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B・ Dohertyの文体に感動(2)!

"The Snake Stone” の文体について:

                            〈その(2)〉

ジェイムズが、「サミー」と下手な字で記された封筒の切れ端の文字から、ダービシャー州、ホリゲイトを探り当て、村にたどり着く。あの雪の日、小鳥にえさをまいていた老女(=エリー・チャンピョン)と再会する場面も、深い感動と余韻を残す。[Harper Collins Publishers ISBN: 0 00 6740227 ]p.116

    "What could have driven her to do a thing like that?  Panic, I thought.          Terror, maybe, in case her parents found out. My heart went out to her. Whatever happens,.. I'll keep her secret, The child will be all right now. That's what matters.....                                                                                                        This is the important thing, Sammy, and you must never, never forget this. That girl did what she did because she loved you. She could have left you on the mountain and no one would ever have known. But she didn't. It took a lot of courage to do what she did for you. She risked her life to do it. But she saved yours."

私訳:「子を捨てるなんて、よほど追い詰められてたんでしょうね。怖くて、パニックになってたのだと思ったの、親に見つかったらどうしようとね。そう思うと、あの子がかわいそうで。どんなことになろうと、私はあの子の秘密を守ってあげようと思った。この赤ん坊はもう大丈夫。それが何より肝心なことだから。...

これは大事なことよ、サミー、あなたには決して決して忘れないでほしいの。あの娘はあなたを愛していたからこそ、ああしたのよ。山の上に置き去りにだってできたのに、それで誰にも知られずにすんだのに。あの子はそうはしなかった。あの子がしたことは、とっても勇気のいることよ。あの子は自分の命をかけて、あなたを救ったの」

★彼女は若い母親 (エリザベス) の苦悩を理解し、思いやり、援護する。女同士の〈命を守り通す思い〉、命を何より大切なものと考え、世間的な道徳やお役所の手続きなどより優先させて。  自分は間違っているかもしれない、自分のした行動の結果は、自分で背負わせるべきかもしれないけれど、と思いつつも・・。

ジェイムズは最初この老女が、自分を産んだ母だったのかと早とちりして、こんなに老いて病身でいてほしくなかったと、落胆して去ろうと戸口まで出かかった時に、”and your little mother, too....I think she must have loved you, too, in her way.(あなたの若いお母さんもそうだったのよ・・・あの子なりに、あなたを愛していたに違いないと思うの)”と老女に言われ、初めて生みの母が、老女の家に自分を残して行ったのだと悟る。

老女はジェイムズに幸せなの? と問い、イエスと答えると、他人の子を引き取って、我が子として育てようとする養父母が、どれほど愛情深い人たちであるかを語り、その話から、あなたを捨てた幼い母も愛していたからこそ、そうしたのだと言い、ジェイムズの知りたかった、did my mother want me? という当初からの疑問への、母の真意の片鱗を知ることになる。

この老女との対話の途中で、ジェイムズは、クラスの同年の女の子が前学期に子を産んで、クラスの皆で「the slag = 淫乱・ふしだら女」と呼んでいることを思い出し、母も同じ年頃で産んで、もしやそう呼ばれることになっていたかも、育ての親が実の親のことを、触れたがらなかったのもムリはない、と思う場面があり、養父母への感謝を改めて思い返している。

★読みながら、代々伝わる気質や特技の〈つながり〉を意識させられた。エリザベスはジプシー少年サミーの前で、川に宙返りしながら見事に飛びこみ、Water bird  (水鳥) とサミーに呼ばれていた。ジェイムズは谷間の村を去ろうとして、川の橋まで来た時、村の8歳くらいの娘が、ジェイムズの目の前で、橋の欄干から飛びこみ、完全な入水をくり返す。生まれながらのダイバーだと感じ、宙返りを教えてやる。彼自身もオリンピック代表さえも視野に入れているダイバーだ。その娘が、エリザベスの娘、つまり実の妹とわかるのだが、このつながりが、彼と母との再会にもつながっていく。

老女エリー・チャンピョンと、その娘、孫のクレアにも気質のつながりを強く感じさせている。

★〈その1〉と違って、ジェイムズやエリー・チャンピョンの行動、様子や考え方を表現する文体だが、深い洞察力や理解力を示す物言いに、心の寛さ、情愛の深さ、ものの見方の本質を突く表現が多く、読者を共感、納得に導いてくれている。


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