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(5) ソーセージ半分こ
男の子は、ボチのクック、と言いながら、かた足を出しました。一郎は しゃがんで、はかせてやりました。男の子は、一郎のかたに つかまり ました。ぷっくりした、小さい手です。ガムのにおいが、プンとします。 足も一郎の半分ほどしかありません。
くつのひもをむすんでやるのも、はじめてでした。ちょっぴりゆがんで、 むすべました。
はい、おしまい。ちょんと、しあげにくつをたたいてやると、男の子は、 ククッとわらいました。
「なまえ、なんていうの?」
おもわず、きいていました。
「たっくん」
「とし、いくつ?」
「みっちゅ」
と言いながら、ゆびを2本出しています。あやしいものです。
「おうち、どこ?」
と、一郎はまたきいていました。
たっちゃんは きょろきょろして、それから空をゆびさしました。
「まいごなの?」
たっちゃんは、こくんとうなずいて、にっとわらいます。
「家出かなあ」
リュックをたたくと、たっちゃんはまた、こくんとうなずきます。さんぽ でしょ、といったって、おなじことになりそうです。
一郎はこまって、またあたりを見わたしまそた。だれもいません。けいさつは、駅まで行かなくてはありません。
たっちゃんの手がのびて、そっと一郎のソーセージにさわりました。
「こえ、ボチの」
一郎は、ふいにわかりました。たっちゃんは、これ食べたい、と言っているのです。わけてやるほかなさそうです。
一郎が、クローバーの上に どさんとすわると、たっちゃんも ちょこちょこついてきて、すとんと足をなげだしました。一郎がソーセージを半分こ すると、たっちゃんは からだをゆすってよろこびました。
それから、ビスケットも ひとつ わけて上げると、また 足をばたばたさせて、うれしそうに 一郎を見上げました。
ソーセージのつつみ紙の上に、たっちゃんのガムを のせてやりました。 すてるつもりはないらしく、たっちゃんは、つつみ紙のはしを にぎって います。
ビスケットも食べてしまうと、たっちゃんんはまた ガムを口にいれました。それから、自転車のそばにかけよって、にもつだいをパンパンたたき ました。かた足を上げて、台の上にのせろ、とさいそくします。
頭がきゅうにかゆくなった 気がしました。そりゃ、ちょっとはかわいい けど、この子は、ずうっとくっついてくるつもりでしょうか。一郎がずうっと、めんどうみなくちゃならないのでしょうか。
「だめっ。ひとりでここへ来たんだろ。ひとりで帰れば」
一郎は たっちゃんを おしました。小さい子を のせたことなんてあり ません。トオル兄ちゃんみたいに、うしろでささえてくれるわけではないし、たよりないったらないのです。
たっちゃんは、うらめしそうに見上げて、いまにも泣き出汁そうに、口を ゆがめました。
「ボチ、のる!」
「だめっ」
一郎がどなると、たっちゃんは、ビェーと泣き出しました。泣かれると よわいのです。こっちこそ、泣きたいよ、とプンプンしながら、一郎は しぶしぶ、たっちゃんをだきあげて、荷台にすわらせました。
「しっかりつかまってないと、おっこったって しらないぞ」