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初めて会った日から何周か回って恋をした 15

林間学校行きのバス


俺と蓮加の席は、ちょっと遠くて…



○○:智也〜
  入館式やったら、何やるの


後ろの席に座っている智也に聞く


智也:えっと…
  なんか、森の中でオリエンテーリングだってさ


しおりを見て、智也は俺に言った



昔から俺は、しおりとかをすぐにクシャクシャにするタイプの人間だから


だったら他人に聞いたほうが早い


○○:サンキュー
 

智也:いいえー
  …で、岩本さんと話せそうか?


向かいの席に座っている昌輝に聞かれないように

智也は俺に近づいて言った


○○:まあ、なんとかなるかなって…
  賭けっちゃ賭けかな


智也:ふ〜ん
  まあ、お前のことだからある程度自身はあるんだろうけど


智也はそう言って、背もたれによりかかった


昌輝:なぁ、これ寝ていいやつ?


○○:お前昨日寝てねぇのか?


昌輝:いや、寝た寝た
  でも、なんかバスの揺れって眠くならね?


智也:寝てもいいぞ
  着いたら俺と○○で起こすから


昌輝:よっしゃーねるぞー


バスはまだ住宅地を進んでいる

まだ少し、林間学校の宿泊場所までは時間がかかりそう



先生:は〜い、ここに出席番号順で並んで〜


無事、2時間ちょっとで

林間学校の宿泊場所に着いた


○○:まだ眠そうだな、昌輝


出席番号順で前後ろの俺と昌輝

昌輝は、まだまぶたが重そう


昌輝:寝たりねぇ…
  夜まで起きてたいのに…


○○:それが理由かよ


間抜けな意見で少しだけ拍子抜けしたが


目の前を数人の友達と一緒に通り過ぎた蓮加に目を奪われて、あまりそのことに気を止めてなかった


昌輝:ん?
  どうかしたか?


○○:いや、なんでもない
  入館式中も、寝るなよ?


昌輝:へいへ〜い



そんな会話をしながら

内心ドキドキして、入館式に臨んだ



まあ、入館式に何があるわけでもなく

話を聞いて、挨拶して、

そんなもん




先生:少しだけ休憩したら、あそこの森の中でオリエンテーリングやるから
  楽しみにしておいてね〜


○○:…オリエンテーリングねぇ


昌輝:中身、何やるか言ってないの頭に来るな


智也:手を抜けるか抜けないか分かんないのが面倒



三者三様

ただ、そもそもの嫌っていう感情は一致している3人


○○:とにかく行くか〜


智也:疲れるのだけは嫌だな…


昌輝:飯が美味くなると考えればいっかな〜


○○:飯ありきかよ


智也:腹壊す未来が見えるわ



スタスタと、二人は先に行ってしまう


昌輝:おい、ちょっと
  待てよ〜!


昌輝は二人を走って追いかける



ただ、オリエンテーリングというのが面倒なことであることが後々わかることになる


オリエンテーリングの、恐ろしさはここからだったんだ







○○:で、班で行動するらしいけど…
  

○○の班員は、あまり面識がないまま

適当に決められた班であるため、結束感がなかった


○○:これ、結構大変になるぞ



案の定、○○の班は開始早々

○○の地図を読む力で、ポイントには辿り着くものの

足が遅く、他の班にどんどん抜かされていった


○○:…なんか、やり辛いな


○○はそう思いながら、とりあえずポイントは巡ることに集中する




そんな中、いくつかのポイント目で

座り込んでいる班が目に入った



○○:ん、


よく見ると、その班には蓮加がいた


そして、さらに近づくに連れてもう一つ気づくことがある


それは…


蓮加も○○と同じく、さほど見知った仲の人と組んでいないことだった


○○は、やり辛さは感じつつも

皆が付いてくれていたからいいが


蓮加は、それに耐えきれず

動かないようだ



○○:足、止まってる感じ?


一人の班員に聞く


男1:そう…
  それに、地図もあんまり分からなくなってきてて…


その班員が地図を持っているようだが

ポイントの入り組み方で、次どう行けばいいのかわからなくなっていた


○○:俺のところに付いてくる?


男1:そうしたいけど…


○○の提案に、その班員は苦い顔をする


理由は勿論、蓮加のこと



○○は、ここで声かけるなら自分しかいないことを感じ取っていた


○○:蓮加、


できるだけ自然に

そして、刺激することなく…


○○は蓮加に近づく


蓮加は、顔を少しだけ上げた


○○:他の人達に迷惑かけちゃ駄目だろ?


蓮加:別に、迷惑かけてない…
  それに、○○には関係ないでしょ


冷たく突っぱねられてしまう


しかし、今回はここでめげる○○ではなかった


○○:俺に関係ないのはわかるけど
  このままだと、先生たちも心配するし
  何より、この後のできることができなくなっちゃうんだぞ?


ここであまり強く言い過ぎるのもよくない


○○は、母親との会話で感じ取っていた

女子との干渉しない話し方を使う



蓮加:んっ…


蓮加は、少しだけ考えて

立ち上がった


蓮加:別に、○○に言われたからとかじゃないから…


○○:わかってるよ
  よし、それじゃあ行こうか


時計を見た○○は、少し急がないと

制限時間に間に合わないことを確認した


○○:ちょっとだけ、急ぐよ
  でも、焦んなくていいからね
  滑ったら危ないから


○○はそう後ろの皆に言いつつ

地図を確認する


○○が智也や昌輝といるなら

ここで待ってて、と言って一人だけでパスワードをメモってショートカットもできたりするんだけど…


と考えていて、一番焦っていたのは○○だった




それを蓮加は、じーっと見ていた



そして、目先のポイントに辿り着き

パスワードをメモしていたとき


蓮加は、小声で言った


蓮加:○○、一人で行きたいなら
  行ってもいいんじゃない?


○○:え?


蓮加:行きたいんじゃないの?
  ショートカットを、みんなにさせたいから


○○:なんで分かるんだよ…


蓮加:そりゃ、まあ…
  長い仲だし…


下を向いて、それ以上顔を見ようとしない蓮加


ただ、それが○○にとって良い兆しであることに間違いはなかった


○○:じゃあ、この道ずっもまっすぐ行って
  8っていうポイントで止まってて


蓮加:わかった


○○はその旨を蓮加の後に、他の皆に伝えて

斜面を登っていった




○○:少しは、蓮加と仲直りできそうなのかな…


さっきの出来事を思い出して

ほんの少しだけ安心感を持った○○


蓮加に話しかける事自体も、まあまあ賭けだったし…


○○:このまま、もう少し仲戻らないかな…


○○は一人で呟きながら

7と書かれたポイントにたどり着き


パスワードをメモして、登ってきた斜面をスライディングの要領で降る



蓮加:あ、きた


○○:これ、7に書かれてたやつね
  …んじゃ、最後のポイント行こうか


○○は、息が上がりながら最後のポイントまで歩き始める



少しだけ、晴れた心で

少しだけ胸を張って



智也:へぇ…
  そんなことがね…


オリエンテーリングから帰ってきて、少しだけ先生の話を聞いて


部屋に行く準備のために、バスから荷物を取りに行く時間


そのゴタゴタの中で、智也にオリエンテーリング中にあったことを話した○○



○○:ちょっと前進した感じだよね?


智也:まあ、そうだな
  …もう少しって感じか?


智也は、○○と蓮加の進歩について意外だと思いながら


もしかしたら、蓮加も○○とおんなじことを考えてたりしてるんじゃないか

と思った



○○:部屋は一緒なのに、班は違うの納得いかないな…


智也:まあな…
  俺も思うよ


昌輝:あ、○○、智也!
  部屋入れるらしいぞ〜!


遠くから、昌輝が叫びながらこっちに来る


○○:んじゃ、またあいつがいない時に話すか


智也:ん、そだな



○○と智也は小走りで昌輝と合流して、部屋に入る



ここからは、飯ごう炊さんまで自由時間


智也と○○と昌輝は

大会前のため、そのときのフォーメーションや相手の情報をまとめたファイルで戦略を練る


○○:とりあえず、相手側の防御固めたところからのカウンターは警戒しとくべきだな


智也:硬い守備からのカウンターは、もろに食らうときつい


昌輝:じゃあ、○○が下ってセンターライン近くにいればいいんじゃね?


簡易のフィールドを表した板と青と赤のおはじきでシュミレーションしていく


○○:できないこともないけど
  俺がいねぇと、パス回しに入れる人間減るのと一緒だから


智也:シュートしたら走る…
  じゃあ多分相手選手とおんなじタイミングくらいだろうし…


頭脳派二人は、幾度もおはじきを動かしてシュミレーションを繰り返す


ただ、カウンターを防ぐ方法が思いつかない


そこに、昌輝からこんな一言が…


昌輝:もういっそさ、カウンターさせればいいんじゃね?


○○:…は?


昌輝:だってよ、こっちがカウンター怖いなら
  相手だって、守備に力入れてるんだからカウンター怖いんじゃねぇの?


智也:…一理あるな


○○:でも、そうしたとして
  こっちが守りきれるか分からないぞ?


智也:簡単なことじゃないか?
  ○○が前線に大きくクロスを上げる
  で、クロス上げたらセンターラインまで引く


○○:うん


智也:で、誰かがシュートしたら
  上がってたやつも少しずつ下がり始める


昌輝:おん


智也:んで、相手にボールが渡ったら
  上がってたやつらはマークにつきながら下っていって
  元々俺たち側にいた奴らを、ディフェンスする…


○○:コーチとかに言ってみないとわからないけど
  それもありっちゃありだな!


昌輝:帰ったら、その練習したくなってきた!


智也:よしっ、ひとまずこれでいくか!


3人の議論が終わったところで

他の部屋が同じクラスメイトから、飯ごう炊さんの準備とか説明があるから野外炊事場に集まれと言われ


3人は喋りながら外に出る


料理は、部屋ごとにやるらしく


○○たち3人は、同じところで作れることに喜んだ



先生:え〜、火と包丁とかには十分注意すること!


小学5年生なので、そんなちゃんとしたものは作れないが

それでも、楽しみではあった



先生:なんかあったら、先生を呼んでください
  それじゃあ、はじめ〜



○○:頑張ろうな〜


智也:おうよ


昌輝:俺、鍋先に持ってきとく!



夕ご飯の、始まりは


○○と蓮加の仲直り作戦…

智也の企画したその作戦の幕開けでもあった…



-林間学校篇 前編 終了- 

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