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(149) 夜の音
萩氏は大きく吐息をついて、また寝返りをうちました。明日の勤務を思って、とにかく眠らねばと、焦れば焦るほど眠気が遠ざかります。
ヒューンと途切れなく甲高い音が、高速道路の方から流れて来ます。
こんな夜中にも働いているのだ。トラックや乗用車の、運転手の姿が頭をよぎります。
ゴーと上空に重い響きを残して、ゆっくりと移動していくのは、夜間飛行の旅客機です。救急車と消防車のサイレンの音も、夜の町を駈けぬけます。
突然、バババババッと激しい破裂音が、すぐ近くの道で起こりました。音は少し遠ざかると、また戻ってきます。けたたましい音があたりに響きわたりました。
![IMG_20220104_0010夜の音](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/70294023/picture_pc_99d3615f6e6fc4d24606978c44c3cdcc.jpg)
他人の迷惑などおかまいなしに、若者たちはうさ晴らしに夢中のようです。
呆れたヤツだ、あの音にも目を覚まさないとは! 萩氏はいまいましさを、かたわらで寝息を立てている妻に、八つ当たりしました。
やっぱり都会だな、この町は。引っ越して来て6年、緑の山に囲まれた盆地で、都会のはずれの郊外だと気に入っているのですが・・。里山歩きや、自転車での市内巡りを充分楽しんではいるけれど、この騒音は・・。
萩氏が再認識の吐息をついていると、大きく鳥の鳴き声がしました。カラスです。白みかけた空を悠然と舞う鳥を追って、萩氏もいつしか宙を飛んでいました。そしてふっと、無の世界へと吸いこまれていきました。