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通訳者の勉強方法(Part 2: S/W編)

前回の記事「通訳者の勉強方法(Part 1: L/R編)」に続き、今回も英検1級、TOEIC990点の通訳者が自分の経験から見つけた英語力を伸ばす方法をご紹介したいと思います。

ちなみにこれが前回の記事です。


それでは、今回は通訳者のS:スピーキングとW:ライティングの勉強方法について書いていきます。


3)S:スピーキングを伸ばすには ⇨ 小説の翻訳をする

通訳者にとってのスピーキングは一般的なスピーキングとは全く違う。

通常のスピーキングは自分の考えを相手に伝える為に話すことである。
しかし通訳者のスピーキングは通訳すること、つまり、他人の考えを一度自分で理解して、それを別の言語に変換して相手に伝えることである。

なので、普通のスピーキングの勉強方法を知りたい方は、ここを読んでもスピーキングは伸びないかもしれない。でも、すごく有益な話が書いてある…かもしれない。だから読んで〜!

で、通訳者のスピーキングの話。

通訳学校に行き始めた時、私はやや怪しいながらも、自分の考えはとりあえず問題なく話せた。つまり一般的なスピーキングはできていた
また、日本語から英語へと瞬時に変換する、瞬間英作文もそれなりにできていた
それなのに、日英通訳となると全く歯が立たなかった

なんでだろう?

話者の日本語が理解できない訳では無かった。私も曲がりなりにも日本人。これで英語だけじゃなくって日本語まで理解できなかったら、鼻の短い象、首の短いキリン、全身白のパンダである。
日本語はわかる。でも英訳ができない。聞こえた日本語を英作文しただけじゃ意味の通る英語にならない。なんでだろう?

うーん。考えたが結局、日英通訳のブレイクスルーは通訳学校に通っている間は起きなかった。
ブレイクスルーがあったのは、つい昨年のことである。

私は小学校の頃からTHE ALFEE(ジ・アルフィー。1974年デビューの日本の老舗バンド)のファンなのだが、バンドリーダーの高見沢さんが一昨年、初小説『音叉』を書いた。ファンはもう大騒ぎ!老舗バンドだけあって、ファンの中には外国人も翻訳家も通訳者もいて、有志でその小説を英訳することにした。その名も「プロジェクト音叉」!同人誌のノリである。

勢いよく始めたのは良かったが、みんな忙しすぎて、結局私一人で全部英訳することになった。だが、仲間がいるのは良かった。進捗報告をするのでペースが保てるし、英文校正や内容確認もやってもらえる。そして7ヶ月かかって、全241ページの小説を英訳した。大変だったが、本当に良い経験となった。

さて、小説を一冊英訳して何を思ったか。「本物の日本語ってこうなんだよな〜」と改めて実感したのだ。
今まで瞬間英作文練習に使っていたのは、英訳がしやすいように必要な情報が全部入った、偽物の日本語だったということを思い知らされた。

実際の日本語はメチャクチャである。
主語がない。目的語もない。過去のことでも現在形で話すし、未来形に至ってはそもそも存在しない。美しい叙情的な日本文であればあるほど、メチャクチャ度合いが強まる。

そんなメチャクチャな言語を英語に変換するためには、主語を足し、目的語を足し、時制を調整し、さらに背景や文脈の説明も付け加えなくてはならない。そこまで足さないと、日本語は英語に変換できないのである。

その事実に気づいた後は、日本語を聞いて英訳する時に、一体何が足りないのか意識しなくてもわかるようになった。怖がらずに情報をどんどん足し、見せかけの時制に引きずられることなく、分かりやすい英語で訳せるようになった。

まさに、ブレイクスルーが起きたのだ。


【具体的なS練習方法:小説翻訳】


●用意するもの:好きな小説、パソコン&プリンター(一度使用するだけなので所有していなくても可)、赤ペン(フリクションペンが良い)
●方法:小説をGoogle翻訳にかけ、プリントアウトした英訳文を赤ペンで修正する。

好きな日本の小説の1章分をGoogle翻訳で英訳し、プリントアウトする。
赤ペンで下記ポイントに注意してGoogle翻訳の英語を全体的に書き直す

*注意ポイント*


(1)主語、目的語:日本文に書いていないことが多いので、Google翻訳では間違っていることが多い。

(2)時制:日本語の時制は基本的にそのまま英訳すると間違っている

例1)春が来た。
「来た」は過去形?→Spring has come.(現在完了

例2)1954年、東京に生まれる。
「生まれる」は現在形?→He was born in Tokyo in 1954.(過去形

例3)あ、電車が来た。
「来た」は過去形?→Oh, the train is coming.(現在進行形


(3)動詞の名詞化:日本語では名詞化した動詞が多用され、Google翻訳では名詞形のまま英訳されるが、英語的には不自然なことが多いため、動詞形で英訳し直す

例)日本語は名詞を多用:「IOSのオリンピック延期決定後」
英語では動詞に変換:「IOSがオリンピックを延期することを決めた後」= After the International Olympic Committee decided to postpone the Olympics


(4)固有名詞の頻度:日本語では名前(固有名詞)で呼び続けるが、英語は最初の一回のみで後は代名詞

例)日本語「太郎はどう思っているのだろう?太郎の意見を聞きたいな。太郎もメンバーなんだから。」→英語では2回目以降の太郎は彼(he)にする
"I wonder what Taro feels about it. I want to know what he is thinking. He is also a member of our team."
*Taro、Taroと全部固有名詞にすると非常に不自然で、英語圏の人にとっては逆にわかりづらい。「一体何人Taroがいるんだ?」と尋ねられたことがある。


③ ネイティブチェックを受ける。(ネイティブの英語話者を見つけるのは難しいかも知れないが、有りと無しでは効果は雲泥の差。)

④ 原作の作家に捧げるつもりで、質、量とも気がすむまで英訳する。1冊訳すと達成感があるよ〜!


時間対効果はあまり高くないかもしれないが、ある程度まとまった量の、英作文用でもビジネス用でもない文学的な日本語を英訳することが大事。ビジネス用は普通の日本語と比べるとやはりきちんと情報が入っている。普通の、言外の意味がたくさん含まれた日本語を英訳してみること。

時間がかかるとはいえ、小説を使うと登場人物の気持ちに寄り添った英訳ができるし、ページ数が多い分情報も多く、言外の意味も簡単に理解できる。そして、何よりも楽しい!アルフィー万歳!



4)W:ライティングを伸ばすには ⇨ コロケーションを調べる


通訳者にとってのライティングは、スピーキング同様、自分の思いを伝えるためではない。日英翻訳である
フリーランスの通訳者であれば翻訳をする必要はないかもしれないが、社内通訳者は多くの場合、ビジネス文書の翻訳をしなければならない。

私がビジネス文書を英訳するときに一番気をつけていることは、「一回読んだだけでわかる英文を書く」ことである。そのためには英文として自然な表現、つまりコロケーション(単語のよく使われる組み合わせ)を使うことが大切である。

3)のスピーキングが長くなったので、今回はさらっと練習方法に移ります。


【具体的なW練習方法:コロケーションを調べる】


●用意するもの:これから英訳する日本語文書パソコン、インターネット環境
●方法:Googleアメリカ版で、コロケーションをググって調べる

日本で買ったパソコンのGoogleは通常日本版に設定されているので、アメリカ版にする。設定変更をしたくない方は、以下のURLからどうぞ。
https://www.google.com/webhp?gl=us&hl=en&gws_rd=cr&pws=0

英語圏のGoogleで検索しないと、非ネイティブの間違った英語も含まれてしまうので、必ずアメリカ版、もしくはイギリス版でググること。

コロケーションを知りたい語句を引用符“ “で囲んでググる。ヒット件数が多ければ、ネイティブ英語話者によって頻繁に使われていることがわかり、正しいと確認できる

③ 名詞と動詞の正しい組み合わせを調べたいときは(私はこれが一番多い)、名詞の前にアスタリスク(*)を付けてググる。

検索結果で何の動詞が使われているかを確認し、必要であればその動詞を含めて“ ”で再度ググり、ヒット件数を確認する。ヒット件数が圧倒的に多いものがあれば、それが一番使用されている、正しいコロケーションだとわかる。

例)「空手をする」が「play karate」で正しいコロケーションなのか知りたい。
(1)Googleアメリカ版に「“play karate”」と打ち込み、ググる。
→67,400件ヒット。あまり多くないので、コロケーションがあまり良くない(通常使われていない)ことがわかる。

(2)playよりも良いコロケーションの動詞を調べるため、「“* karate”」とplayの場所にアスタリスクを入れてググる。
→色々な例が出てくるが、”do karate”が散見される。

(3)”do karate”が実際に使われているか確認する。
→17,000,000件ヒットするので正しいコロケーションだとわかる。

コロケーションの正しい英文を書くことは、通訳者レベルの英語話者には不可欠である。もちろん、コロケーション辞典等を駆使して調べることもできるが、ビジネス文書の中には一般的でない単語も出てくるので、その単語がどの動詞と相性が良いのを調べるにはアメリカ版Googleが一番良いと思う。

慣れるまでは必要な情報と不要な情報の見分けがつかず、正しいコロケーションを得るまで時間がかかるかもしれない。しかし、時間をかけて検索結果に出てきた多くの英語を読んで、何が正しく何が間違っているかを判断していくプロセスこそ、ライティング力アップにつながる。

いかがでしたでしょうか?前回にも増してマニアックな内容になってしまいました。通訳者の勉強方法は全3回の予定なので、見捨てずに次回も読んでください!

アルフィー万歳!

Part 3: タスク管理編へ続く…

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追記)「Googleのヒット件数は正しくないので鵜呑みにしない方がいい」という指摘を受けました。
Googleのヒット件数が正しいか正しくないかはGoogleの検索システムの話なので、私にはわかりません。
ただ言えるのは、上記の方法は私だけが利用している方法ではなく、多くの翻訳に関わる方々が利用している方法です。つまりヒット件数が正しくないとしても、「現場で使えると認識されている方法」です。しかし、ヒット件数だけで判断するのは確かに危険です。例えば、”play karate”で検索しても”play karate games”があればヒットするので、コロケーションが良くなくてもヒットはします。
なので、コロケーションが正しいかどうかを判断するには、ヒット件数は参考までにとどめ、各コロケーションの検索でヒットした文を読んで、文法的に正しい使われ方をしているかどうか、ソースは信頼がおけるかどうかを確認した上で判断してください。


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