空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン(東京ステーションギャラリー)
東京ステーションギャラリーで開催中の「空想旅行案内人 ジャン=ミッシェル・フォロン」展に行った。
2024年7月13日~9月23日東京ステーションギャラリー、その後2025年1月11日~3月23日名古屋市美術館、2025年4月5日~6月22日大阪・あべのハルカス美術館に巡回。
フォロン、って、不思議大好きだった時代の西武百貨店のイメージ。だったので、なんとなく、西武百貨店の宣伝広告にフォロンの作品が使われていたような気がしたんだが、検索してもそのような情報が出ない。自分の中の記憶が捏造されている? 1985年にJ-M.フォロン展が開催されているのは今回の展覧会の年譜にも出ていたが、それは1985年6月7日-6月19日:新宿・小田急グランドギャラリー, 1985年8月7日-8月19日:梅田・大丸ミュージアム, 1985年11月1日-11月14日:青森県立郷土館, 1986年1月5日-2月11日:神奈川県立近代美術館, 1986年3月9日-3月20日:愛知県美術館、とCiNiiの書誌情報には出ている。CiNiiの情報が尻切れトンボで、その後、1986年5月23日-6月17日に船橋西武の美術館にも巡回しているようだが、池袋ではやってないのか...じゃあなんでフォロンっていうと、西武みたいなイメージがあるんだろう???
ちなみに、この1985年~86年のフォロン展以外で、フォロンの名前が冠された展覧会は、1978年に「世界の現代画家50人展:サザーランドからフォロンまで」(京都国立近代美術館、名古屋市博物館)、そして1995年にBunkamuraザ・ミュージアムで「フォロン展」を開催しているようだ。展覧会の年譜で「1994年 この年から翌年にかけて日本(静岡、東京、京都)で巡回展開催」と記載されているので、Bunkamuraだけじゃないんだな。
これだけくだくだと書いたが、どれにも行ってない。なのに、フォロンの名前とか、絵のイメージとかは記憶の中に鮮烈に残っている。それだけ、他に類するもののない独自の世界観を持っているということか。
ということで、リアルにジャン=ミッシェル・フォロンの作品を見るのは今回が初めてである。会場入ったところに、フランスで作成されたアニメーション作品が流されていて、その後、彫刻作品と絵画がところ狭しと並んでいる。絵画は、墨、水彩、カラーインクの作品が多く、だから、退色を防ぐためか、会場は全体に薄暗くなっている。全エリア撮影禁止だったので、静かで落ちついた雰囲気。土曜日の午前中に行ったが、そんなに混雑して見にくいこともなかった。
空想旅行案内人(FOLON:AGENCY OF IMAGINARY JOURNEYS)とタイトルづけられた展覧会は5つの章で構成されている。
プロローグ 旅のはじまり
第1章 あっち・こっち・どっち?
第2章 なにが聴こえる?
第3章 なにを話そう?
エピローグ つぎはどこへ行こう?
多くの作品に出てくるリトルハットマン(目鼻口が線で描かれて表情の読み取れない、つばのある帽子をかぶり、Aラインのコートを着たひと)が、描かれた世界の中を旅する。多くの矢印が描かれた作品、オリベッティのタイプライターの広告のために描かれた、タイプライターのキーの上を歩くリトルハットマン(会場内でタイプライターをモチーフにしたアニメーションも流れていた)、絵画の中に金属部品が埋め込まれたミクストメディア作品、反戦をテーマにしたポスター、環境破壊への問いかけ、アムネスティの依頼で描かれた、世界人権宣言の本につけられた挿画。
ベルギーに生まれ、マグリットの影響を受けた、と書かれているとなるほど、リトルハットマンは、マグリットの作品に多く描かれる山高帽の男の系譜の中にいるのかな、とも思う。
淡く優しいタッチの絵、という印象だったが、描かれているテーマには強い主張も垣間見え、不安を掻き立てられる作品も多数。
芽が出るまでにかなり試行錯誤があったようだが、「TIME」や「The New Yorker」の表紙などを描くことで頭角をあらわしていったということで、きっちり構成された雑誌の表紙の完成度の高さにも感銘を受けた。
現代美術史の中での立ち位置がわからない画家だな、というのが観覧後の印象。水彩等が中心なので、油彩作品と取り混ぜて展示するのは難しそうだし、実際、名画展とかどこかの美術館の作品展などにフォロンの作品が入っているのも見たことがない。
2000年にフォロン財団が設立され、この財団で作品を徹底管理している模様。今回展示されていた300点近いフォロン作品すべてがフォロン財団所蔵の作品である。
美術史のはざまで忘れられそうになっていた画家を、財団でしっかり管理することで復活させた、ということかなぁ。
フォロン好きの人って結構いるんだろうなぁ。
今回の展覧会にあわせて、『フォロンを追いかけて』という本が2冊出ている。
展覧会公式サイトとは別に、「私たちのフォロン」というウェブサイトも作られていて、とても丁寧に今回の展覧会の案内をしてくれている。
これを機に、日本でフォロン再評価の動きが強まるのか、また静かに水底に沈んで行って、忘れ去られた頃にまた浮上するのか…。
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