99%の人が知らない「物語構造と身体機能の不思議な関係」に迫る
物語には惹きつけられるものと、そうでないものがあります。
その違いはなにか?という問いは、今まで多くの先人に研究されてきました。
例えば世界にたくさん存在する「物語の型」を例に語られたり、キャラクターに絞って語られることもあります。
しかし「なぜこの型なのか」「なぜこのキャラクター像なのか?」と、もう一歩踏み込んで語られることは少ない。
概念として知識を「知る」より、その知識が腹に落ちて「理解する」ことが、知識を実際に使える知恵にするために重要だと、僕は思います。
「腹に落ちる」とはよく言ったものです。
今まで頭にしまっておいた知識が、知恵として身体の血肉になる感覚は、あなたも身に覚えがあるかもしれません。
「あぁ、そういうことだったのか」と。
そこで今回は僕らの最も身近である「身体機能」という視点で、物語構造について紐解いていこうと思います。
で、身体機能の視点で考えたとき、物語構造の正体は何なのか?
結論から言えば物語構造はホメオスタシスの象徴です。
なぜなら古来から物語は生存確立を高めるために人間が編み出したものであり、生存するために最も重要な人間の機能がホメオスタシスだからです。
「ちょいまち、ホメオスタシスってなに…?」
はい、まずはホメオスタシスについて語っていくことにします。
ホメオスタシスとは何か?
あなたはコロナウィルスのワクチンを打ったとき、副作用はありましたか?
僕は38度の高熱を出しました。
僕は滅多に風邪をひかないので、かなり辛い経験でした。
コロナになる前にワクチンで死んじゃうよ、と思ったくらいです。
その後2日、3日ほど寝たら汗をびっしょりかいて、熱は引いていきました。
ワクチンの副作用に限らず、あなたも熱を出したことはありますよね。
その後に熱は普段の平熱へ下がったはず。
特殊な理由を除き、人はどんなに高熱を出しても、必ず平熱へ戻ります。
この常に最適なバランスを一定に保つ機能を、医学用語でホメオスタシスと言います。
さて、このホメオスタシスが物語構造とどう関係しているのか、その真相に迫っていきます。
ホメオスタシスと物語構造の不思議な関係とは?
すでに述べたように、世界に物語の型はたくさんあります。
例えば「三幕構成」や「ヒーローズ・ジャーニー」など。
それぞれの型に細かい違いはあれど、どれも非常によく似た構造を持っている。
物語構造はまとめると以下のような要素が確認できます。
日常
非日常(事件・試練)
宝を得る
日常へ戻る
なにか気づきませんか?
この物語構造は不思議なことに、ホメオスタシスの構造とピッタリと一致するのです。
僕のワクチン副作用を例にすると、僕は平熱という日常から、ワクチン接種という事件を引き金に辛い試練を体験し、そして日常の平熱へ戻ってきたわけです。
このように物語構造は、ホメオスタシスの象徴として語れています。
ただ、こんな疑問を感じるかもしれません。
「物語構造では宝を得るけど、ホメオスタシスにとっての宝は何なの?」
実は「ホメオスタシスにとっての宝はなにか?」を考えると、物語構造にとっての宝の理解も高まります。
物語のクライマックスとも言える「宝を得る」とは、何を表しているのでしょう。
本当の宝とはなにか?
ここでもう一度、僕のワクチン副作用を思い出しましょう。
僕はなぜ、わざわざワクチンを接種して、副作用を起こし、平熱というバランスを崩さなきゃいけなかったのか?
それはコロナウィルスの免疫を手に入れるためです。
確かに平熱を保てる方が生存確率は高い。
でもコロナにかかると生存確率は一気に下がります。
生物としてより生存確率が高いのは、コロナの免疫を手にした状態で、一定のバランス(=平熱)を保つことです。
だからワクチンを接種し、副作用の高熱という試練に耐え、免疫を手に入れ、平熱という日常に帰ってきたのです。
つまりホメオスタシスにとっての宝とは、免疫です。
僕が辛い副作用に耐えたのは、誰かに褒められることでも、金銭をもらうためでもありません。
自分が生きやすくなるためなのです。
物語的に言えば、外的な変化ではなく、内的な変化こそが真の宝なのです。
さて、この真実(=真の宝とは免疫、つまり内的な変化)を手に入れたら、物語を見る目が変わります。
ここで最初の問いに戻りましょう。
惹きつけられる物語と、そうでない物語。
その違いはどこにあるのでしょうか?
いよいよクライマックスです。
物語をホメオスタシスの視点から見ると、何が見えるのか?
ここまで語ったことから、導き出される結論はこうです。
僕らが物語に求めるのは、ホメオスタシスのバランスから大きく外れ、より大きな副作用(=試練)を受けている主人公である。
なぜなら、主人公の日常から最も遠くにある免疫(内面的な変化)を手に入れるには、強い副作用が必要だから。
作用反作用の法則を思い出してください。
強く押せば、その強さで押し返される、という自然法則です。
ホメオスタシスもこの自然法則に従っています。
つまり強いウィルスほど副作用は強くなる。
逆に言えば、強い副作用の向こうには、より強い免疫という大きな宝が待っているわけです。
だから物語の敵は強大であることが望ましい。
僕らは無意識でより強い免疫を求めています。
なぜなら生存確率が高まることを、僕らの遺伝子は知っているから。
つまり真に人を惹きつけるのは、ホメオスタシスの振り幅です。
ホメオスタシスの振り幅とは「副作用の前と後の内的変化の差」のこと。
内的変化の差が大きな副作用(=試練)を生み、人を惹きつけるのです
興味を引く事件も、魅力的な人物も、ホメオスタシスの振り幅には勝てません。
言い換えれば、ホメオスタシスの振り幅が大きければ、小さな事件や平凡な人物も、惹きつけられる物語として人々の心を動かし、記憶に残ります。
ストーリーテラーはワクチンを投与する医者です。
患者であるオーディエンスに、強烈なホメオスタシスを体験させることが、あなたの仕事なのです。
あなたが日常へ帰るとき
さて、物語構造とホメオスタシスの不思議な関係を紐解く旅も、もうすぐ終わります。
お土産代わりに「最後の問い」を。
主人公はどうして日常へ帰るのか?
この問いについて、考えたことはありますか?
どうして桃太郎は鬼ヶ島で王様になることなく、元の村に帰ったのでしょう。
それは物語の宝は得ることが目的ではなく、生活の一部として使うことが目的だからです。
ワクチンは免疫として機能しなければ意味がないのと同じ。
ワクチンが身体をめぐり、まさに血肉となって免疫化することで、進化・成長した新たなバランスで生きることができるのです。
ワクチンと免疫。
これはつまり、知識と知恵の関係なのです。
さあ、あなたも日常へ帰るときがやってきました。
この記事で得た宝を腹に落とし、あなたの血肉にしてください。
知識があなたの知恵になったとき、このホメオスタシスの物語は幕を閉じるのだから。