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初めて会った日から何周か回って恋をした 8

6月の下旬


○○や、蓮加たちの待ちに待った校外学習の日になった




バスで行くのだが、そのバスの席


席順は出席番号順だったので、○○と蓮加は離れることに…


蓮加:ぶぅ…


○○:着いたら、一緒に回ろ
  ね?


蓮加の手を握って慰める


高橋:一応先生たちも見守ってるけど
  くれぐれも迷子にならないでよ?


【は〜い】


○○と蓮加のことを見つつ、先生は言った

どうも、この二人のことを心配しているようだ



バスの中でも、生徒たちはワイワイとしていたが


バスが止まり、先生がマイクを持って皆に呼びかけるときには


そのマイクの声さえも聞きづらくなるほどの賑やかさになっていた


高橋:聞いて!


先生の張った声に、生徒たちは

シンとなる


高橋:今から全員でバスから降りて、園長の方に挨拶するからね
  その後は、決められた範囲なら行っていいよ


【イェーイ!】


高橋:くれぐれも、迷子とか怪しい人には気をつけて
  何かあったら、すぐに先生たちを呼んでね


【は〜い!】




○○:よ〜し
  まずどこ行こっかなぁ…


もう既に、○○はどこに行くかを考えていた



蓮加:先生〜!


高橋:何?


ほとんどの皆がバスを降りたとき、蓮加は先生を呼んだ


蓮加:ご挨拶終わったら、トイレ行きたいんだけど…
  どこですか?


高橋:じゃあ、終わったら一緒に行こっか


蓮加:わかったぁ〜!


トタトタと蓮加がクラスの皆の元へと駆けていく


高橋:タメ口と敬語が混じってるんだよなぁ…


先生は苦笑しながら頭を掻いた





○○:よしっ
  先生、バクのところって…


挨拶が終わって、一回クラスの生徒が集まる

その中で、○○はリュックの中の地図を出して



○○:ここ、ですよね?


高橋:そう、そこ…
  だけど、ここから先は
  いっちゃだめだよ?


ピンクの線で囲われたところを指さす


バクのいる飼育エリアの奥は、行ってはいけないことになっている


理由は、わからないけど…



○○:わかってます!


高橋:うん
  じゃあ、皆安全に、楽しんで!


【お〜!】


クラスの生徒たちが、それぞれ友達とくっついてバラけていく



勿論


○○は蓮加と…



蓮加:いたぁ!


○○:じゅんびいい?


蓮加:いいよ!



二人はお互いを見つめ合いながら


最初の目当てであるレッサーパンダのところへと向かっていった



○○:うわぁ…
  すごい、うごくのはやい


蓮加:それでも、かわいいぃ!


レッサーパンダのエリアは、やはり結構人気で

他のクラスの生徒たちも来ていた


○○:やっぱり、にんきなんだね


蓮加:こんなにかわいいし、もふもふだからね


売店でぬいぐるみをほしそうに見ていたのを○○は思い出した


きっと、蓮加はもふもふしているのが好きなんだと思った○○



○○:つぎ、どこいく?


蓮加:れんか、トラみてみたい!


興奮気味に言った蓮加に、○○は笑顔を返して

近くにいた先生にトラの場所まで案内してもらった



やはり、トラのエリアにも生徒たちは多くいた


○○:おっきぃ…


蓮加:ひとりひとり、もようってちがうんだね
  

○○:それで、みわけてるみたいだね


手すりの横についている、紹介文を読んでいた○○は蓮加のそんな疑問にも答えられた


蓮加:へぇ…
  おもしろいなぁ


蓮加はトラに釘付けになっていて、2.3分その場から動かなかった


○○:れんかちゃん、もうすこしほかのもみよ


蓮加:うん!


それから、ゾウやライオン、チンパンジーなんかを見た二人



歩き回って疲れた位の時間に、○○たち生徒は開けた場所に集まるように言われていた


昼ごはんだ


高橋:先生の周りを丸くなるようにレジャーシート敷いて食べてね


【は〜い!】


高橋:クラスの全員が食べ終わるまで
  勝手に行動しないこと
  わかった?


【はい!】


高橋:よしっ…
  じゃあ、お手々を合わせて


【いただきます!】




蓮加:むぅ…
  まだだめなの?


早めに食べ終わった蓮加は、先生の横に来て

早く行こうとねだる


高橋:まだだね
  みんなが食べ終わらないと出発できないから


蓮加:みんな〜!
  早く食べてね〜!


蓮加がそう呼びかけると

クラスのみんなは笑いながら、わかったよ

と言わんばかりに食べることに集中した



何故か…



以前、蓮加が運動会の時に

やりたい競技にじゃんけんで負けて出られないと決まったとき


大泣きでぐずり

○○すらも手こずったからだ



つまり、泣かれるとまずい


という認識が、少なからずクラスの生徒たちにはあった


○○:早めに食べないと…


勿論、○○にも






高橋:はい、じゃあ行くよ〜


クラスのみんなが食べ終わり、○○のクラスは動き出した


お昼ごはんのあとは、クラス単位でふれあいをできるスポットに行ったり

写真を取ったりすることになっている



○○:せんせい、どこにいくんですか?


高橋:ちっちゃいおサルさんがいるところ


先生の横に位置どった○○は、先生に聞く


蓮加は、クラスの仲の良い女子たちと喋りながらついてきている


○○:楽しみだなぁ…


○○は以前来た時にはできなかったふれあいにワクワクしていた





3人一組でおサルたちと触れ合うことになっていた


そろそろ○○の番になろうかというとき



○○:あれ?
  れんかちゃんが…いない…


一緒におサルたちとふれあう約束をしていた蓮加がいないことに気づいた○○


先生に無断で、探しに行くことにした



○○:たぶん、ほかのところに…


○○は使命感に燃えていた

蓮加を探すことに


それは、父とのある約束があって…



○○は母親が家事で忙しい時

父親の病院で面倒を見てもらっていたときがある


その時、父親に言われたこと


○父:いいか、○○
  男は女の人を助けなきゃならない
  男はそういう役割だから


○○:やくわり?


○父:ヒーローってことだ


○○:ヒーローすき!   
  かっこいい!


○父:そうだろ?
  そのかっこよさを増やす方法教えてやるよ


○○:なになに!?
  どうするの!?


○父:それはな…


女の人の仕草に気づくことだよ



蓮加:うぅ…まよっちゃった…


蓮加は、○○が言っていたバク

をどうしても見たくて、一人で飛び出してきてしまっていた


一応地図が渡されているんだが


蓮加:わかんないからいいや!


蓮加は面倒なことが嫌いだからか、そもそも持ってきていなかった


蓮加:こんなこと…しなきゃよかった…
  ○○くん…
  せんせい…



今にも泣き出しそうになって、ペンギンのいる水槽にうずくまって座る



そして、大人たちはあまり気にせずあまりを過ぎ去っていく



蓮加はどんどんと悲しくなっていく…



蓮加:うっ……
  ○○くんっ…


弱々しい声で○○を呼んだ…



足音が、目の前で止まった

○○:ふふ、ここにいた


蓮加:え?


蓮加が顔をあげると

目の前には、○○が


蓮加:○○くん、みつけてくれたの?


○○: いなかったらね
  多分ここかなって


蓮加:ゔっ…、ありがとっ…


泣きそうな蓮加を、○○は抱きしめた


○○:これも、おとこのすること…


父親に言われたことを守り、使命感に尽きた○○


蓮加を連れて、クラスのみんなの元へと帰る








いや、帰ろうとした


蓮加を連れて歩き出した○○

最初は意気揚々としていたが


次第に歩みは力強さを失い、止まることが増えていった


○○:…あれ?
  おかしいな…


蓮加:○○くん?


○○:まえ、きたときは……えっと…


父や母と来たときのことを必死に思い返す○○


繋いだ手は、きっちり蓮加を掴んでおり

その手が、ギュッと締まったことを


蓮加は不審に思った

 

○○のこんな姿、一度も見たことがないから



蓮加:ばしょ…わかるよね?


○○:だいじょうぶだよ…
  しんぱいしないで?


そう笑う○○の顔は、どこかぎこちなく

蓮加を不安にさせた



少し歩いて、止まって

また少し歩いて止まって



それを繰り返していくうちに、○○は段々と下を向き

鼻をすする音がしてきた


蓮加:○○、くん?


○○:…うぐっ…
  

過呼吸が出始めていた○○

もう、泣きそうになっている


蓮加:しいくいんさんに、きこうよ


○○:みたんだけど…
  いなかった…


蓮加:じゃあ、ほかのせんせいとかに


○○:たぶん、もう…
  どこにもいない…



○○は蓮加よりも現状がわかっていた

自分たちが、完全に迷子であること

そして、助けを求めても届かないこと



小学校1年生には、十分過ぎるほど歩いた足は悲鳴を上げていた


○○:ごめん…
  ぼくが、ぜんぜん、たよりなくて……


終いには、○○が泣き出してしまった


蓮加:そんなことないよ
  ○○くんは、かっこいいよ


蓮加は、○○の背中をさする


しかし、○○は否定の言葉を並べた


○○:ぼくが、ちゃんとせんせいにいってれば…
  ちずを…ちゃんとみてれば…


蓮加:そんなこといわないの
  ○○くんは、れんかをたすけてくれたでしょ?




蓮加は、○○の顔を自分の顔に近づけて

目を合わせる


母親が、自分が泣きじゃくったときによくしてくれた

落ち着く方法



○○:うぐ…っ…
  

しかし、あまり効果がない


蓮加:れんかが、しっかりしなきゃ…


蓮加は、○○の手を引いてとりあえず絶対人がいる場所まで歩くことにした


遊園地の方だ


そこは、行っちゃいけないと言われたところだったが

この期に及んで、そんなこと守っている理由はない


○○:れんかちゃん…こっちは…


蓮加:だいじょうぶ、しんじて


このときばかりは、○○よりも蓮加の方がしっかりしていた



少し歩いて、まだ遊園地に着かないなと


蓮加が少し焦り出しとき



高橋:いた!!


担任の高橋先生がこっちに走ってくるのが見えた


蓮加:せんせい〜!!!!


高橋:こら…なにやってるの…
  心配したんだからね…


二人をガバっと抱いて、先生は泣いている○○と

泣き出しそうな蓮加の頭を撫でた


高橋:二人で、よく頑張ったね


と言いながら



○○:父さん…


校外学習から、家に帰ってきた○○


いち早く父親の部屋に行った


○父:おう、どうした

 
なにかの資料を読んでいた父親は、○○の元気のなさに

何かあると踏んで、手を止めた

 

○○:とうさん、まえに
  おんなのひとのまえでは、よわみをみせるな
  …っていったよね


○父:あぁ、言ったな


○○:なくなとか、わるくちいうなとか


○父:そうだな、そういうことをしちゃ駄目だと言った


淡々と、父は答えていく


○○:ぼく、よわみ…
  みせちゃったよ…


また泣きそうになる○○


○父:そうか…
  見せたか…


父は椅子から立ち上がって、○○の横に膝をつく


○○:ぼく、おとこしっかくだよ、


そんな泣き言を言う○○に


父は


○父:いいか
  確かに、弱みを見せるなとは言った
  それは、男がかっこのつかないところだから


ポンポンと、背中を叩く


○父:しかし、なにもそれができないからと
  男を失格だと思うことはない
  てか、なんなら弱みを見せてからが本当の男だ


○○:ほんとうのおとこ?


○父:そうだ
  誰にも弱みを見せないのは、強がってるように見える
  決して、誰かれみんなから強いって思ってもらえない


○○は、父の話に真剣に食いついている


○父:少しくらい弱みを見せるくらいが
  男として信頼される材料なんだ


○○:おとことして…しんらいされる…


○父:少しくらい泣け
  それで、泣いて強くなれ


父は○○の頭を撫でた



強くなれよ

と息子に念じながら

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