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雨が降るから君は嫌い

6月は、太陰暦の暦に直すと

水無月


しかし、太陽暦と照らし合わせると7月くらいに当たるそう


暦の不思議



紫陽花が綺麗な、地元のお寺

一人で周るというのは、雨のせいにしたくなるくらい寂しい


傘に叩きつける粒が

耳に響く度


私の孤独を一層思い立たせる


話し声で、それを遮れればいいのに

温かい何かで、私を包んでくれればいいのに


人に求めるものは、そんなもの



ため息を1つついて

帰ろうとした時


写真をとっていないことに気がついた


慌ててスマホを取り出し、構える


ただ、不慣れな大きな傘と

バランスの取りづらい石畳


画面の私と、綺麗な紫陽花がぼやけた


それを眺めると、やっぱり一人を感じる



もう、いいや


その写真を消すこともなく、私は重く、大きい傘を差して紫陽花園を後にした






大学の自習スペース



といっても、本気で勉強してる人がこんなガヤガヤした所にはほとんどいない


かくいう私も、勉強するためでなく



“わりぃ、待たせた”


この少しだけ紳士的な文学青年に会うため


そこで、私は約束をすっぽかしたことを咎める


しかし、この文学青年は


“埋め合わせはちゃんとするから、ほんとに体調崩してたんだって”


と最もらしく頭を下げ、私に詫びる


この行為が、私が許すという前提のもとに行われていると考えると

この文学青年は甘い



しかし、それを


軽く悪口を呟くくらいで許す私は

もっと甘い



いや、これは多分自分に甘いだけ

この文学青年と一緒にいたいっていう自分に甘い



“今度、一緒に服買いに行こうよ”


まるでさっきの謝罪が嘘だったかのような開き直り具合で、私に提案してくる



服は足りている

というか、もう買ってもらう気がない


自分の好みの服というより

この文学青年好みの服、を買っているから



“じゃあ、どこいく?”


頬杖をついた文学青年に、私は


江ノ島のデートに誘った



それは、この文学青年といった初めてのデート場所であり

私と彼を再開させた場であり


契った場でもある


“お、いいよ”



二つ返事で了承した文学青年は、


“んじゃ、俺もう少しで講義だから”

と去っていく



契りの講義は、彼をどんなに虜にしているのだろうか


私は、自分の腹部に拳を当てた





江ノ島に降り立った私

隣には、文学青年ではなく


大学に入ってからできた、弓道少女


[いや〜、たのしみだなぁ]


幼げに呟く彼女に、私は傷が癒えたように感じる



かの文学青年は、またも私との約束を破った


大方、2番の私のためでなく

1番の誰かのためにこの時間を使っているのだろう



大きな傘を、また私は持って江ノ島に繰り出す



屋根から落ちる粒


それが香気のあるソールフードと私の鼻との間を遮断する


[あ、これ私食べたい!]


弓道少女は、指をさし私に訴える


私は笑顔でそれを許し

弓道少女は、喜びながらたこせんべいを買う



そんな食べ歩きで、私と弓道少女はとても楽しんでいた



そろそろちゃんとしたご飯を食べようと、江ノ島から出て近くのお店に行こうと

江ノ島の坂を下っていると



すれ違った


見知った影



[ねぇ、あれって…]


間違いない

かの文学青年だ



綺麗な女性を連れていた


傘がまた重くなる



[大丈夫?]

心配してくれる弓道少女に、大丈夫だと伝える


から元気で、私は弓道少女を先導する



弓道少女は、とても寂しそうな目をしていた



はぁ…

まただ


あの文学青年のせいで、また外出が重くなってしまった



この傘を、持ち歩くのもやめにしようかな



私のために、文学青年が

まだあそこまでの遊び人になる前に買ってくれた和傘


桜文様の綺麗なこの傘は


彼と私を繋ぎ止め

私と周りを不幸にしていくのかもしれない




ただ、これを私は捨てられない


彼のことも諦められない



もし…

なにかがあって…



そんな叶わぬ願望に、私は束縛されている




あぁ、雨が降るから


私は君を嫌いにならなきゃいけない




でも、ほんとに嫌いにはなれないよ…



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