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2025年若林正恭的#推したい会社

2025年に推したい会社について考えてみた

会社を「推す」という言葉に、ちょっとした違和感を覚えるのは、僕がアラフォーだからだろうか。20代の頃は、推しという概念すらなかった気がする。「好きなアーティスト」や「応援するスポーツチーム」といった言い方が主流で、「推し」という言葉の軽やかさには、どうしても馴染めない。だけど2025年の今、この言葉は確実に市民権を得ている。「推し活」「推しグッズ」「推し文化」――。ついには「推し会社」とまで来た。

なんだそれ、と最初は思った。でも、この数年で世の中の変化を目の当たりにするうちに、「推し」という行為には、自分なりの意味を見出すようになった。推すという行為は、他人から見てどうこうではなく、自分の価値観を肯定する行為なんじゃないか。であれば、僕だって2025年に推したい会社を考えてみたっていいじゃないか。

さて、2025年に推したい会社――まず思い浮かぶのは、地元の小さなパン屋だ。会社というよりは店舗だけど、あそこには何度も助けられた。仕事が行き詰まって、「このまま人生終わるんじゃないか」という不安に襲われたとき、そのパン屋のメロンパンを一口食べただけで、「まあ、もう少しだけ頑張るか」と思えた。バターの香りと甘さが、疲れた脳をふんわり包み込んでくれたあの瞬間を、僕は忘れない。でも、パン屋を推したところで、あまり話が広がらない気がする。

そこで、もう少し具体的な会社を挙げてみたい。たとえば「地方再生」を掲げるベンチャー企業なんてどうだろう。ここ数年、地方で暮らす人々の魅力を発信するサービスが増えてきた。かつて都会で疲弊した人々が、田舎に魅力を見いだし、「スローライフ」なんて言葉を胸に新たな生活を始める。そういう背景に目を付けた会社が、地方の特産品を全国に届ける仕組みを作ったり、地方移住をサポートしたりしている。僕の地元にも、そんな取り組みをしている会社がある。たとえば「野菜直送便」なんてサービスは、今や都会の主婦たちの間で大人気らしい。パリッとしたレタスや甘いトマトが、ダンボールいっぱいに詰まって届く。生産者の顔写真付きで。「応援したくなる」仕組みを、うまくデザインしている。

でも、もっと個人的な話をすると、僕が本当に推したいのは、ある掃除機メーカーだ。この会社を知ったきっかけは単純だった。リビングの片隅に積もったホコリを見て、娘が「パパ、あれ何?」と聞いてきたことだ。その瞬間、自分の生活の乱れが具現化した気がして、何とも言えない気持ちになった。慌てて新しい掃除機を買おうと調べてみたら、このメーカーにたどり着いた。手頃な価格でありながら、吸引力が抜群で、しかも見た目がスタイリッシュ。掃除機を手に取るたび、「よし、今日もやるぞ」と思えるようになった。これはもはや「推す」べき存在だろう。

ここまで書いて思う。結局のところ、推したい会社というのは、自分の生活や価値観に直結しているのではないか、と。地方再生のベンチャーも、地元のパン屋も、掃除機メーカーも、共通点がある。それは、僕の人生を少しだけ楽にしてくれたり、前向きな気持ちにさせてくれたりする存在だということだ。推すという行為は、何か特別なことではない。日常の中で、心が軽くなる瞬間を与えてくれるものに感謝し、その存在を他人に勧めたくなる気持ちの延長線上にあるのだと思う。

だから僕は、2025年に推したい会社として、このエッセイを読んでいる人にも、自分の「推し」を見つけてほしいと思う。大げさなことを考える必要はない。自分の生活をちょっとだけ豊かにしてくれる存在を、見つめ直してみる。それがどんなに小さなことであっても、推す理由としては十分なのだ。

最後に、推しの掃除機メーカーについて調べてみたら、社員の多くがリモートワークをしていて、働き方改革にも積極的に取り組んでいるらしい。何だかますます好きになった。「推す」って、こんな風にどんどん深みにハマっていくものなのかもしれない。

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