「首相官邸殺人事件」を読む
村松恒雄の「首相官邸殺人事件」は日本のミステリ史の中で忘れ去られた作品である。発表された昭和三十七年という当時としては、おそらく画期的なプロットと実験性を帯びた作品であったのにも関わらず、今に至るまでいわゆるミステリ名作ランキングなどの俎上に載ったことはないはずだ。おそらくこの「首相官邸殺人事件」という不穏な響きのタイトルを聞いたことすらないという人がほとんどであろう。この、いわば「隠された名作」ともいえる本作が、いかに日本ミステリ史からその存在を抹消されてしまったのか。当然