ツールキットの補遺 1
「世界をみるためのツールキット」のおまけを少しずつ不定期に書きます。ウェットなのは季節柄です。
疑似問題
ある小さな姉妹がオレンジを一個取り合っています。それを見た親は、「姉も妹もオレンジが欲しいのだ」と考えて二つに割って双方に渡します。しかしこれはベストの解ではないことが後でわかります。つまり、妹はオレンジの実を、姉はマーマレードのための皮を欲しがっていたのです。このように、対立や争点が本来あるべき地点から外れて、誤って構成されているとき、それを「疑似問題」と言います。
疑似問題の一例
一例を挙げましょう。「セックスワークは強制なのか自由なのか」という、一見したところ大きな問題があります。ある人は自由意志といった哲学用語を持ち出して、「セックスワークは自由か強制か解決がつかない永遠の思想的な問題だ」と言います。またある人は、「ヒトは生殖が欠かせない。そのためには性欲が不可欠で、売買春も付随する」と言います。しかしどちらも論理の飛躍があります。
人は困窮に陥っているとき、ほかに選択肢(オルタナティブ)がなく、不本意な仕事を引き受けることがあります。これは自由でしょうか、強制でしょうか。私はこの問い自体が疑似問題だと思います。困窮している本人をほったらかしにして「高尚な」論争をするのは人倫にもとります。まずは本人が困窮から脱出する手段を一緒に考えるべきではないでしょうか。そして、困窮から脱したあとにはじめてセックスワークを本人の意思で行なうかどうかが明らかになると言うべきです。