福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧
「福田美蘭展 千葉市美コレクション遊覧」2021年10月2日~12月19日 千葉市美術館
行かなくては、と思っているうちに、もう会期後半である。慌てて千葉市美術館まで福田美蘭展を見に行ってきた。千葉市制100周年記念の展覧会で、千葉市美術館収蔵品の中から福田美蘭が「疑問が湧いたものや、もっと知りたいと思ったものを調べていきました。そうするうちに生まれた発想やイマジネーションを、『自分自身がかたちにして見てみたい』と思った作品を選んで」(千葉市美術館ニュースのインタビューより)コラボレーションした作品が展示されている。16点が新作。壮観。他館への巡回がないのが惜しまれる素晴らしい展覧会だった。
最年少での安井賞等、早くから認められ、各地の美術館の収蔵品として福田作品は幾つか見てきたが、こんなにまとまった福田作品を見るのは初めてである。2001年に世田谷美術館、2013年に東京都美術館で福田美蘭展が開催されているが、見逃していた。東京都美術館の展覧会では、西洋美術作品をから喚起された作品を主に展示していたらしいが(日本美術もあったようだが)、日本美術をあらためて考えてみたい、ということで、追求してきた過程が、今回展示されている。
千葉市美術館が誇る浮世絵の収蔵品の中から選ばれた作品を元に、自分の主張を付け加えた作品をつくり、作者自身が解説も附して展示している。図録の表紙となっている「けむさう」は、月岡芳年「風俗三十二相 けむさう 享和年間内室之風俗」という浮世絵を換骨奪胎して、元の作品にも流れる煙の渦を更に増し、五輪の輪をつくり、東京五輪に対するもやもやした気持ちを表している。鈴木春信「三十六歌仙 紀友則」は、地の紙に地に積もった雪の文様をエンボスした作品だが、福田の「三十六歌仙 紀友則」は、描かれた2人の人物の口元から、「富岳」がシミュレートした新型コロナウィルス飛沫感染の粒が点々と噴き出されている(図録でちゃんと両作品のエンボス=きめだし、というらしい、が再現されていて感心)。昔の名画を現代に再現するにあたって時代性を表しているが、「大事に思っていることがあります。時事的な問題に対して、自分の考えを作品で表すことはあっても、それを振りかざしたり、押し付けたりしないこと。『美術で社会を変えよう』『美術で社会に貢献しよう』というような、世の中に力を及ぼそうとして作る作品と、わたしの作品は全く違います。そのことを、はっきりとわかってもらわなければならないと思っています」(同上)と語っている。
葛飾北斎の「富嶽三十六景 凱風快晴」を元にした作品は、雲の模様に独自性があるが、そのだまし絵的構造は、福田の父福田繁雄に通じるものがあるな、と思った(わたしは最初福田美蘭の名前を知った時は福田繁雄の娘として認識していたのだが、父親の影響、的な言及はない)。
歌舞伎を扱った作品として、写楽の浮世絵をリアルな肖像画として再現した「三代目大谷鬼次の奴江戸兵衛」「三代目佐野川市松の祇園町の白人おなよ」はインパクトありあり。
千葉市美術館が持っている伊藤若冲「乗興舟」と、福田が令和天皇の祝賀御列の儀」の流れを乗興舟になぞらえた作品を向かい合わせて展示していたのも印象的。
「十三代目市川團十郎白猿襲名披露口上」はコロナ退散を願う赤い絵具で描かれ、コロナ終息を願う護符として、にらみの目の部分の刷物が配布されていた。1枚貰ってきたのがこちら。
語りだすと、すべての作品について語りたくなってしまうが、この位で。美術の自由、というようなものを高らかに宣言している作品の数々に、驚き、笑い、感動した。