危機は待ってくれない 再エネの「社会的受容」に必要なこと 続き
先の記事では、現在のあらゆる危機が化石燃料由来であるにも関わらず新規投資が続いている状況や、温室効果ガス排出大国日本国内での再エネ普及を阻む反科学やNIMBY並びに世論形成の問題や課題を指摘した。このような矛盾や不条理の連鎖には、手間はかかるけれども日常で歯止めをかけていかなければならない以上、また新たな事例として「北海道子育て世代会議」主導の洋上風力発電反対ネット署名活動を取り上げる。
署名サイトchangeでの同団体の呼びかけには「早くから風力発電を推進してきたヨーロッパでは、景観の破壊や低周波の健康被害が明るみになり住民の反対運動などで再エネ事業は頭打ちとなっています。そこへ来て、これから事業を進めようとする日本が、外資の格好の市場となっている」とか「日本は、低周波や景観への規制が緩く、事業者の利益優先の計画がまかり通る事態となっています」とか「ヨーロッパなど諸外国では、洋上風力発電の海岸からの平均離岸距離が20キロ以上となっている中、海岸から700m〜5kmという近さに280〜310mもあ超大型の風車を50〜100機建設することは、住民の暮らしや環境への配慮を欠いていると言わざるを得ません」などとある。
さらに、署名本文に「4.低周波音、電磁波などによる人体への影響」には「風車から発生する騒音や低周波音などが、周辺住民に頭痛やめまいなどの健康被害を引き起こす事例が、国内外で報告されています。ドイツや、オーストラリア、韓国では低周波による健康被害訴訟で住民側の賠償が認められて風車の撤去に繋がった事例などもあります。洋上風力発電も人体に影響があるとの指摘がある一方で、充分な調査や調査結果の公開等が行われているとは言えません。ドイツでは、低周波の影響を避けるために住宅地から風車の高さの10倍の距離(300m の高さの風車の場合3km)を離さなければいけないという規制もある中、沿岸から最短で 700m の位置に設置する計画は、住民への配慮を欠き認めるわけにはいきません」とある。
これらは昨今の反対運動で共通の文言であり、ネットやSNSを通じて繰り返し拡散され続けてきただけに過ぎず、端から科学的根拠など無い。そもそも「風車病」騒動の発端は英語圏で、当初は米国や豪を中心に広がり、国にもよるが欧州では時差があった。風力など再エネは世界で成長産業であり、「頭打ち」どころか「青天井」なくらい。「外資の格好の市場」の要因は、かつてはけん引していた日の丸企業勢による動向の読み誤りなど、自らの撤退や衰退を招いた結果。洋上風力における欧州の「離岸距離」は「平均」云々ではなく、それぞれの国や地域の開発の特性。「沿岸から最短で 700m の位置」など、地元との協議次第で変更になる可能性もある。「健康被害」の訴えはあるものの風車との因果関係は科学的に認められておらず、近年話題になったフランスや豪などの判例は事業者の対応や景観を含む条例等の問題に起因している。
韓国の例も、JETROの報告に「被申請人は、風力発電機の建設工事の開始前と商業運転開始初期に住民代表らに地域発展基金を支給したとして、賠償の責任はないと主張」「基準周波数80ヘルツにおいて、A集落で最大85デシベル、B集落では最大87デシベルと、騒音被害の受忍限度の45デシベルを超過していることが判明」「実測結果に基づき、同委員会は風力発電の低周波の騒音が申請人に精神的な被害を与えたと判断」とあるので、「騒音障害」(noise nuisance)と言える。
そのために環境アセスがあり、日本では2012年以降に厳格化され、風力発電も対象となった。それまでは事業者による自主的なアセスのみで、同分野においては業界も関係省庁も手探り状態だったために周辺住民らとのトラブルも少なくなかったが、2009年の「風車病」騒動以降に環境省が本格的調査に乗り出し、2017年には国内外の科学的知見をもとに指針を公表して、現在に至る。道府県や市などが設ける環境影響評価委員会の場では、反対運動の主張にある事項もほぼすべて議題に上がるし、委員全員が事業計画に好印象を抱いているわけでもない。さらに、経産省での審査もある。一連の審査の議事録や関連資料はネット上で公開されているので読むといいし、読み比べてみるともっといい。
「北海道子育て世代会議」のFBの投稿には「詳しい風力発電情報はこちらにあります」と長周新聞を参照するコメントもあるが、同新聞の特徴は「風車病」の他に「温暖化は嘘」もあるので、リテラシーやファクトチェックを心がけようとする今時の世の中で気づく人も多いだろう。自分たちの主張を後押しするからといって、それが正しい情報とは限らない。再エネで有力な洋上風力に自ら背を向けていては、子どもたちに未来など残せるはずがなく、過去に他のメンバーが気候キャンペーンや「核のゴミ」問題にも取り組んでいた様子も確認出来るだけに、何とも言えない気持ちになる。
参考:
令和4年度 北海道環境影響評価審議会 開催結果
https://www.pref.hokkaido.lg.jp/ks/ksk/assesshp/109500.html#3kai
中央環境紛争調整委員会、風力発電機の運営事業者に1,463万円の賠償裁定 (韓国)
https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/06/da37077c0e66b77e.html
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