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嫌々挙式させられそうな元カノが結婚したのは再会した僕でした

日本において、結婚式を挙げるのは神社が多かった


しかし、いつからだろうか


結婚式という言葉を聞き連想する姿、場所は


ウェディングドレスにホテル内やチャペルが多くなった


白無垢に角隠し、新前婚を連想しづらくなってきている



その要因を、ウェディングプランナーというある意味特殊な職業の登場が絡んでいるとある人はいう



事実は小説より奇なり

なんていうけど…


体験することになろうとは…



彼氏:お兄さん、大丈夫ですか?


◯◯:あ、失礼しました
  それでは早速式場の話を…



今の発言で少しはお分かりいただけただろうか


俺の仕事はウェディングプランナーだ

昔から、装飾とか空間のデザインが好きだったから

従姉妹もその仕事についていたし

なんとなくできそう、ていう適当な理由でこの職についた



一応、これでもデザイン系の学校は出ているので実績は悪くはない


評判とか気にしたことないけど、まあ中の上くらいじゃないかな



そんな中に現れた、若くて仲が良さそうなカップル


正直、嫉妬とかそういうのをしてはなかったけど



彼女の方を見て、俺は嫉妬とも違う


他の不の感情を覚えた



◯◯:チャペルと新前婚が多いですが、その他の場所で式を挙げたいなどございますか?


彼氏:あぁ〜、チャペルでいいでしょ?


これまで一口も言葉を発さなかった彼女に彼氏は聞いた


彼女:うん、それでいいよ


彼氏:じゃあチャペルで


◯◯:かしこまりました
  それでは費用のご説明のために資料取ってまいります
  少々お待ち下さい


息が詰まりそうな場所をやっと一旦抜けられた…


○○:とりあえず、資料資料…


こういう時に、私情は禁物

仕事に私情を持つと、一生に一度の経験に傷をつけかねない



ファイルを持って、また席に戻る


○○:とりあえず、どこのチャペルがいいなどのご希望ありますか?


彼氏:どこが一番、こう綺麗に見えますかね


○○:そうですね…
  式自体が綺麗に見える所になりますと、こちらのホテルのチャペルは評判がいいですね


彼氏は乗ってくるものの

彼女は話に参加していない


ときたま、彼氏が確認のように聞くだけで

新婦になろうという人の意見がないのは、経験上おかしいと思える



しかし、結局彼女が発言することはなく


最初に提案したホテルのチャペルを日を改めて見学することになった



○○:それでは、この日にお待ちしております


彼氏:ありがとうございました
  よし、いくぞ


手を彼氏が取ろうとすると


彼女:あ、私ボールペン借りたままだ


と彼女の方が僕にボールペンを渡した


その時の目に、意味を悟った僕は


○○:あ、はい 
  ありがとうございます


彼氏:ったく、うっかりするなよ…


彼氏は頭を掻きながら、店を後にした




○○:ふぅ…
  中々に気まずかった


バックヤードの自分の机に戻り、伸びを何回かして

水筒の紅茶を飲んだ


そして、彼女からのボールペンを胸ポケットから取り出し


グリップの部分を回して、芯を出す


そこには、案の定紙が巻かれていて


久しぶりだね

まさか、こんな形で再会するとは思ってなかった

とりあえず、色々と話したいことがあるので下に書いた日にちに、同じく書いた場所で会いましょう

               れんか


よく知った筆跡に、よく知った便箋


元カノの彼女は、最後にあったあの日から

随分と大人になっていた 



僕が、彼女

即ち、蓮加と別れたのは高校生の頃



元々、付き合ったきっかけはお互いに一目惚れで

共通点が多かったから


嫌いな教科とか、先生も同じ

好きな学食のメニューも同じ

ゲームが好きで、一人でも大人数でもどっちでも居られる


もうこのままずっと付き合ってるんじゃないか


そう錯覚させるほどだった



しかし、亀裂はとても些細なことで起きた


高校2年の三学期


そろそろ大学どこに行くかとなった時にらへんだったはず


いつもの通り、一緒に蓮加と下校していた


○○:俺さ、やっぱりデザイン系の大学行きたいなぁ


蓮加:いいじゃん、○○の得意なことだし
  蓮加も○○の進路それで決まりだと思ってた


○○:あ〜、やっぱり?
  でも、なぁ…
  建築系も捨てきれない…


このときの僕は、デザイン系の仕事に憧れつつも

昔の夢だった設計士の仕事も、再燃していて

先生にも親にも明確な答えを出せていなかった


蓮加:あ〜、そっか…
  ○○はデザインの方が似合うと思うけど


○○:まあね、俺自身もそう思ってるよ?


まだ寒さが残る気候

彼女の手袋と耳あてが、とても可愛く映る


蓮加:ん?
  どうしたの?


○○:いや、蓮加のそういう格好もかわいいなって


蓮加:おぉ、言うね〜
  蓮加だってさ、ああいう少し大人なのも持ってるんだぞ?


蓮加が指さしたのは、駅に向かうOLらしき人


蓮加の耳あてや手袋は、ピンクが目立つ感じだが

その人のは、茶色や灰色だった


別に、それが蓮加に似合わないとは思わないし

その色のを付けていても、同じことを僕は言ったはずだ


○○:そうなんだ、今度見せてほしいな


蓮加:いいよ〜
  今度じゃなくて明日、付けてくるね


○○:やったね



この日のこの会話

決して忘れていたわけではない



ただ、帰宅後すぐに塾に行かないといけなかったこと

夕ご飯を食べるのが遅かったせいか、すぐに寝てしまい


その日の記憶が少し薄れていた



そして、その日の翌日


ことは起こる


それも、起こるべくして起こったとも言えよう



○○:あ、蓮加ごめん!
  委員会が遅くなっちゃって


蓮加:いいのいいの、○○を待ってる時間も幸せだから 


こう言ってくれることだけで、僕は満たされていた


○○:それじゃあ、帰ろっか


蓮加:うん!


帰り道、いつも通り先生の愚痴や委員会の小話なんかをしながら僕は蓮加と歩いていた


しかし、蓮加の顔があまり良くないことに気がつく


○○:あれ、僕自分のことばっかり話しすぎた?


蓮加にそう聞くと


蓮加:なんか、忘れてない?


語気が少しだけ怒っているように聞こえる


なんか忘れている…?


何だ…

何のことだ…


僕は頭をフル回転させる


思い出せ、思い出せ…



しかし、疲労と寒さで頭は上手く回らない



そして、蓮加は段々と顔が不機嫌になっていき

やがて、


蓮加:自分で言っておいて最低…
  もういいよ


○○:ちょ、ちょっと蓮加待ってよ!


蓮加は行ってしまった


僕は、このまま蓮加に駆け寄って謝ればよかったんだ


そして、多分そうすれば忘れてた手袋や耳あてのことも思い出せたし

蓮加の機嫌も少しは直ったはず



でも、このときの僕はそんなに気が利くわけでも

女心の知識の欠片を持っていたわけでもない



そのまま、蓮加に言われた

“最低”


という言葉だけが頭にこだましながら、とぼとぼと駅に向かって歩いていくしか無かった



そこからの関係は、よくなる兆しもなく


段々と疎遠になり


段々と連絡も取らなくなり



ついには、高校3年の夏手前


蓮加が僕を呼び出して



蓮加:もうさ、別れよ
  私、告白されたし
  ○○もモテないわけないし


蓮加のその発言は、素っ気なく

少しだけ寂しい感じがした



ただ、その場で何ができるわけでもなく

時間を取り戻せるわけもない僕は


そのまま首を縦に振った



蓮加とは、それ以来何も関わりなく


高校を卒業し

大学に入学し、卒業し


就職もした



成人式の時も、蓮加の姿は見えなかった



もう関わることもない

忘れたものだと思っていたのに…




僕の職場で蓮加と再会した数日後


仕事の休みをもらい、昼過ぎに指定された店に僕は入った



すると、すぐに蓮加の姿を見つけた


僕が来たことには気付いていなかったが、下を向きながらスマホをいじる姿も


とても綺麗に見えた

いや、綺麗だった


○○:お待たせ


向かいの席に座りながら、蓮加に言った


蓮加:ふふ、ほんとに来てくれるんだね
  ありがと


スマホから顔を上げて、僕の顔を蓮加は見て笑った


…ような顔をした


よくよく目の前で見てみると


目の下にはクマが出ており

髪もパサつき

顔に何かがまとわりついてるように見えた


○○:もしかして、まともに僕のこと見なかったのは
  この姿を見せたくなかったとか?


無礼を承知の上で、蓮加に聞いた


蓮加:半分正解
  もう半分は、後悔でそもそも顔を見る勇気がなかった…からかな


自然と、なのか

蓮加の顔から涙が、まるで蓮加を蓮加たらしめていた最後の一滴が落ちるように

顔に一筋光を引きながら落ちた


○○:とりあえず、何か頼もう
  僕紅茶頼むけど、蓮加は?


蓮加:コーヒー…


蓮加のそんな姿、見ていられなかった





少しだけの沈黙が訪れて、やがて頼んだ飲み物が届く


それを蓮加が一飲みして、口を開いた


蓮加:○○、まずはごめんなさい


蓮加はゆっくりと僕に頭を下げた


○○:いやいや、僕は謝られることなんか…


蓮加:いや、したの
  高校のとき、私○○が忙しくしてたのを知ってた
  …なのに、あんな風に○○を傷つけて


蓮加は、あの後僕の友達から

僕の意気消沈ぶりを聞いていたそうだ


その時は、まだ苛立ちもあって素直に受け止められなかったけど

後から考えれば、自分が僕を傷つけていたんだと気づいたと言う


○○:いや、僕が気づかなかった…と言うか
  忘れてたのが悪い…
  それに、あの時追いかけてれば…


僕も蓮加に頭を下げた


蓮加の心の内もわからないわけじゃないから

それに、蓮加だって僕以上に傷ついたはず


それなのに、蓮加ばかり謝らせるのは違う


蓮加:変わらないね
  素直で、実直で、優しいところ


○○:そう…かな…


蓮加:うん、ウェディングプランナーも
  多分成功してるんだろうなって思う


蓮加のその言葉に、僕はふともう一つの疑問を思い出した


○○:蓮加、あの彼氏とほんとに結婚するの?


蓮加に怒られても仕方がないこと

それを覚悟で僕は聞いた


しかし、蓮加は怒らず

ため息を1つついて


蓮加:うん
  そうらしいよ


らしいよ、という答え

受動的だ


○○:あの時も、蓮加は一切意見は言わなかった
  僕の前だから、だけじゃないよね?


蓮加:そう、だね
  ○○を今日ここで呼んだのはそのためかな


カップを置いて、蓮加は僕を真っ直ぐ見つめる


そして、また口を開いた


蓮加:挙式の話、私の意見通りそうにないかもしれないんだよね


○○:…というと?


蓮加:どうもさ、あっち側が神前婚を希望してるみたいで…


○○:ん?
  え、だって見学するのはチャペルだろ?


蓮加:そう、
  でもね、もう決まりかけてるみたいだよ
  多分、見学したあと意見変わると思う


蓮加の言ったこと

時々あるケースではある


しかし、だいぶレアケース


僕自身、経験はない

それに、チャペルと神前婚だと衣装も、金額も、用意するものも何もかもが違う



○○:蓮加の意見は


蓮加:通らないんじゃないかな
  私、人権なさそうだし


○○:嫌々の結婚…じゃない?


蓮加:…そうかも
  でも、もう決まったことだしさ
  親にも色々と話通っちゃってるから


引くに引けない…か



○○:よくわかった…
  できる限り、協力はさせてもらうよ


蓮加:ありがと
  とりあえず、こうやって会うのもそうだし連絡取りたいからLINE交換しよ


蓮加とLINEを交換して、すぐに店を出た


お代は、蓮加が払ってくれた



蓮加:…じゃあ、また


○○:気をつけなよ
   

蓮加:ありがと


蓮加の背中は、とても小さく、怯えてるようにも見えた

しかし、僕はまたこのまま動かなかったんだ…



そして、ホテルのチャペルの見学の日がやってきた


現地集合となっており、僕は先にホテルの人にことわりを取って

チャペルの前で二人を待つ



二十分後、二人がやってきた


彼氏:すいません、遅れました


彼氏の方が謝りながら、僕の元へ来る

蓮加はまたしても何も言わない


○○:いえいえ、お気になさらず
  それでは、見学始めましょうか


僕はあくまでも冷静を装って、二人を案内する

内心焦りというものもあったし、何より蓮加のことを考えて何かが飛びそうなのが怖かった



しかし、場馴れがあったからだろうか

心配したことは怒らず、順調に見学は進んでいく


○○:この正面のステンドグラスに光が当たると、とても綺麗に写真が撮れますし、思い出にも残りやすいですよ


彼氏:おぉ…いいですね
  あ、それとこれって、あの入り口から入ってくるじゃないですか


彼氏の方が、沢山質問をしてくる


何も聞かされていないのなら、彼氏側がとても熱心式のことを考えていると思いそうだが


これは、こっち側の信頼を獲得するためのフェイク

良い客を装って

突然神前婚になってしまって…
という話を上手く進めるための布石…



この彼氏の顔が、前よりずっとずる賢く見えてきていた



蓮加:……


蓮加はずっと何も言葉を発さず、ステンドグラスの輝きに目を光らせていた


その目と表情は、僕が見てきたどの新婦の人よりも綺麗だった




○○:それではこれで見学は終了となります
  何かご不明な点などは


彼氏:あ、ウェディングドレスとかの服って…


○○:そう…ですね
  式の日をまずは決めてから…のほうがよろしいかと


彼氏:そうです…よね
  わかりました、両親と相談してみます


○○:はい、お願いします
  次回の日にちは、いつになさいましょうか


彼氏:えっ…とじゃあ
  一週間後の、今日でお願いします


○○:かしこまりました…



二人と分かれてから、少しして

蓮加からLINEが届いた


{どうも、もうそろそろ神前婚にする提案しそうだよ}

{あと、今日のチャペルで挙式してみたかったなぁ}


この返信に、どんな言葉を綴るのが正解か

僕は悩んで悩んで…


{そっか、ありがと こっちも迎え撃つ準備はしておくよ}

{僕だったら、新婦の方が結婚式に憧れが強いんだから蓮加の好きな結婚式にするけどな}



もう終わってる恋

そうわかってても…


蓮加のウェディングドレス姿や白無垢の姿を想像して

己の妄想が現実になって欲しいと思ってしまう



○○:はぁ…


これが上手く終わったら、彼女作ってこの事を忘れたいな





けれど、現実はもっと大変なものになっていた…



彼氏:だから、神前婚にしたいんですよ!


何回目かの主張

語気も荒くなってきている


その理由は、僕が頑なにそっちにスイッチしないから


○○:チャペルまで行っておいて、神前婚…って
  何度も言いますけど、また1からですよ?
  チャペルでやるのと、また違うんですからね?


彼氏:だから、別にそれでいいって!
  両親がそうしてほしいって、言ってるんだから



ムキになり、僕も彼氏の方も熱が入る


ここで、僕は抑えていた言葉を彼氏の方に吐いた


○○:彼氏さんばっかり意見を通してきてますけど
  彼女さんの意見とか、彼女さんのご両親の意見はどうなんですか?


彼氏:は?
  二人の総意に決まってるだろ?


さも当たり前のように、彼氏は言った


だが、二人の総意なわけがない

二人の総意だとしたら、ここまで自分の意見を言わないなんてことはありえない


○○:それでは、ご両親に言われたと神前婚にしたい理由で仰ってますが
  それはどちらのご両親の意見ですか?


彼氏:…二人の両親だよ


○○:本当ですか?
  チャペルでの挙式では、新婦がお父様と一緒に入場します
  新郎やお父様との身長差を考えて、新婦はヒールの靴を履くことがあるため、練習が必要なんですよ?


新婦側のご両親もそれに同意したならば、綿密に考えられたプランを捨てることに同意したことになる


なんだかんだで、結婚式をするとき

予算がかかるのは新婦側なのは明白


決めたことを簡単に変えられるほど、新婦側の負担は軽くないはず…


○○:その練習をしたかはしりませんが
  神前婚となると、衣装も、場も、予算も大きく変わります
  新郎よりも新婦の方がお金がかかるんです
  それを、この短期間にスパッと決めたって仰っるんですね?


彼氏は、僕の剣幕に少しおののいているように見えた


しかし、すぐに顔を怒りの色で満たし


彼氏:もういい!
  帰るぞ!


蓮加の手を取り、店を出て行ってしまった




先輩:どうした、珍しく熱くなってたけど


少しして先輩が僕にコーヒーを渡しながら聞いてきた


○○:いきなりプランの変更を強いてきまして…
  どうも、新郎だけの意見が通ってる気がしてしまって…



先輩:まあ、それは嫌だよな
  こっちも誠意と自信を持って二人とその家族の幸せの思い出を作っていくわけだから…


肩を叩き、先輩は僕にそう言い


先輩:ま、お前らしくはなかったけど
  良かったんじゃないの?


先輩はそう僕を励ましてくれた



後日

店に電話がかかってきて、彼氏が僕との口論を理由に他の所でプランを組むことにするということを伝えたそう


まあ、妥当だし

僕からしても、プランを組むという点ではもう進む気がなかったから良かったかもしれない



ただ、蓮加ともう関わりがなくなるのかと思うと寂しかった






ところが…


ある雨の強い日、僕のマンションのインターホンが鳴った


その日は非番だったため、一日中家にいた僕は宅配がなにかだと思っていた


しかし出てみると、そこには



蓮加:○○…開けて…


○○:れ、蓮加!?


ずぶ濡れになって、今にも倒れそうな蓮加が立っていた



すぐに家に入れて、蓮加の体を拭く


○○:なんで、僕の家がわかったの?


蓮加:職場に行って、聞いてきたから…


か弱い声が返ってきた


荷物をさほど持っていない点

前よりも痛々しく映る顔や体



何があったかは容易に想像がつく



○○:とりあえず、お風呂入った方がいい
  丁度入ろうと思って貯めてたから


幸い、僕はまだ入っていなかったし

沸いてそんなに時間も経っていなかった


蓮加:ありがとう…


ゆっくりと

よろよろと


蓮加は風呂場に向かう



何度も見た背中が、一段と弱々しく見えた




蓮加がお風呂から上がって

持ってきていた服に着替えて、僕の前に来た


虚ろな目で

僕のことを見つめて


すとんと、僕の胡座の上に収まった



僕は、その行動に何も咎めなかった


ただ、僕にできることは

蓮加の頭をゆっくりと撫でることだけ



背中が丸くなろうと

顔が濡れようと

過呼吸気味になろうと



僕は頭を撫でて、背中をさする

それくらいが、今の僕にできることの最大限



どのくらい時間が経ったか…


蓮加が僕の顔の見つめるように向いた


その顔は、紅くなっていて

目はうるうるで

何より、とてもか弱い



蓮加:○○…私…まだ……


“……………、………………”


そんな状態の彼女から紡がれた言葉の一つ一つの繋がり



その繋がりで


蓮加がまだ僕を必要としてくれていること

それがわかった



○○:ごめん、ずっと…
  ずっと、蓮加のこの背中を見ても何もできなくて


蓮加:うんうん、いいの
  ○○は、優しいから…
  私と彼との関係を尊重してくれてたのもわかる


でも…


そう僕の服を強く握る


蓮加:…もう嫌なの
  もう、耐えられない…
  蓮加、あの人と一緒にいるのが辛い


○○:そっか…
  もう頑張らなくていいよ
  全部…全部…
  僕が蓮加を全部から守るから



君とこうして抱擁を交わせたのは

とても懐かしいことで

とても幸せなことだ




翌日、蓮加は婚約を破棄することを決め

心配していた両親に付き添われ実家に帰っていった



最後僕に見せた笑顔は

作られたものでも

へばりついたものでもなく


太陽の光を受けた、輝かしいものだった



チャペルの中

賛美歌が響く



僕の隣には、着たかったウェディングドレスを着て

やりたかったチャペルで式を挙げて


ご満悦な表情の蓮加が


我ながら、いい式にできたなって思う




あれから、蓮加とそのご両親は相手側にされたことで訴えると脅し

関係を破棄させた



そして、僕のことを蓮加は新しい彼氏として紹介した


ご両親は、僕のことを覚えてくれていて

反対などなく、結婚することを許してもらえた



蓮加は、僕と過ごすうちに前の明るさを取り戻し

顔や体の色々な残滓はまだあるものの

ほとんど昔のままに戻った



賛美歌が終わって、牧師の方がこっちを向いた


牧師:新郎、○○
  あなたはここにいる蓮加を
  病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も
  妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?


○○:はい、誓います


牧師:新婦、蓮加
  あなたは、ここにいる○○を
  病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も  
  夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?


蓮加:はい、誓います



牧師:それでは、指輪の交換を…



○○:ほんとに、キラキラして綺麗だよ


蓮加:全部、○○のおかげ



そんな惚気を前列の両親達に聞かれ、笑われながら

指輪の交換をした



すると、そこへ


彼氏:蓮加っ!!


あの彼氏が、よく漫画とかであるちょっと待ったの行動をしにチャペルの中に入ってきた



しかし、ある程度予想もできるし

海外の前例を知っている僕は、チャペルの入り口の警備の人を増やしており


すぐに取り押さえられた



彼氏:蓮加、そんなやつよりも
  俺と一緒に、またやり直そう!
  蓮加の言う事、ちゃんと聞くから


泣き言のようにほざく彼氏


それを見た蓮加は、マイクの前に立って



蓮加:邪魔だから、早く出て行って


と冷たく言い放った



そして、僕を手招きして呼ぶと


慣れないウェディングドレスにやきもきしながら、僕と唇を重ねた



蓮加:わかった?
  もうあんたのことなんか、ちらつかないから



彼氏は、そのままつまみ出された



蓮加:もう誰にも私との仲は引き裂けないもんね
  ダーリン?


○○:当たり前でしょ?
  もう蓮加のこと、離さないから



拍手が響く中


彼氏のあれすらもいいパフォーマンスになったと思った二人は


顔を見せ合いながら微笑んだ




もう、この小さくて繊細な背中は離さない


待たせすぎたから


君のことを愛するなら、その分を増して返さないと



あの言葉をずっと募らせてくれていた君に釣り合えない



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