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雪はお好きですか、スノーホワイト

都心で久しぶりの積雪となった日

降りしきる雪が街灯の光を帯びて、光の欠片となって降りてくるように見える


夜のオフィス街に降るそれを、人々は見上げ立ち止まる

その雪の白さと言ったら、なかった 



毎年雪が降ると、基本的にみんなどんちゃん騒ぎで

よく外に出て雪合戦をするのが日課だった


小学校の低学年くらいまでは、いくら都市近郊とはいえ毎年それなりに積雪があった

それこそ、1日中遊んでもまだ余るくらいに…


それが、いつの日からか降ることすら珍しく感じるようになった

そうなってくると、みんな冬という季節を憂鬱に感じ始める

確かに冬でも外で子供が遊ぶ姿が元気の象徴みたいな感じはするけど、だからといって馬鹿みたいに遊んでいられるわけでもなく

やがて僕は、ただ寒い風ばかりが吹くだけの季節に成り下った冬に外で遊ぶなんてもっての外だと考えるようになってしまった


そう考えるようになって何年か経った高校1年の冬

僕には地元が近い友達が数人できていて、そのメンバーでほぼ毎日帰っていたんだけれど

そのメンバーの1人が冬のある日


“どっか、今度みんなで出かけようぜ”

と言い出した


正直内心では、嫌だなと思いつつ

他のメンバーが賛成していたので、とりあえず僕も賛成した



迎えた約束の日、その日は丁度珍しく数cmの積雪が観測された翌日だった

そのため、いたるところの道の端にうず高く盛られた雪の小山が並んでいた


僕が駅につくと、まだほとんど誰も来ておらず

同じクラスの冨里さんだけが来ていた


「こんにちは」

なんと声をかけて良いものかわからず、少し悩んだ末に他人行儀な挨拶しかできなかった

けれど、冨里さんはそんな僕に

『あ、山科くんこんにちは
 よかったぁ…1人来てくれた』


笑顔で挨拶しかえしてくれた

どうやら、さっきまで待ち合わせ場所のこの駅には冨里さんしかいなかったみたいで

僕が来たことで少し安心したらしい


『誰も来ないまま日が暮れるかと思ったよ』

「そうなると、流石に笑えないもんね」

近くの自販機で缶コーヒーを買った僕は、それをカイロ代わりに手で覆う

手袋を付けてこなかった僕には、缶コーヒーの熱さで手から体全体に熱が供給されていくように感じた


少しして、冨里さんが僕の手元をじっと見ているのに気が付いた

「どうかした?」

僕が聞くと、冨里さんは元から大きめな目を更に大きくして

『い、いやいや、何でもないよ』

と明らかな動揺をしていた


冨里さんの格好を見ていると、手先がどうも寒そうに見えた

手袋はポーチにしまっているのかもしれないけど、動揺を隠すときに見せた手の色は間違いなく紫がかっていた


「冨里さんも、何かいる?」

やっとさっきの視線の意味を理解した僕は、冨里さんに聞いた


すると、躊躇いながら冨里さんはコクンと頷いたので

ホットレモンを買ってあげた


「気が利かなくてごめんね」

謝りながら渡すと、冨里さんは首を横に大きく動かした


『ううん、お財布を握れなくなる前に買えばよかったんだよ』

だから、僕が謝ることなんてないんだよと続けた冨里さん


前々から思っていたけど、冨里さんは決して人のことを悪く言わないし否定もしない

それこそ、振りたての純粋な色の雪のようなキレイな心の持ち主だと思う


「…それにしても、来ないね」

スマホを何度眺めても、僕が送った集合場所に2人しか来ていないというメッセージに1人以上の既読はつかない


『お昼の時間はとっくに過ぎてるのにね』

暇を持て余した冨里さんは、近くに盛ってあった雪を崩して遊び始めていた


「何してるの?」

冨里さんの後ろから覗いてみると、小さな雪だるまを作っているようだった


『私達2人だけだと寂しいから、増やそうと思って』

可愛らしい理由で、可愛らしい雪だるまが少しずつ増えていく


いつのまにか、僕もその雪だるまを作るのに参加していた 


もう何年ぶりになるであろう雪遊びは、とても楽しかった

その楽しさと根源は、久しぶりという懐かしさではなく

十中八九、冨里さんという存在がいるからだろう


この可愛らしさと、純粋に雪遊びをする姿が

愛らしくて僕もそれをしてみたくなってしまった


『だいぶ作ったね…』

十数体の雪だるまは、崩された雪の小山に置いた

少し手が冷たいけど、幸いまだ缶コーヒーとホットレモンが暖かったからさっきまでの寒さじゃない


「久しぶりだよ、こんなに夢中で雪遊びしたの」

缶コーヒーを飲みながら言うと、冨里さんも頷いて

『最近はできるほど雪降ってなかったしね』

と言った


そのまま会話が止まって、お互い飲み物を口に運ぶ姿があるだけになった



時がどれくらい経ったか、もう僕が来てからまぁまぁ経ちそうな感じがしていた

そんな時、冨里さんが沈黙を破った


『なんか山科くんとは無言でも気にならないなぁ』


その一言が僕の既に温まった体に、もう一段階熱をもたらす

その言葉が、どういうことを孕んでいるかを知っているから…


「そ、っか…嬉しいなそう言ってもらえて」

僕は今できる精一杯の返しをした


『ねぇ、山科くん…もう誰も来そうにないしさ
 私達だけで、どこか行っちゃわない?』

次に飛んできたそれで、僕はノックアウトされそうになった

小首を傾げた仕草が、それに破壊力を増させている


「それもいいかもね、こうしてても時間だけ過ぎてくし」

『そうだよね、じゃあ行っちゃおっか』


意外と大胆な冨里さんに付いていく僕

心なしか、冨里さんの顔がさっきよりも明るく見える


改札を通って、2人だけのホームで電車を待つ

ホームの屋根から、雪解け水が一定の拍で落ちている


「ねぇ、冨里さんはさ…雪は好き?」

何か話さないととでてきた質問は、とても意味不明なものだった

慌てて取り消そうとすると、冨里さんは


『好きだよ、冷たいし長い間触ってられないけど
 あの感触とか好き』

大真面目に冨里さんは答えてくれた


「冨里さんって、さっき思ったんだけど
 雪が似合うよね」

『え?そうかな』

僕の言葉に照れ笑いする冨里さん

少し頬が紅くなっている


「さっきも雪と相まって、とっても綺麗だったよ」

冨里さんを見ることはなく、真っ直ぐ向いたまま言葉に出した


その言葉が頭の中ではずーっと響いていてうるさい

心臓もうるさい


ただ、冨里さんから返される言葉がない

呆れられたかなと、横を見ようとしたその時



僕の冷たくなりかけの手に、まだ少し温かさの残るものが触れて

僕の手を包みこんだ



僕は横を見ない

きっと、見たことのないほど顔を赤くした冨里さんがいるはずなんだろうけど


それを見れるほど勇気もないし、手慣れていない

ただ、僕にできることは


それを離さず

温め合うことだけだ

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