ふわしゅわお嬢様はご執心 8
桜ちゃんと二度目のカフェでの会合を終えて、家に帰ってきてふと思い出した
◯:そういえば、桜ちゃんの誕生日って僕の1週間弱前だったような…
…って、もうすぐじゃん!
ふとそう思った僕は他のことを思い立った
誕生日ということは…
◯:プレゼントねだられるだろうな…
いや、そもそも用意してなかったから機嫌悪くなりそう…
僕はもう少し前に気がつけていれば…
そう後悔した
リサーチも何もしていない…
どんなものがいいんだろうか
そんな風に考え、頭の中がそれで埋め尽くされたのでその日は大人しく寝ることにした
変なことを考えていると、咲月や友人に勘づかれたくないから
そうして経つこと数日
短縮授業で昼頃には下校ができるので、少し近くのショッピングモールで見てみようかなと思っていた
バスに乗って揺られること十分弱
前桜ちゃんと再会したイオンとは違うところにあるショッピングモールに着いた
◯:さて…雑貨とかのほうがいいのかな
それともケーキとかを予約しておくとか?
心配になってボソボソ呟きながら歩いていると
ふと、一人
風で揺れた髪ごしに見えた横顔に覚えがあった
◯:井上…さん?
和:あ、桜の許婚くんだ
振り向いた顔も、桜ちゃんとには嫉妬されるかもしれないけど
綺麗で整ってるなと思った
◯:その許婚くんって言い方が、何かアニメとか漫画っぽいな
和:なんか、下の名前で呼ぶと桜に怒られそうだから
◯:んまあ、それはありそう
苦笑いしつつ、井上さんが見ていたお店をチラッと見た
雑貨屋さんっぽかった
◯:お買い物?
和:ん〜、まあそうといえばそう
ほら、桜の誕生日もうそろそろだから
◯:あ、やっぱりそうか
この時期に短縮授業あるの有り難いよね
僕は同じことをしている人を見つけて安心した
井上さんってとても頼れそうな人だから、聞いてみるのもありかなとも思った
和:お、てことは許婚くんも?
◯:言い方気になるけど、まあいいや
そうそう、この前はたと思い出してね
和:…まあ、10年も離れてたら忘れちゃうか
◯:そうそう、井上さん見つけて安心したよ
好みとか変わってるだろうから、不安で仕方がなくて
和:ふむ?
そう呟いて井上さんは、僕をじーっと見て
一度頷くと
和:そういうことなら付き合ってあげようじゃないか
桜が不機嫌になると私たちも困るし
◯:ありがとう!
井上さんに桜ちゃんの好みについて聞ける
それだけで僕は嬉しい
◯:そういえば、このお店は何で見てたの?
和:あ〜、ここはね
桜ってああいう雰囲気のままの雑貨が好きだから
そう言ってショーウィンドウに並べてある、白くてラブリーなメッセージ立てを指さした
和:ああいうやつとかね
◯:…昔からプリンセスだって自分のこと言ってたからなぁ
そのまま大きくなった感じかな
和:そういうのを聞いて簡単に想像できるちゃうのが桜なんだよなぁ…
井上さんは想像しているのか、上を向きながら苦笑いで言った
そして、お店のドアに向かって歩いていった
和:とりあえず見てみよっか
◯:うん
和:あ、一応言っておくけど
あくまでも桜のためだからね?自分のとかはまた今度にしてよ?
◯:う、うん…わかった
何故か少し怖い顔をしながら言った井上さんに、僕は尻込みしながら頷いた
☆
◯:い、井上さん?
和:んぅ…
お店に入って十数分、僕はあらかた見星をつけて一旦井上さんと合流しようと店内を探し待っていると
一つの棚に釘付けになってる井上さんを見つけた
声をかけてみるけど、あまりちゃんとした反応がない
◯:井上さん、何見てるの
和:ん〜…
◯:井上さんってば
僕はあまりにも受け答えが返ってこないので、肩をチョンチョンとつついた
和:…?
あ、許婚くん
やっと振り返ったかと思うと、僕が今ここに来たかのような反応をした
…え、何この人
◯:何、見てたの?
和:ん、これ
これね、私の好きなアニメとコラボしてる!
あのね、ほんとはもっとスタイリッシュなんだけど、ファンシーになっててすごく可愛いの、ちっちゃいし…
オタク特有の早口で、見ていた雑貨の話をしてくる井上さん
…どうも推しのコラボしている雑貨らしい
◯:あの、余計なものを見るなって言ったの井上さんじゃなかったっけ?
和:だって、推し関連のだし可愛いし
チェックしとかないとでしょ!
何故か僕が怒られた
…やっぱり正論言うのが正解なわけじゃないんだな
改めて僕はそう思った
和:よし、これ買おう!
◯:桜ちゃんのは?
和:…それも買うよ
何か間があったような…
流石にそれにまで言及することはしなかった
また怒られるかもだし…
和:いやぁ…いい買い物した〜
◯:そうだね
井上さんは推しのコラボした雑貨と、桜ちゃんへのプレゼントを買った
僕は、何となくで選んだ雑貨数点を買った
和:意外と少なかったね、買ったの
私なんて十こくらい買ったのに
手には重そうに垂れた袋がある
推し関連の雑貨がほとんどなんだけど…
◯:何となく、こうじゃないなって感じがあって
和:ふ〜ん
まあ、私にはよくわからないけど許婚くんには思うところがあるってことね
僕にほんの少し共感するように井上さんは言ってくれた
そして僕を先導するように他のところへ向かって歩いていった
◯:そういえば、今日は一ノ瀬さんは一緒じゃないの?
和:あ〜美空は…
まあ、なんというか
僕は気になっていたことを聞くと、井上さんは歯切れの悪い答えをした
何かあるのかなと思っていると
井上さんは僕の腕を叩いて、苦笑しながら指をさしていった
和:あそこにいるよ
◯:ん?
僕が目を凝らして、井上さんの指す方向を見てみると
一ノ瀬さんが、男の人に仕切りに話しかけているのが見えた
◯:ナンパしてる?
和:まあ、ナンパというか
好みの人探ししてるんだよ
◯:何でまたそんなことを
僕がそう聞くと、井上さんはよくわからない、と言ってそっちの方に向かって小走りし始めた
もちろん、僕はそれに付いていく
和:美空!
美:お、和〜
どうしたの?…って、あれ?
何で桜の許婚くんと一緒にいるの?
◯:あ、やっぱり僕ってそう呼ばれてるのね
二人目の許婚くん呼びに、僕はなんとなく順応していくしかないのかと半ば諦めの感情を覚えた
和:何か桜の誕プレ選びに来てたみたいで
さっきばったり会ったんだよね
美:へぇ〜
浮気デートしてるのかと思った
笑顔でとんでもないことを言う一ノ瀬さん
僕は思いっきりつばを飲んだ
和:そんなことしたら、二人まとめて桜に嫌われちゃうよ
◯:まず、僕桜ちゃんしか好きにならないからね
美:おぉ…中々すごいこと言うね
なんかその自信を覆したくなってくる
これまた笑顔で言われるものだから、少し恐怖を覚えた
そんな一ノ瀬さんに、井上さんは
和:あんた、そもそも桜から少し怖がられてんだから
そういうことしたら消されるよ?
美:もう、本気にしないでよ
友達の彼氏に手は出さないって
◯:安心したよ…
僕、桜ちゃんに刺殺されるイメージが浮かんじゃった
僕が漏らした言葉に、二人は揃って
『ありそう…』
って言った
◯:あ、そうだ一ノ瀬さんにも桜ちゃんへのプレゼントの参考に好みとか聞きたいんだけど
美:あ〜、桜の好み?
…なんだろ、意外と何でもないのに喜んだりするかも
一ノ瀬さんは少し考えたあと、僕にそう言った
◯:そう思ったのは何で?
美:何ていうか、桜って許婚くんに貰ったものなら何でも喜びそうだなって
何でもない行動とか言葉でも好きぃとか言ってるから
すごく冷静に分析に僕はさっきとのギャップで驚いた
◯:何ていうか、一ノ瀬さんの方が井上さんより実はしっかりしてたりする?
思ったことを口にした僕は、言ってから変なことを言ったと後悔した
けど、一ノ瀬さんも井上さんも変な顔せず
和:ある意味ならそうかも…
美:いやいや、ある意味じゃなくてほぼそうでしょ
和って外面はしっかり者みたいだけど、桜とおんなじくらい子どもだし
和:子どもって言うな
こんなやり取りを見ていると、何となく桜ちゃんがこの二人を親友って呼んでいるのがわかる気がした
ギャップもあって、すごく魅力的な人だなって思った
◯:すごくお似合いだね
なんか漫才みたい
和:それって、私が子どもって言ってる?
井上さんにまた詰められて僕はやっぱり尻込みしちゃうけど
美:許婚くん困らせてどうするの
参考になったかな?
井上さんを制しながら、一ノ瀬さんは僕に聞いた
◯:うん、なんとなくだけど
美:ならよかった
じゃあ、少し付き合ってくれない?
◯:んまあ、お礼ということなら
美:私ね、あれが飲みたいんだよね!
一ノ瀬さんが指さしたのは、カップル限定と書いてある
カフェの限定ドリンクだった
◯:えぇ…頼むなら桜ちゃんと頼みたい…
和:すごいちゃんとした一途だ…感服する
美:桜には言わないから!
ね?
◯:やだよぉ…
一ノ瀬さんに振り回されて、結局三人で好きなもの頼んで
お代は僕が出した
和:ごちそうさま
美:なよっとしてそうなのに、意外と男らしいね
そういうところ…いいなぁ
◯:…僕、桜ちゃんと同じく一ノ瀬さん怖いかも
夕方まで三人でショッピングモールで遊んだ
桜:◯◯ちゃん、誕生日覚えてくれてるかな〜
プレゼント楽しみ、うふふふ