初めて会った日から何周か回って恋をした …ローグ
優しく照る太陽の元
住宅街のある一軒家から、笑い声と幸福そうなオーラが出ている
リビングとそれに向かうように設計されたキッチン
そのキッチンで女性が包丁の快音を響かせていた
しかし、その音は真向かいの夫婦の会話に遮られてあまり聞こえない
「いや〜、二人がめでたくこうなってくれて嬉しいよ」
「ほんとよね、出会って何年経っただっけ?」
すると、包丁をまな板に置いた女性がいう
「5歳の時だから… じゅう……はち?」
「そんな経つのか〜 歳を感じる訳だ」
「そうね、体が少し動かなくなったわね」
そういう二人に、IHの近くまできた男性が
「まだまだお二人とも若いですよ」
と言うのだが
「いや、〇〇君たちには敵うわけないでしょ」
「何なら、蓮加は早生まれだから 一番若いわよね」
と男女に言うのだ
すると、包丁を持っていた女性-蓮加が包丁を置いて言う
蓮加:パパやママは若さが羨ましいからそう言うだけでしょ
蓮父:ん、まあ…羨ましいというか…
蓮母:そりゃあ…ねぇ
顔を見合わせ、言葉を濁す
蓮加:やっぱりそうじゃ〜ん
少し身を乗り出して両親を揶揄う
すると、隣来た男性ー〇〇が包丁を握り
〇〇:蓮加は身重なんだから、二人と話してな
俺だって、料理できるから
蓮加:え〜、そう?
じゃあお言葉に甘えて
エプロンを脱いで、テーブルの方まで向かう
が、途中で引き返してきて
〇〇:ん? どうした?
不思議そうに〇〇が聞く
蓮加:ん!
腕を後ろで組んで、身を〇〇の方へと傾ける
〇〇:あぁ、はいはい
〇〇はその行動で理解をした
〇〇:見せつけるの本当に好きだな…
愚痴を吐きながら、唇を合わせる
蓮父:んなっ…
蓮母:まぁ…
両親もこの通りだ
蓮加:感謝の印にするって決めたでしょ?
〇〇:そうだったな、
蓮加:だからどんな状況だろうと、キスはします!
〇〇:はいはい、頭に刻み込んでおきますよ
〇〇は言い終わると、包丁で手際よく葉物を切っていく
蓮母:あら…、〇〇君の方が料理できるんじゃない?
そう聞かれた蓮加は
蓮加:え、え〜、そう…かなぁ〜
あからさまにそっぽを向く
〇〇:隠せてないぞ、蓮加…
でも、前よりは格段に料理の腕は上げてくれてますよ
蓮母:ほんと、できた子ね〇〇君は
〇〇のフォロー力を誉めた蓮加の母だったが
蓮加:ぶぅ…
蓮加はそれが不服なようで
蓮母:でも、事実でしょ?
蓮加:い、今はそうかもしれないけど…
蓮母:蓮加が〇〇君を抜く日が来るかしらねぇ
止めの1撃が蓮加に刺さりかけたが、
〇〇:でも、俺に料理教えてくれたのは蓮加ですよ?
〇〇がまたもフォローに入った
蓮母:嘘っ…
蓮加が?
蓮加:そ、そうだよ?
〇〇ができるのも、元を正せば蓮加のおかげなんだから
〇〇:だから、そう蓮加を責めないであげてください
〇〇は鍋に根菜類と木耳、こんにゃくを入れて醤油を少しだけ入れた
蓮父:これは、〇〇君の家の…
〇〇:根菜の汁物ですね
半分鍋みたいなもんですけど
蓮加:蓮加これ好き!
〇〇:知ってるよ
それからコンソメを一つ入れて、蓋をした
蓮父:そういえば、〇〇君のご両親遅いねぇ
蓮加の両親が待っているのは、〇〇の両親だ
〇〇:母来ますけど、父は多分来れないですね
今シンガポールかどっかなんで
ドレッシングを作りながら、〇〇は答えた
蓮母:あら、そんな遠いところに…
〇〇:まぁ、仕事が仕事ですからね
慣れっこです
ドレッシングを一回置いて、プチトマトを切ろうとすると
ピンポーン
蓮加:あ、来たんじゃない?
〇〇:律儀に鳴らしてくる辺り、母さんらしいな
蓮加が立ち上がって、玄関まで向かおうとしたら
〇母:何がらしいって?
もうすでに、入ってきていたようだ
〇〇:何も言わずに上がってきたんかい
〇〇が突っ込む
〇母:別に、いいじゃない
他人の家じゃないんだし
〇〇:理由雑やなぁ
親子の話がまだまだ続きそうなので
蓮父:お久しぶりです
蓮加の父が遮った
〇母:お久しぶりです
愚息がお世話になるようで…
よろしくお願いしますね
蓮母:いえいえ、〇〇君はできた子ですから
蓮加の世話をする方が大変かと…
蓮加:ちょっと〜、どう言う意味?
またご立腹のようで
〇母:そうですかねぇ…
蓮加ちゃんは〇〇に勿体無いですよ
どっちがどうとは言いかねますね…
蓮加:そうだよ、おばさんの言う通り
どっちがどうじゃあないでしょ!
そんな蓮加は気づいていない
〇〇の母の手の中で踊らされていることを……
蓮母:ちょっと、蓮加
おばさんじゃなくて、お義母さんでしょ?
蓮加の発言にすかさず訂正を入れる蓮加の母だが
〇母:いえ、大丈夫です
蓮加ちゃんにそう言われると、なんか気持ち悪いので
蓮母:そうですか…?
〇〇:じゃあ俺m…
〇母:〇〇、あなたはだめ、
目の圧がすごかった
〇〇:は、はい…
〇〇すらも、母の圧に負けた
とその時
「おいおい、ちょっとくらい蓮加ちゃんの顔を見させてくれよ」
〇〇の母の後ろから、突然声が聞こえた
〇〇:お、
蓮加:その声は…!!
蓮加が駆け寄ると
スマホの向こうに〇〇の父がいた
〇父:ヤッホ〜
〇〇:父さん!
蓮加:おじさん久しぶり〜
〇父:蓮加ちゃん久しぶり〜
〇母:はぁ…
こうなるから、見せたくなかったのに…
もう少しお淑やか過ごす空間でしょ、ここ
〇〇:そらぁ違うでしょ
そんなんじゃ、楽しくもないし暗いもの
母のぼやきを拾って返す
〇母:新婚なのよ?
もう少し静かに…
〇〇:そんなのできるわけないでしょ?
蓮加だよ?
蓮母:私たちの頃と違うんですよ
この子たちの代は
〇母:なんですかねぇ…
蓮加:ほら、〇〇も!
〇〇:はいはい…
〇〇が蓮加たちの方へと向かう
〇〇:ほんと、父さんらしいやり方だな…
○父:いや〜、流石に新婚の息子の顔くらい見ないとな
仕事は二の次よ
蓮加:わかってる〜
○○:仕事が二の次でいいなら、来てほしかったけどね
○父:そりゃあ、無理だろ
○○:やってることがやってることだからって?
○父:んまあ、そうだな…
少し重くなった空気の中、鍋がグツグツと言い始めた
〇〇:お、そろそろ汁物できるわ…
鍋の様子見て〇〇はIHの方へ
蓮加:おじさん、大丈夫ですから
蓮加たちなら
〇父:あぁ、わかってるよ
くれぐれもよろしくね
この二人の会話は誰にも聞かれていない
〇〇:そろそろできるよ〜
〇父:おっと、俺も呼ばれたわ
んじゃな、
〇〇の父は電話切った
蓮加:あ〜あ切れちゃった…
〇〇:はいはい、後でまたかければいいから
食べるよ
蓮加を背中の方から抱き締め、顔を右耳の横から出す
蓮加:う、うん…///
蓮父:これは俺たちが
蓮母:邪魔するのは…
〇母:悪そうね…
と蓮加の両親と〇〇の母は、静かにリビングから出ていった