(59) 押し問答
今日は義妹と姪の鈴江が、夕方立ち寄ることになっていました。
岡さんは義妹に借りていた、留め袖の一式を包み直して、お返しする用意をしました。問題はお礼をどうするか、でした。何でも豊富に持っている人に、何を差し上げるべきか、いつも思い悩みます。
義弟の好きなお酒と、焼き海苔の詰め合わせ、それでは少ない気がして、 5000円札を小袋に入れて添えました。これをどううまく渡せばよいか、考えただけで気が滅入ります。
お礼なんて、いいのいいの、 いただけないわ、と義妹はいつも強硬に押し返すのです。それをむりやり押し戻して、何が何でも受け取らせるまでの、あの〈押し問答〉が、岡さんは死ぬほどきらいでした。
あらそう、じゃ、やめとく、とあっさり引っ込めたくなるのです。
そのせいか、こちらが頂きものをする時は、何の抵抗もせず、喜んで受け取ってしまいます。
鈴江がある時、ふしぎそうな顔で、岡さんに言いました。
「おばちゃんはすぐ受け取るのね。2、3度断ってから、最後にもらうもの じゃないの?」
さすが、義妹の娘です! 義妹がいつもそうしているのを、この娘は見てるんだわ。岡さんは気にしていたことを、ぐさと突かれた気がして、言葉が返せませんでした。
最後の手段。一筆箋と、お返しの品と小袋を、着物の包みにていねいにまとめ入れすませた時、玄関のチャイムが鳴りました。