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初めて会った日から何周か回って恋をした 12

初夏というのは

熱さがまばらなもので…


○○:母さん、行ってくるよ


小さく見えるランドセルを背負って、玄関で言う○○


○母:○○、夕方寒くなるらしいから
  上着、持っていきなさい


○○:ほ〜ん
  どうも


投げられたパーカーを受け取り


いってきます


と家を出た



○○の家は、結構小学校から近い


そのため、前よりも余裕を持って出なくても間に合うことを

中学年になって気付いた


○○:はぁ〜
  朝から少し蒸してると、なんか嫌な感じだなぁ


○○は湿気が強いと、気持ち悪くなったりする

昔からの体質らしく


こういう気候が嫌いなのだ


気分が優れないままに学校に着いた


○○:早く準備して、校庭でサッカーしよっかな


昇降口まで向かう途中で、○○の後ろから


昌輝:よっ!
  ○○!


ランドセルに向かって、飛びつくように

昌輝が○○に駆け寄ってきた


○○:ん、おはよ昌輝


昌輝:おはよう!
  お前が早めに来ると思って待っといて正解だったわ


昌輝はそう言いながら、○○からランドセルを剥ぎ取る


○○:おいおい、何するんだよ


昌輝:荷物ロッカーに置いてきてやるから
  ボール体育倉庫から取って、先やってろよ


昌輝の背中にはランドセルが無いことをみると

先に来て、○○を待っていたよう


○○:自分で取ればよかったじゃん


昌輝:いや俺、職員室に行く勇気なくてさ…


昌輝は少し気恥ずかしいのか 

下を向きながら答えた


○○:ったく…
  無駄に人見知りだな、昌輝は


昌輝:うるさいな…
  早く行けよ


○○を追い払うような手振りをした昌輝


本当は、昌輝が教室に向かえば済む話なんだが

昌輝がそれに気づいていないのを分かった○○は


○○:早めに来いよ


と言い残して、職員室へと走っていった


昌輝:…よしっ、教室まで行くか


少しして昌輝は、教室に向かった


廊下を走っているのを、見つからないように気を付けて



○○:昌輝遅いな…


体育倉庫の鍵をもらい

その鍵で倉庫を開けて、サッカーボールを取り出した○○は


得意のリフティングをしながら、昌輝を待っていた


○○:…そういえば、そろそろ大会あるな
  ちゃんとコンディション整えとかないと


ボールを一回落として、一人でドリブルをしていると


智也:お、やってんな


少し遠いところから、ランドセルを投げて智也が○○の方へと走ってきていた


○○:ん、先にともか


○○は智也の方に向き直り、智也に向かってドリブルをしながら向かっていく


そのまま、○○と智也はボールの取り合いになる


○○:昌輝がさ、俺のランドセル置きにいって戻ってこないんだよ


智也:そうなのか
  そりゃ、災難だな


会話しながらも、お互いボールを取ること、キープすること

に本気だ


○○:何、新しい靴買ったの?


智也:おう、いいだろ?


○○:色だけならな


智也:手厳しいな…


○○が少しその会話の中で重心がズレたのを見極めた智也は


すかさずボールを奪う


○○:っくそ、


智也:甘いぞ、キープ力


智也はそのままドリブルしていく


○○はその背中を追いかけ


○○:悪いね
  俺の専門はキープじゃなくて取ることなんで


股を上手く通してボールを奪い返す


智也:ちっ…
  相手するとなると厄介だな、おい


そんな風に二人は何度も攻守を入れ替えながら校庭を走り回っていた


しかし、そうしていると時間なんてものは早く過ぎ去っていくもので


生徒たちが校庭に集まり始めると、二人は体育倉庫にボールを戻して教室に向かう


○○:結局来なかったな、昌輝


智也:何やってるんだろうな


智也と○○は疑問を持ちながら廊下を歩く



ふと○○の鼻が、嗅いだことのある匂いを捉えた


○○:…おはよ


すれ違いざまに挨拶すると


蓮加:おはよ


と蓮加の声が帰ってきた


智也:岩本さん、どしたんだろ
  いつも遅く来てるのに


今日は確かに蓮加にしては早く来ている


○○:委員会じゃない?


智也:あ〜、掲示委員か


○○は適当に言って、蓮加の話題を終わらせようとしていた


蓮加


というワードが出る度、どうも汗が出るほど熱くなり

気恥ずかしくなる


智也:あ、○○
  大会の話だけどさ


なんとなくそれを察した智也は、○○の思惑通りに話題を変えた



程なくして、○○と智也はクラスに着いた

ロッカーを見てみると、○○のロッカー内にはしっかりとランドセルが収まっている


○○:昌輝、何してたんだろ


○○がランドセルから荷物を出しつつ粒やく



智也:…○○、あれ


何かに気づいた智也が指をさす


指の先には、廊下で先生に何かを言われている昌輝の姿が…


○○:廊下走ったな、あれは


智也:だな…



昌輝の顔を、苦笑気味で眺めて

二人は教室に入った



そして、○○達のクラスの朝礼が始まって

○○は違和感を持つことになる


○○:蓮加が来てないな
  どうゆうことだろう


さっき廊下ですれ違ったはずなのに

蓮加が席に付いていなかった


そして、担任の教師が健康観察をし始めたとき

○○の疑問は大きくなる


蓮加が呼ばれるときに


担任:岩本は、遅刻です



遅刻?

さっき会ったのに?


○○と同じことを思った智也は、後ろにいる○○の方を向いて

よくわからない、という顔をしていた


蓮加:…うぅ…


そんな○○が疑問を抱きながら授業を受けている中

蓮加は保健室にいた


そして、その理由は…



蓮母:生理?


蓮加:うん、きたみたい…


朝起きてから、昔のようにぐーたらやっている蓮加の姿に

蓮加の母は、理由は聞いてみると


娘に生理が来たというのだ


蓮母:そう…
  じゃあ、とりあえず辛くなったら保健室に行きなさい
  無理は絶対だめよ、いいことはないから


蓮加:…ん、わかった


蓮加は母のその助言に従い

朝礼の前に、保健室に来たのだ


養護:岩本さん、今はどんな感じ?


ベッドで横になっていた蓮加に、保健室の先生が声をかけた


敢えて、その姿を見せることなく


蓮加:なんか…まだ…
  複雑な感じが


曖昧に

しかし

素直に


蓮加は先生に答えた


養護:そう…
  でも、先生からしたら不思議よ


蓮加の答えを聞いた先生は、そのまま他の話に持っていった


養護:高橋先生のクラスで、よく転んだりしてた
  あの、岩本さんが
  生理が来て、ここに来るなんて


蓮加:…まあ、あのときは周りを考えずはしゃいでいたので…


養護:でも、この前見たときは
  昔ほとじゃないけど、まだまだ元気なのね


蓮加:一応、それが取り柄なので


養護:そうね、
  林藤くんの周りをず〜っと固めていたものね


先生は、○○の名前を出した

蓮加は、胸に他の痛みを覚えた



蓮加:○○のことしか、見てなかったかなと
  今になれば思います


養護:今は、どんな感じなの?


先生のその質問は、興味からくるものとはどこか違う印象を与える


蓮加は、そのまま


蓮加:昔より素直にならないで
  お互いに…ちょっと、


養護:…そう


先生は少し悲しそうに答えた





3時間目の終わりのチャイムがなる


養護:このまま早退しちゃう?


蓮加:そう…してもいいですか?


前日からの体調とも相まって、蓮加は早退するという選択肢を取った


養護:じゃあ、お母さんに連絡を…



そんなときだった


○○:先生、ちょっといいですか?


○○が保健室に入ってきたのだ


養護:…ん、ちょっとごめん
  少し待っててくれる?


○○のことを一瞥した後

蓮加の母への連絡を先にするため、先生は言い残して保健室を出ていった


○○:先生、急いでたな…


○○は、蓮加がいることを知らずに保健室に入ってきた


蓮加からすれば、なんとも損というか運の悪いというか

そういう状況に陥った



○○:それにしても…
  蓮加、どこいったんだろう


何気なく、○○は呟いた


それはなにか意図があるわけでもなく

心から、心配してできた言葉だった



それを気配を隠しつつも、すぐ近くで聞く蓮加


○○:なんか辛そうな顔してたよな…
  何かあったってことかな


○○の呟きは続く

本人がすぐ近くにいることを知らずに、


○○:昔から、蓮加体調崩しやすいからな
  よく薄着で外で出てたし、そのくせ気候に敏感な体質だし




蓮加:そんな風に、思ったんだ…
  なんか、ムカつく


ベッドの中

○○には聞こえない声で蓮加はぼやく



○○:はぁ…
  なんかキモいよな
  俺に何かできるわけでもないのに、ずっと考えてて


頭をかきむしりながら、○○は自嘲する


蓮加:…そんなこと、ないよ



蓮加は、○○のその言葉に静かに否定の声を出した





○○:でもな、俺
  蓮加のこと、ずっと好きだから
  小さいことでも、蓮加のこと考えちゃうんだよな…



蓮加:え?



ガタンと、ベッドに沿って置かれたパーテーションに

蓮加の荷物の一部が落ちて物音がたった




暫しの無言が流れた



○○:誰かいるの?



その○○の弱々しい言葉に、蓮加は反応するか迷ったが反応しないことにした




先生:よしっ、林藤くん
  どうしたの



丁度いいときに先生が帰ってきて、蓮加はことなきことを得た






蓮加:○○、私のこと好きなんだ


帰宅して、自室のベッドで横になりながら


呟いた



蓮加:…ふへへへっ



あの言葉を脳内で再生する度


むず痒さと、嬉しさがあふれる





両想いだと、蓮加に初めてわかった日のことだった

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