板谷梅樹の世界 昭和モダーン、モザイクのいろどり (泉屋考古館)
泉屋博古館、六本木の旧住友家麻布別邸跡地に、京都にある泉屋博古館の分館が開館したのが2002年、イメージとしては茶道具を中心に展覧会を開催している感じで、これまで積極的に行ってみよう、と思ったことがなかったのだが、今回、「昭和モダーン、モザイクのいろどり 板谷梅樹の世界」展(2024/8/31-2024/9/29)については、複数の媒体で紹介記事を読み、すごく気になって、会期末を前に慌てて行ってきた。
要するに住友財閥の集めた至宝を展示するための美術館なんだけど、名前が難しくてわからないよね…。
サントリーホールの帰り、ホテルオークラの方へ抜けて、神谷町駅に出ることが多いのだが、そのアークヒルズ裏手の道を少し進んだ、スウェーデン大使館の向かいにあったよ、泉屋博古館。
住友コレクションの中に、陶芸家板谷波山の作品が色々あるようなのだが、それを取っ掛かりに、波山の五男であるモザイク作家板谷梅樹の展覧会を企画したらしい。
モザイク作家? 日本ではあまり聞かないジャンル? イメージとしてはポンペイの遺跡のアレクサンダー大王とか?
展覧会会場では、幼いころから、父波山の壊した作品の陶片の美しさに魅せられ、そうした陶片を活用したモザイク画を志した、と紹介されていて、実際、波山作品の陶片や、ステンドグラス作家を志したときのガラス片などがガラスケースの中に展示されていて、梅樹の見た世界を垣間見せるようにしていたが、買ってきた図録に収録されていた文章を読んで、芸術のすさまじさを感じる。
板谷梅樹は、18歳でブラジルに渡航して現地の農場で働いたりしていたが1年くらいで帰国、何をするか迷って、ステンドグラス作家となる(展覧会にも花模様の窓や、ランプシェードなどが出展されていた)。その後、モザイク作品にも興味を持ち、昭和8(1933)年、26歳で、有楽町の日劇のホールに、洋画家川島理一郎の原画にもとづく、ギリシャ神話をモチーフとした巨大なモザイク壁画を制作。日劇は空襲被害を免れたため、このモザイク壁画も長く日劇内に残っていたが、戦後はベニヤ板で覆われて見えない状態になっていて、日劇取り壊しの際に改めて姿を現したという。
(今マリオンが建っている辺りに、つい40年くらい前までこのように美しい壁画をもつ建物が残っていて、移設が困難でむざむざと廃棄されてしまったのはなんと勿体ないことか…扉上の小さいモザイク作品3点だけは、梅樹の遺族の元に運ばれた、というのが慰め)
展覧会は撮影禁止で、ホールの「三井用水取入所風景」(現存する最大の梅樹作品)だけ撮影OKにしていた。四つ角に横浜市のマークが入っている! 横浜市の依頼で制作され、横浜水道記念館に長く展示されていたらしい。モザイク画の中に描かれている三井用水取入所は、今は津久井湖の底に沈んでいる建物とのこと。
美しい花の額絵は、ちょっと上野リチのデザイン画をほうふつとさせる。
クジャクのような鳥、キリン、板谷波山の陶芸作品に描かれたウサギ、魚、鳥の文様をモチーフにした作品。波山そして梅樹のスポンサー的な存在となった出光興産で、社員への記念品として贈られてきた、抽象文様の皿。細かいモザイク文様が施されたたばこ入れ、飾り箱、アクセサリー。どれも繊細で美しい。
元は砕いた陶芸作品の、でこぼこした表面を生かして、壁画を作っていたが、調達が難しいこともあり、タイルの表面をはがして、それをモザイク作品に使用することが多かったということで、どうやって作ったのかなー、という心の声にこたえてくれるように、制作に使用された道具や、その手法が展示されていたのも嬉しかった。
梅樹作品は2室にまとめられ、第3室では「住友コレクションと板谷家」というタイトルで、板谷波山作品も紹介されていた。重要文化財になっている葆光彩磁珍果文花瓶(泉屋博古館東京蔵)の美しさに息を呑む。波山の妻まるの作品、梅樹の兄菊男の作品なども展示。本展とは直接関係ないが、第4室では「住友コレクションの茶道具」、ホールでは日劇の梅樹モザイク壁画の映像を流していた。
どれも面白かった。
人出はそこそこ、展覧会をじっくり眺めるのに支障があるほどの混雑ではなく、愉しく観覧。
そんなに長い展覧会ではないが、絵ハガキ、マステ、クリアファイル等、グッズもかなり充実。図録はコンパクトで買いやすいサイズ(でも1800円した…)。
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