(143) うさ晴らし
その朝、園田氏はジョギングの途中で、男の子二人の取っ組み合いを見かけました。
ほう、珍しい、見物させてもらおうか。園田氏は足を止めました。
4年生くらいの大柄な子に、背の低い細っぴいが、負けん気一杯でむしゃぶりついています。
負けるなよ! 昔の自分を見るようで、園田氏は思わず手に力を込めて、ちびっ子を応援していました。
大きい方は見物人を見ると、がぜん勢いを得て、めちゃくちゃに小さい子をけり始めました。
「やめろっ!」
見かねて園田氏は割って入り、チビの方を抱きとめました。
「スポーツだってけんかだって、ルールがあるぞ。急所は避けるってことだ!」
大きい方は、すぐに手を引きました。
「オレにもけらせろ! 放せよう!」
園田氏の腕の中で、小さい方が涙声で叫びます。
園田氏は抱え込んだまま、もう一人を先に行かせました。
「じゃましやがって、放せったら!」と、チビは腹の虫がおさまらないようです。
「おまえ、元気でいいぞう! もっと大声で叫べ!」
園田氏はあおりました。チビは ほんとに 大声でわめき散らしました。
「そうそう、その調子! いいぞう! もっとやれ!」
10回ほども叫び散らして、その子は ふっと力を抜きました。
気がすんだな! 園田氏が抱えた手をゆるめると、その子は クフッと首をすくめ、肩を落として、おとなしく去って行きました。
どーれ、またジョギングに戻るとするか・・。クフフ・・園田氏も小さく笑っていました。