(37) 留学生
サクラの花びらを散らした便せんのお便り、本当にありがとう。日本を離れてもう1年が巡ってきたのですね。去年サッチとふたりで、お別れに富士森公園の、サクラを見に行ったことが思い出されます。
そろそろゴザを敷いて、花見の宴が始まるころでしょう。今すぐにも、飛んで帰りたい! でも、いざ帰る日が来たら、イタリアのこの小さな町が、離れられなくて、大泣きしそうです。
今日も夕方、歌のレッスンが終って、帰りに野菜を買いに寄った店のおばさんが「復習なさい」とR の巻き舌の練習を、させてくれました。このおばさんは、会うたびにこうです。
イタリア語なんて、一語も話せなかった私だから、最初買物に寄った時から、気にしてくれていたのね。イタリア歌曲を学びに来たと知って、放っておけなかったのでしょう。この頃やっとOK が出るようになって、大げさに抱きしめて、褒めてくれます。
隣の肉屋のおじさんもパン屋さんも、私が通るたびに、声をかけて挨拶の練習を、催促します。町の中に何人も先生がいるのです。
ホームシックの日、あの人たちの優しさが、私をもう一度奮い立たせてくれます。
異国での親切が、どんなに心に沁みるものか、身をもって知りました。
サッチも留学生を見かけたら、心に留めていてね。ではまた。 陽子
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