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(164) 秘法

山並みのかなたに、富士山の頂きを目にすると〈白隠さま〉を思い出します。

300年の昔、白隠は禅僧として、富士のふもとの駿河で活躍しました。若い頃、荒修行のために結核と強度の神経症にかかり、医師に見放されて、死を覚悟の旅に出ました。

京の山奥に住む白幽仙人の噂を聞き、はるばる訪ねて行くと、仙人は白隠自身と同じ病を克服して、今は200歳近いと聞かされます。

この時、仙人に教わった「内観の法」と「南酥 (なんそ) の法」という秘法を、忠実に実行して、白隠は3年で全快し、85歳まで布教を続けます。  のちに〈禅宗中興の祖〉とよばれるまでになりました。


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〈内観の法〉とは、正しい呼吸法により、気を丹田に集めて血液の循環を促進させる、という現代の健康法に通じるものです。

〈南酥の法〉は、秘薬を練り混ぜたカモの卵大の〈酥〉を、頭上に乗せていると空想しながら、座禅を組み瞑想する。酥がゆっくりと体熱で溶け、頭から首・肩・腕とうるおしていき、全身に染み渡って、骨の髄までとろりとした液体に浸っていると空想する。

すると、その液体の流れと共に、苦悩は流れ去り、全身がうるおって健康を取り戻す、というものです。

食の乏しい山中で長寿を得た仙人と、白隠の回復が心に残って、この瞑想と空想だけによる不思議な効果を、いつか試してみようと思いつつ、数十年の日が過ぎてしまっています。

(「酥」とは辞書によれば、「牛や羊の乳を煮詰めて濃くしたもの」とあり、チーズに似たもの、と記した書もありました。)

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