前期破水。
「破水した」
妻からそう連絡があったのは、予定日のちょうど1ヶ月前だった。本業と副業の作業が重なりあっぷあっぷしていたこともあり、最初に聞いたときは何を言っているのかよくわからなかった。
だって予定日1ヶ月も先だし。この先しばらくないだろう独身気分を味わうために、週末は溜めていたアニメをお酒片手に観ようとしてたくらいだし。
そのとき妻は、僕のいる自宅から1時間以上かかる実家に帰省していた。夜だったが、幸いまだ電車のある時間。とりあえず「今から行くよ」と声をかけたものの、「だいじょうぶ。とりあえずお母さんと病院に行くから、後でまた連絡する」と妻は電話を切った。
恥ずかしながらその時はまだ、「破水=もう産まれる」という認識しかなかった。破水が多少早かろうと、なんだかんだ元気に産まれるだろうと。ちなみに週数は34週。もうすぐ35週目に入ろうとしていたときだった。
ほどなくして、妻から診察結果を告げる連絡があった。前期破水というものらしく、そのまま入院することに。破水から24時間以内に産まれるのが一般的だと知って急いで病院に駆けつけようとしたものの、そのときはまだ陣痛が来ていなかった。
「急がなくても、まだ産まれないと思うよ」という妻の言葉を信じ、とりあえず翌日朝イチで妻の入院する病院に行くことにした。それでも、寝ている間に産まれてしまうのでは…とソワソワしながら、その日は床についた(と言っても驚くほど寝付きがいいので、秒で朝を迎え、何なら寝坊した)。
翌朝病院に向かう間も、「俺が着くまでお腹の中にいてくれ…!」と願いながら電車に揺られた。しかしその後、それは杞憂に終わることになる。何なら長い戦いになることを、その時の僕は知るよしもなかった。
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