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初めて会った日から何周か回って恋をした 30

中学の入学式があって数日

蓮加は桃子と距離を少しずつ縮めようとしていた


蓮加:じゃあ、桃子ちゃんは鹿児島からこっちに来たんだ

桃子:そうなの…だから、ちょっと驚いちゃって

蓮加:やっぱりこっちは人多いか


桃子の席と蓮加の席が近いため

桃子の席に休み時間の度蓮加がやってきておしゃべりをしている


それを少し遠くから、◯◯は微笑ましく見ていた


昌輝:なんだよ◯◯ニヤついて

◯◯:ん、あごめんごめん
  ちょっとね

智也:ったく…惚気はいいけど集中してくれよ
  俺は遠いんだからよ


サッカー仲良し三人組、今回は◯◯と昌輝が同じクラス

智也は二クラス隣になった


◯◯:すみませんでした…
  で、なんだっけ?

智也:次の練習、どうするって話だよ
  ほら、顔合わせじゃんか

昌輝:俺めんどいから行きたくないんだよな

◯◯:俺は行った方がいいと思うな
  新しいメンバーとは早めに慣れたほうがいいと思う


昌輝はサボりたそうだが、◯◯は行った方がいいと言った


智也:同感だな
  あとからコーチにうるさく言われるのも嫌だし

昌輝:まじかよ…サボろうぜ?

◯◯:サボったって何も変わらないだろ
  俺は新しいメンバーと会うのが楽しみだし

昌輝:…ほんと◯◯、お前は…


◯◯の笑顔で言った言葉に、昌輝ははぁ…とため息を付いて苦笑いをし

智也は小さいながらも微笑んだ


智也:じゃ、決まりだな
  今週の土曜、集合ってことで

昌輝:マジかぁ…

◯◯:了解っ!


◯◯は元気よく返事をした

反対していた昌輝は不服そうにしながらも、従うようだ


智也:じゃ、また後でな

◯◯:はいよ


智也一足先にクラスに戻るようで、さっと帰ってしまった


昌輝:なぁ、◯◯

◯◯:ん?どした


智也が帰って、◯◯も教室に入ろうとした時に昌輝は呼びかけた


昌輝:お前、友達とかできた?

◯◯:んまあ、クラスの中にならね
  友達って思ってるの俺だけかもだけど

昌輝:はえぇな…
  コミュ力ほしいわ

◯◯:コミュ力なんて、俺にはないよ


昌輝が感嘆しているのを、◯◯は否定する

その目は、蓮加の方を向いていて


◯◯:俺よりもっとコミュ力ある人を俺は知ってる
  その人より俺は全然コミュ力ないよ

昌輝:ほ〜ん、そうなのか?
  まあ、いいけど


昌輝は◯◯の言うその人というのは理解していない様子

昌輝は続けて、俺もそろそろ新しい友達欲しいな〜と呟いていたが

◯◯の耳にはあまり入っていなそうだ




◯◯は色々と考え事をしながら授業を聞いていると、すぐに6限になっているという現象になることが多くなってきた

中学校の授業だからと構えていたのもあるのか、時々時間が過ぎすぎていて驚くこともある


◯◯:う〜ん…困ったなぁ


一応ノートは取っているものの、しっかりと学んだ内容が頭に入ってるかと言うとそれは違う

母親に、最初が肝心だからと念入りに言われている◯◯は少しだけ焦りを覚えた


蓮加:◯◯〜?帰ろ?


そうやってぼーっとしている◯◯のところに、蓮加がやってくる

◯◯の顔を覗き込むようにして


◯◯:ん、そうだね
  帰ろっか


蓮加に呼ばれ、◯◯は正気に戻ってニコッとして頷いた

蓮加に考えていたことがバレないように


すると、そこに


桃子:二人って、すごい仲いいよね


と桃子がやってきた

人見知りなせいもあって、まだ蓮加くらいしか友達ができていないらしく

蓮加にくっつくように行動を共にしている


◯◯:まあ、そりゃあ、ねぇ?

蓮加:ねぇ?


◯◯の目配せに蓮加は笑いながら答える

桃子の目には、このやりとりではまだ関係がわからなかったが

ただの仲良しではないということは理解できた


桃子:そういえば、蓮加ちゃん
  部活動するの?

蓮加:どうしよっかなぁ…
  ◯◯はサッカー部入らないんでしょ?

◯◯:うん、クラブチームに入ってると参加しちゃだめらしいから


桃子は帰りそうな二人を引き止めるように聞いた

蓮加の悩んでいる顔を見て、こう言った


桃子:剣道部、一緒に入らない!?


蓮加はハテナを頭に浮かばせ

◯◯は目を丸くして言葉を失っている


桃子:だめ?

蓮加:なんというか、蓮加たぶん無理だと思う
 熱いの嫌いだから

桃子:ん〜、そっかぁ…


桃子は蓮加の答えを悲しそうに聞いて呟いた


◯◯:てか、大園さんって…剣道やってたの?

桃子:ちょっとね、田舎だったからいい部活なくて


◯◯の質問に軽く答えた桃子は、いたずらに笑った


桃子:…仲間を見つけないとだ

蓮加:れんか、手伝うからね!

桃子:ありがとぅ!


二人はニコニコの状態で抱き合っていて

それを何とも言えぬ表情で◯◯が見つめている


◯◯:女子って、よくわかんないなぁ…


心の声が漏れていることに気が付かない◯◯

ただ、蓮加も桃子もそれを咎めることもない


蓮加:よしっ!
  ◯◯帰ろう!

◯◯:お、おう

桃子:また明日ね!


桃子に二人で挨拶して昇降口へ


◯◯:ねぇ、蓮加

蓮加:ん?

◯◯:結局、今のところ部活何にするの?


◯◯は前から気になっていたことを聞いた

蓮加は、う~ん…と唸りながら靴を出した


靴を履いても、まだ唸り声は続いていて

言葉が出たのは校門を潜る時だった


蓮加:バドミントン部かな

◯◯:…バドミントンか

蓮加:そんなに気になってたの?


◯◯がそうか…と小さく言っているので、蓮加は逆に聞いた


◯◯:んまあ、気になってはいたよ
  蓮加結構できること多いじゃん、ダンスとか

蓮加:あ〜、そうだね
  でも、やっぱり新しいことにチャレンジしてみたいんだよね

◯◯:ふふ、そういうところ好きだよ


優しく微笑む◯◯が、好きという言葉を言ってくれた

そのことで蓮加の幸福度は高まっていった


蓮加:嬉しぃ〜

◯◯:ちょっ…そんなくっつかないでって

蓮加:いいじゃ〜ん!


仲良くこの日も二人は下校していった



翌日、◯◯は先生への用事があって早く学校に来た

蓮加にはあらかじめ、明日は一緒に登校できないということを言ってあるのでそこは大丈夫らしい


◯◯:あ、朝練してる


◯◯がグラウンドに目を向けると、サッカー部が朝練をしていた

◯◯は大会の時でもなければ、こんな早くの時間からサッカーをしたことはないので

朝練を見て、少し羨ましく感じていた


◯◯:…まずいまずい、見惚れてる場合じゃないんだった


急ぎ足で昇降口へ入って、靴を履き替える


外に元気な声を聞きながら職員室へと歩いていく

コンコンとノックをして扉を開けると、ほとんど先生はまだきていなかった


◯◯:片桐先生、いらっしゃいますか


◯◯が近くにいた先生に聞くと


先生:片桐先生なら、グラウンドでサッカー部見てると思うよ

◯◯:そうなんですね…ありがとうございます


◯◯は無駄足だったかな、と思いつつも

また昇降口で靴を履き替えグラウンドに出た


やはりサッカー部がまだ朝練をしていて、校舎の近くで片桐先生がいるのが見えた


◯◯:片桐先生!


◯◯は駆け寄っていきながら呼んだ

すると、片桐先生は◯◯の方を見て


片桐:おぉ、早いな!


と言い

◯◯が近くにやってくると、◯◯の方に向いた


◯◯:これ、前言っていた書類です

片桐:ん、確かに…
  別に机においてもらってて良かったんだがな


と笑って言った

◯◯は少し後悔して、そうすればよかった…と呟いた


そんな二人の元へ勢いのついたボールが飛んできた

◯◯はそれに気づくと、くるっと反転してボールを太ももでトラップして落とした


◯◯:よっと…


そして、コロコロと止めたボールを朝練している生徒たちの方へと転がした


片桐:林藤は、クラブチームに入ってるんだったか

◯◯:はい

片桐:…上手いやつがいないから、欲しいくらいだよ


片桐先生は自虐的に笑い、◯◯の背中に手を当てた


片桐:気をつけろよ
  中学になると、陰湿なことしてくる奴らいるからな

◯◯:はい、ありがとうございます

片桐:じゃ、また体育でな


◯◯は、失礼しますと言って昇降口へと戻っていく


片桐:何か嫌な予感が、あいつから漂ってるな…
  思い過ごしだといいんだが


片桐先生は小さくつぶやいた



蓮加:何か◯◯、最近ノリが悪いんだよね〜

桃子:桃子は◯◯くんのことあまり良く知らないけど
  何か悩んでるような顔してる時あるよね 

蓮加:そうなんだよね…
  そうだ!今度◯◯をリフレッシュさせにどっか連れてってあげよ


たまたま途中で会った桃子と蓮加はそうやって会話しながら中学校へ来ていた

やはり、◯◯の不調は蓮加たちも感じ取っていたらしい


蓮加:サッカーで疲れてるのかもしれないし!


ただ、蓮加にはその理由がまだわかっていなそうだが…

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