超短編台本「赤い月の夜」
「赤い月の夜」
一 教祖様は本当にそうおっしゃったのですか?
二 ええ。「君たちの中から一人選べ」と。
一 なんでそんなこと。
二 わかりません。今までこんなことなかったのですが。
一 そもそも、何をするための一人なのか教えてくださらなかったのですか?
二 私も尋ねてみたのですが、「その夜が来ればわかる」と。
一 それじゃあ何も
三 「赤い月の夜」
一 え?
三 聞いたことはありませんか?
二 ええ。
一 私も初耳です。
三 「赤い月の夜」。その夜が訪れるのは三十年に一度。信者は教団の秘密の小部屋に連れて行かれ、あることを成される。
一 「あること」?
三 その内容はおろか、どうやって選ばれるのかすら誰にも明かされていないのです。知っているのは時の教祖様と、選ばれし者だけ。
一 では、今回の教祖様のお言葉は
二 選ばれし者を私たちが選ぶ、ということになりそうですね。
一 ……? ちょっと待ってください…
二 なんです?
一 三葉さんは、どうして「赤い月の夜」のことを知っているのですか?
二 それは、三葉さんは私たちより長く信仰してらっしゃいますし、
一 「選ぶ側」の話がすっぽ抜けています。選んだ人たちはどうなったんですか? 「赤い月の夜」について知っているのは教祖様と選ばれし者の二人だけですよね?
三 消されるのです
二 え……?
三 冗談ですよ。私も風の噂で聞いただけですから、詳しいことは知らないのです。
二 あ、ああ、そうですか。はは。
一 ……。