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#78 私のバイブル

私のバイブルが更新された。

江國香織の「とるにたらないものもの」に、更新された。



6月に読んだ本は「6月に読んだ本」としてまとめて書くつもりだったのだが、読んでしまったら こりゃあまとめた中のひとつにはできん! という気持ちになった。ので今に至る。

これはエッセイなのだが、特別なエッセイだ。

なんでも、今まで出会ったエッセイというのはだいたいひとつの出来事に対してひとつのお話、というようになかば物語完結型という形であったが、

これはタイトルの通り「とるにたらないものもの」を題材にしたお話の集まりだ。例えば、石けん とか、 輪ゴム とか。固ゆで玉子 とか。

なんにも特別ではない顔をしてわたしたちのまわりにありふれている ものもの に対しての慈しみのようなものだ。

中でも「ケーキ」というお話がお気に入りで、本の前半のお話なのだが栞をずっとそこに挟んでいる。

ケーキ、という言葉に人がみるもの。それはたぶん実物のケーキよりずっと特別だ。ケーキがあるわよ、とか、一緒にケーキでも食べない、とか言われたときの、あの湧きあがる喜びは、そうでなきゃ説明がつかない。だって、どんなケーキかもわからないのに嬉しいなんて変だもの。
とるにたらないものもの  
江國香織


たしかに、、、。とひどく納得してしまった。

ケーキはショートケーキからモンブランまで全然味の違うものを幅広く含む言葉なのに、どのケーキか何も知らない状態でも ケーキ という甘い響きだけでわくわくできてしまう。

その湧きあがる感情について、私は考えたこともなかった。


こんな風に、驚かされるものばかりだ。

どちらかというと私は日常をけっこう味わっている方だと思っていたのに。全く、全く全然だった。

読めば読むほど、周りにはこんなに味のあるもので溢れていたのかと、まだまだ日常の噛み締めが足りなかったんだ、と頭を殴られたような気持ちになる。


なんだか頭の回路が増えた気がする。



本を読んでいて、ふふっという気持ちになることはしょっちゅうあるが、実際に笑ってしまうのはこれが初めてだ。

寝る前に読んでいたのだが、その日があまり良い日ではなくても、これを読めば良い日になってしまった。嘘みたいだ。いつの間にか口角があがっている。

この本は、一生たいせつにしたい。何度も何度も読んで、ここに立ち返りたい。

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