勉強してないとでも言いたいわけ?
1限目が終わり、次は移動教室というときに
友人にあくびしているのを突っ込まれた
が、僕からしたら根を詰めた名誉の代償を悪く言われるのは気持ちが良くない
秀:別にそういうわけじゃないさ
でも、夜遅くなるよりも朝早く起きてやる方が効率いいって言うじゃないか
◯:僕は夜やる方が頭に入るんだよ
朝やったらお腹が減ってたまらなくなるし
秀:そういうもんか…
友人は半ばまだ納得していなそうなところを強引に納得したように頷いて
教室からでていった
僕も荷物を持ってそれを追う
◯:そういえば、この前ナンパしてた女子たちとはどうなったんだ?
秀:あぁ…あの子たちか
LINE交換したとかじゃないから、何もないよ
少し残念そうな顔をしていた答える友人
その顔には、あの子たちは当たりだったのに…という言葉が浮いて見えるような気がする
◯:僕、またあの子に会いたいんだよなぁ
秀:あの子って、一緒に来た子?
あの子と可愛いよね
◯:んまあ、可愛いってのもそうなんだけど
何か…どこか懐かしい感じをうけるというか…
あの子に会って、声を聞いたときに襲われた
リラックスできるような声や、雰囲気…
あれはどこかで感じたことのあるような感じだった
その正体を掴みたい僕は、また会いたいな…という気持ちが少しずつ募ってきていた
秀:じゃあ、今日もまた行くかい?
僕も、もしかしたらあの子たちに会えるかもしれないし
◯:…よし、利害は一致したみたいだし
一緒に行くか
秀:そうしようか
あ、それとこの前のお詫びとしてミスドご馳走するよ
◯:お、それは二度美味しいやつだ
僕は放課後を楽しみに、残りの授業を受けるモチベーションを掴んだ
その時間中も、時折あの子の顔が思い浮かんできて胸が熱くなる感覚に襲われた
☆
和:え?今日もイオンに行きたい?
和がイラッとしたときの声を上げた
その提案をした私は、その声でびくっとなる
桜:うん…だめかな
和:だめじゃないけど、もうイオンとかに行くより自分の家で勉強する方がいいと思うんだけど
和は困った顔をして言う
私だって、和の言っていることが理解できないわけじゃない
…けど、どうしても彼のことについて一旦何か区切りをつけないといけない気がした
美:まあまあ、和
桜がこう言ってるんだし、一緒に行ってあげようよ
和:って言ってもなぁ…
私だってやりたいものあるんだけど
美:桜が意外と頑固なの知ってるでしょ?
これで1人で行ってナンパでもされたらどうすんの
美空が私のことをちらっと見ながら和を説得してくれている
美空には感謝しなきゃなと思いながら、私は和にもう一押しする
桜:テスト終わったらスタバ奢るから、お願い!
和:んぅ…しょうがない
そこまで頼まれたら良いって言うしかないね
和は苦笑いしながらそう言ってくれた
美空も笑顔で私を見てくれている
…よし、これであとは彼と会って区切りをつけるだけ
私はそう強い意志を持って、イオンに2人といっしょに向かった
☆
僕は秀悟とフードコートにきている
…が、あの子たちの姿は見えない
そう簡単には会えないということだろうか…
◯:いやぁ…いないな
秀:毎日来てるとかじゃないのか、流石に…
◯:テスト前だもんな、思いっきり
僕は友人に奢ってもらったポンデリングを食べながら言う
この甘さが僕は好きなんだ
秀:だろうね…
もう一周してくるかい?
◯:ん〜…そうしてみますか
勉強してていいから
秀:はいはい
見つけたら、ちゃんと連絡してよ?
友人のその一言には軽返事で答えて、もう一周僕はフードコートを見て回ることにした
☆
美:あ〜、混んでるね
桜:ほんとだ
美空はそう残念そうに言っているけれど
私はそれとは反対に、可能性が上がっている気がしてワクワクしてきている
和:これ、席どこか空いてるかな…
美:確かに…
何でいつもより人多いんだろう
和:テスト前、最後の息抜きじゃないの?
煩悩を一回全部飛ばすために
美:うわぁ…それありそう
…って、桜!?
和と美空が何か会話をしているけれど
私はそんな会話を聞いてはいなかった
私の瞳が、彼の姿を見つけたから
和:ちょっとどこいくの!危ないでしょ!
美:あちゃぁ…
あれは聞いてないさそう
私はあの日と同じくらいの人がいるフードコートを
彼の姿を目指してゆっくりと走る
またぶつかったら危ないし、何より彼を見失ってしまいそうで怖いから
少しずつ彼の姿が大きくなる
声をかければもう気づいてくれそうな距離
…思い切って声を出そう
桜:あの!
☆
『あの!』
というこの前も聞いた声が聞こえた気がして、僕はその声の方を振り返った
すると…
桜:わ、わぁあぁっ!
またあの日のように僕にぶつかってきたあの子
ただ、この前と違ったのは
僕がちゃんと受け止められたこと
◯:だ、大丈夫?
桜:あ、あぁ…ありがとう
少し顔を赤くして、僕に感謝の言葉を述べる
近くにいると、尚更僕の胸の熱はどんどんとほとばしってしまう
桜:あ、あの!
私、君に聞きたいことがあって…
まだ赤い顔のまま、僕を見て言う
その大きくて、キラキラとしている目に僕は首を思わず縦に落としてしまう
桜:あの、違かったらごめんね?
もしかして、◯◯ちゃんだったり…するのかな?
僕の目の前で、僕の胸を熱くしている子から
昔、僕と結婚の約束をした許嫁から呼ばれていた言葉が飛び出して驚いてしまう…
そして、それと同時に目の前の子の声がどこか落ち着くように感じる理由が分かった
◯:桜、ちゃん?
それは許嫁の名前であり
僕がずっと心の中でもう一度会いたいと願い続けていた人の名前でもあった
桜:そう!桜
◯◯ちゃんだよね、◯◯ちゃんなんだよね
僕のブレザーの裾を持って引いたり戻したりする桜ちゃん
間違いがなかった
高校1年の終わりに僕は一番会いたかった人と再開したんだ
そうわかると、朧気だった桜ちゃんとの記憶が一気に溢れてきて
少し僕は涙ぐんでしまった
桜:どうして泣きそうな顔してるの?
私がそう聞くと、◯◯ちゃんは
◯:だって、ずっと…会いたかったから
と昔のままの、弱々しい調子で答えた
容姿とか、声とかは立派になったけど
中身はずっと、あの頃の◯◯ちゃんと変わらないんだなと思って
私は、◯◯ちゃんにハグをして背中を優しくぽんぽんと擦ってあげる
昔から泣き虫だった◯◯ちゃんに私がよくやってあげていた慰め方を、そのまま
◯:桜ちゃん…
LINE、交換しよ?
桜:勿論!
これで、心置きなくテストに望めるよ
僕も…と弱々しく◯◯ちゃんは答えて、私と◯◯ちゃんはLINEを交換した
私は◯◯ちゃんの頭を軽く撫でて
桜:テスト終わったら、また会お?
と言った
すると、
◯:うん、そうだね
少しは大人になったところ、桜ちゃんに見せないと…
と◯◯ちゃんは言った
そして、最後に◯◯ちゃんとの再開の記念にツーショットを撮って私たちは分かれた
勿論、それがすぐさま私の待ち受け画面になった事は言うまでもなくて
私はウキウキしながら和と美空のもとに戻った
2人からすごい心配したんだから、って怒られちゃったけど
私は笑顔で謝って、ルンルンな気持ちでイオンを出た
外からの風がすごく気持ちよくて
そろそろ桜も蕾が膨らんでくるかなと思わせる風だった