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ふわしゅわお嬢様はご執心 1

青い空の下

純白のウェディングドレスを纏った私と。黒いタキシードを着た彼


その姿を想像して、6歳くらいの時に言ったのを覚えている

あの頃の私は、何か大事なものを無くしたことなんて勿論なかったし

何より、あの時のような状態がずっと続くものだと思っていた


けれど…


和:どうしたの桜、いつにもなくぼーっとして

桜:ん?あ…いや何でもない


物思いに耽っていると、高校からできた友達に注意された

そうだ…今私は学年末テストの勉強会に来ているんだった


美:まぁまぁ、桜はいつもこんな感じじゃん

和:それはそうだけど、心ここに在らずって感じだったから


フードコートの一角で行なっている勉強会は、もう始まって30分くらい経つ

のに、私のルーズリーフにはほとんど字が書かれていない


それくらい長い時間、物思いに耽っていたんだろう


桜:ごめんね、いつもこんな感じで


2人の会話に少し罪悪感を覚えたので、自虐的に言ってみた


和:別に、謝られることでもない気がするけど…

美:自分で言っておきながら…和はそういうこと言っちゃうんだ

和:美空が先にいつもこんな感じって言ったんじゃん!


桜:ふふふっ


2人のこういうコミカルなやり取りを見ていると、おかしくて笑い声が出ちゃう


美:さ、また始めようよ 時間なくなっちゃうし

和:そうだね、美空のこういう時のしっかり者さは頼りになる

桜:あ、数学わかんないところあるから和、美空教えて?


…なんだかんだ、色々あったけど

こうやっていい友達にも恵まれてるし、悲観的になるのはまだ早いかなと思う16歳桜の咲く頃の私



“おい、聞いたか?昨日近くのイオンにすげぇ可愛い女子いたらしいぞ?”

“あれだろ?3人いた話だろ?“

“そうそう!やばくねぇか?”


教室の後ろで繰り広げられている会話が漏れ聞こえてくるけれど、僕からしたら関係ないことすぎてノイズとなっている


秀:おっはよ


そんな中、僕の友人が爽やかな挨拶をして肩を叩く


◯:おはよう

秀:随分そっけないけど、どうかした?

◯:単純にでかい声で会話されるのがね…


昔から耳だけは人並み以上に良くて、うるさい音がそういうこともあって嫌いだ

だから、あのノイズな会話も耳障りで…


秀:大方、テスト勉強で行き詰まってて息抜きというか肩の力抜きたいんでしょ

◯:だからって、あんなでかい声でしなくても…

秀:んま、我慢しなさいな


終始爽やかな態度で、僕の話を聞いてくれた友人は

担任が教室に入ってくると自席に戻って行った


“えぇ〜、わかってると思いますが学年末テストはもう目前なのでね、しっかりとやることやってから騒いでください”


担任の目は、さっきまで大声で会話していたメンバーへ

廊下にも響いていたであろうその声を聞いていたらしく、そのメンバー達はバツが悪そうな顔をしていた


“それじゃあ、一限目頑張ってください 号令っ”



窓側の席の僕は、起立の号令がなされると

窓の外に目をやった


そこには、桜の蕾があって

まだ桜色に染まらず、白い姿のままだった


何にも染まっていないその姿は、とても可憐で

でも、寂しくも感じた



ほとんど自習ということの多い午前の気怠い時間を終えての昼休み


秀:やっぱりここにいた


購買の近くにあるテラス席にいるところを、友人に見つかった


◯:どうした?いつもはここに来ないのに

秀:ほら昨日一緒に勉強できなかったでしょ?だから埋め合わせに今日は一緒にしないかっていう提案をしに

◯:いいけど、図書室でやるの?


この時期の図書室は勿論混む

だが、この友人は外のどこかでやると女子達に声をかけらえれやすいため

毎回、校内のどこかでやっている


秀:いいや、今回は外でやろうと思ってね

◯:へぇ…珍しい

秀:ほら絶好の場所があるじゃないか

◯:絶好の場所?


友人はそう言って微笑むが、僕はその場所にピンとこない


秀:朝話題になってたイオンだよ





放課後、必要な参考書を道具を持って僕達はバスに乗り込んだ


◯:それにしても、何であんなところで?

秀:決まってるでしょうが、気になるんだよ女子達のことが

◯:ほんと、行動力の塊だよ

秀:フットワークが軽いって言って欲しいんだけどなぁ


バスに揺られるのもいいなと思いながら、景色を眺めていると

イオンの最寄りに着くまではあっという間だった


◯:遊びに来てるわけじゃないから、ゲームセンターの方には行かないからね?

秀:わかってるって、◯◯は変なところ真面目なんだよ

◯:別に遊ぶならテスト後で良いいじゃん?

秀:息抜きっていうのが必要なのさ


マウントを取られるような顔と言葉にムカッときたけど、ここで言い争いをしていてもしょうがないと割り切って

イオンの中へ


秀:席どりしておいて、トイレ行ってくるから

◯:りょーかい


友人の分のリュックを預かって、僕は席を探す

正直4人席でも2人席でもどっちでもいいんだけど、狭いと友人が怒りそうだから4人席を取った


◯:さてと、まずは化学から…


参考書を広げて、ルーズリーフを取り出し問題に取り掛かる

最初の問題くらいを解いてる頃に友人が帰ってくることを予想したが、中々帰ってこない


◯:遅いな…


ペンを置いて、探しに行くことにした

大方、今朝話題になった女子達を探して回っているんだろうと思われた


学生で溢れかえっているフードコートの中で、いくら見知っているからといって友人を探すのは至難の技だ


あちこちキョロキョロしていると、胸元に何かが当たった感触がして

目の前でステンと転びそうになった女子が目に入った


咄嗟に手を伸ばすと、辛うじて肘の上あたりを掴むことができた


◯:大丈夫ですか?


体を支えるようにして立ち上がってもらいながら聞いた


桜:あ、はい 大丈夫そうです


ゆるっと、そして甘い声が答えた

その声に少しリラックスできそうな気持ちに襲われた僕は、しばらく余韻に浸ってしまっていた


桜:あの、お怪我とかないですか?


黙ってしまった僕を見て、どこか悪いところがあるんだろうと考えたのだろう

申し訳なさそうな目で僕を見ながらその女子は言った


◯:あ、大丈夫ですよ 勢いよくぶつかったからか心臓がうるさくて


よくわからない理由を話した自分に恥ずかしさを覚えながら、僕は答えた


桜:ならよかったです


はにかんだ笑顔が目の前に咲き、僕はまた黙り込みそうになる

しかし、どうにかそれを抑えて


◯:とりあえず、こうも人がいると危ないので行きたいところまで送りますよ

桜:え、いいですいいです


全力で謙遜する女子に、僕は続ける


◯:ドーナツで両手塞がってると危ないですし

桜:むっ…確かにそうですね


上を向いて可愛い擬音を呟いた後、そう言って僕の方を向き


桜:じゃあ、お願いしようかな


と言ってくれた


◯:はい、じゃあそこまで


僕はドーナッツの置かれたトレイを持って、女子に案内をお願いした


桜:今、友達とテスト勉強に来ててさ

◯:あ、同じです

桜:何年生?

◯:今高一です

桜:おぉ、同い年だ


歩きながらの会話もそれなりに進み、この女子と同じ制服を着た他の2人がいる席が見えてきた


桜:ありがとね


女子は僕からトレイを受け取ると、テーブルに置いた


が、僕はそんなことよりも他のことに注意がいっていた


◯:おい、秀悟何で僕のところにこないでここにいるのかな?


中々帰ってこなかった友人が、その席には座って他の2人と話していうらしかった


秀:あっ…◯◯

◯:あっ…じゃないのよ 一丁前にナンパしてないで勉強するよ

秀:ね?こういうところなんだよ、ほんと


僕のことを話していたのか、友人はそう2人に向かって言った


◯:ほら戻るよ じゃあ、お邪魔しましたぁ


脇をくすぐり強引に立たせ、腰を持って僕は友人を席に戻らせた





美:あの人面白かった ね?和

和:美空は好きかもね、爽やか系好きだし


2人がそう言っている中、私はここまで一緒に来てくれた優しい彼の名前をずっと頭と心で反芻していた


◯◯…

ありふれた名前ではない、だからここでもし会えたのなら奇跡としか言いようがない


和:どうした桜、動き止まってるよ

桜:あ、ごめん…ちょっとね

美:あ、さては一緒に来た男子のこと考えてたな?


美空の鋭い意見にドキッとして体が熱くなる


桜:まあ、そんなところかな

美:えぇ〜!?ほんとに?桜にもそういう人が…

和:ほぉら美空、すぐに茶化さないの


和の仲介が来て、美空のそれは止まった



けれど、私の体の熱さは全然収まることを知らずに

ずっとその熱を蓄え続けている


蕾が花を咲かせる前に養分とかを溜め込むように…




夕日が入口の窓から刺している

その柔らかで暖かな光に胸を打たれながら、ペンを動かす


私の胸は踊りっぱなしだった

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