思弁逃避行 09.サラダをめぐる待ち時間

【09.サラダをめぐる待ち時間】

 ピザ屋のベンチで注文したピザが出来上がるのを待っていたときの話である。

 暇つぶしにと思ってメニューを眺めていると、サイドメニューに妙なものをみつけた。

「焼肉屋さんのチョレギサラダ」

 おわかりいただけるだろうか。なんとも言えぬ違和感が止まらない。

 まず、ここはピザ屋だ。焼肉屋さんなどではない。だというのにもかかわらず焼肉屋さんのサラダを出すとはなにごとか。勝手に持ってきちゃったのか。だめだよ。すぐに返してやるべきだ。

 そしてもう一つ。焼肉屋さんのサラダってそんなに特徴的だっただろうか。例えば、これならまだわかる。

「うどん屋さんのカレー」

 わかる。うどん屋さんのカレーは、いわゆるインド由来のスパイスを多用したカレーではない。和風だしのまろやかなカレーだ。それは紛うことなく、うどん屋さんだからこそ存在するカレーだ。

 しかし、焼肉屋さんのサラダはどうだ。焼肉屋さんでサラダを食べて、やはり焼肉屋さんのチョレギサラダは違うね、このサラダが食べたくてついつい焼肉屋さんに来てしまう、などど考えたことはあるだろうか。私は断じてない。もしもそんな輩がいるのならば、調子に乗るなとこめかみを殴ってやりたい。あとそもそもチョレギってなんなんだ。

 ということでチョレギとはなんなのか調べてみたところ、諸説あるようだが次のようにでた。

「野菜をちぎって作ったサラダ」

 おい、意味が被っているじゃないか。それではチョレギサラダは「野菜をちぎって作ったサラダのサラダ」という意味になってしまう。ならばチョレギを省くべきだ。「焼肉屋さんのサラダ」でいい。いや違う。ここはピザ屋じゃないか。「ピザ屋のサラダ」でいい。いやそんなことは知っている。「サラダ」でいい。

 不意に店員に呼ばれる。ピザができたらしい。デリバリーピザの店は店頭まで足を運んで持ち帰ると格段に安い。私はピザを受け取り、料金を支払い店を出る。

 帰り道、今私の右手にぶら下がっているのは「デリバリーピザ屋さんの持ち帰りピザ」であることに気づいた。これは「ピザ」であることは間違いないが、そう考えると随分とへんてこなピザだ。家に着いたら簡単なチョレギを作ってこのへんてこなピザと一緒に食べよう。いや、やっぱり変だな。「サラダ」でいい。

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