5-(3) 更衣室で
地区の人たちは毎年同じ海水浴場に来ているそうだ。マリ子には初めて だったが、みんななれたようすで、〈海の家・なぎさ〉と看板のある休憩所へかけて行った。
広い板の間だ。窓やとびらの代わりに、よしずがはりめぐらされていて、 海風が吹きぬけている。殺風景だが、海が遠くまで見はらせた。
マリ子は君子といっしょに窓ぎわに、荷物を置いた。
「マリ子、あそこで水着に着替えるんじゃ。あんたのその服はどこで着替えてもええように、考えてあるんよ」
おかあさんはちょっぴり得意そうに言った。板の間の奥に着替え室の扉が 見えた。
「せなかのリボンをほどいたら、スカートがもっと広がるんよ。水着を着るときは、服を着たまま、その中で着るの。脱ぐときは、ぬれとる水着の上にタオルをかけて、そのうえから、この服をかぶって、その下で脱げば、それですむんよ。丈を長目にしたんも、そのためじゃ」
ふうん。マリ子は感心して、自分の服を見直した。そうなのか・・。
「ぬれても、丈夫な木綿じゃけん」
「わかった」
マリ子は水着の袋をカゴの中から出して、おかあさんの自慢話を打ち切った。
「着替え室に行くん?」
君子がたずねた。
マリ子はうなずいて、水着の袋を肩にかけ、先に立った。みんなの前で、 あのはでな水着に着替えるつもりはなかった。
着替え室の中は、女の子たちが、着がえのまっさいちゅうだった。
加奈子はマリ子をちらっと見たが、そのまま静江に話しかけ続けた。その 小声がマリ子の耳にも聞こえた。
「・・終って、えかったぁ。海に来れんかと思うた」
静江も服をぬぎながら、ささやき返した。
「うちもじゃ。心配したけど、やっとおとつい終ってくれたわ。おなごは 損じゃなぁ」
「なんの話? なんでおなごは損なん?」
マリ子はひっかかって、くちばしを入れた。加奈子がすぐに言い返した。
「あんたは関係ねえの。まだ子どもじゃろ」
「へえ、なんで? 加奈ちゃんと静ちゃんとうちは、同じ4年生じゃが」
マリ子はびっくりして声を上げた。
でも、そのとき、もっとびっくりしたのは、加奈子の胸が見えてしまったことだった。肩にタオルをかけて、加奈子はワンピースをぬぎかけていたのだ。そのオレンジ色のワンピースの中から、白いものが見えた。
なんてきれい!
マリ子は息をのんだ。白くて、こんもり丸くて。やわらかそうで、やさしい感じ!
静江のほうを見ると、静江の紺色の水着の胸も、3角にもりあがって見えた。たしかに2人とも、マリ子と同じ学年とはとても思えない。自分は、 といえば、〈黒いごぼう〉みたいだ。
「あんたもそうなったら、うちらの話がわかるようになるけん」
と、静江がとりなすように言った。すると、加奈子が追い打ちをかけた。
「マリッペはやせとるし、まだまだじゃわ」
「じゃから、何が? 何のことね?」
さっぱり通じなくて、マリ子はじれた。6年生の洋子が見かねて、小声で言い足した。
「あのな、セイリのことじゃが」
「へっ、セイリて? セイリセイトン?」
マリ子のすっとんきょうな声に、加奈子たち3人は吹き出してしまった。
「やっぱし、わかっとらんわ」
加奈子は黄色の水着のおなかをおさえて、笑い続けた。洋子がまた声を ひそめた。
「マリちゃん、あんたのおかあさんに聞いてみねぇ。うちら6年の4月に、家庭科の先生に教えてもろうたけど、うちは5年の秋に始まったんじゃ」
マリ子は思い出した。おかあさんが言ってたっけ。〈女の子のしるし〉とかなんとか・・。あの言葉には、マリ子の知らない、何かの秘密がかくされて いたのだろうか。
加奈子たちは着がえを終えると、マリ子を置き去りにして、さっさと出て 行った。