(220) 夕日の顔
ろうかの遠くの方で、食器の音がカチャカチャと聞こえています。病院の 6時に始まる、夕食のじゅんび中なのです。
マイは病室の窓におでこをくっつけて、ぼんやりと西の空を見ていました。風邪から肺炎になりかけて、もう7日も入院中でした。体がだるくて、学校もおうちも遠く感じられて、夕方ってさびしいな・・。
ママァ、となりのベッドで、えっちゃんがべそをかき始めました。つきそいのママたちは、夕方の用事で、少しのあいだ、だれもいませんでした。
泣かなくても、すぐ来てくれるよ、と言いかけて、マイは西の空に目をうばわれました。厚い灰色の雲のあいだから、赤いものがじわじわと現れてきたのです。
「スイカのひと切れみたい!」
思わずマイは声を上げました。
戸口がわのベッドから、元気のいい幸子ちゃんが、かけよって来ました。
「あ、サメだァ」と幸子ちゃん。
その時は、ほんとにサメそっくりでした。
赤いりんかくは、ぐんぐんふくらんでいきます。
「お口あけてる!」とマイ。
いつのまにか、泣いていたえっちゃんが、マイのベッドによじのぼって、 顔をよせ合った幸子ちゃんとマイのあいだに、わりこんできました。
「巨人の大あくびみたい!」
とマイがいうと、えっちゃんまで 声をあげてわらいました。
まん丸のお日さまがあらわれて、3人のかおが明るく照らされました。
3人で肩をよせあって見とれていると、
「おくれてごめんね」と、えっちゃんのママが、戸口から入ってきました。
もうじきマイのママも、幸子ちゃんのママも来てくれるはずです。