アメリカで広がる自然葬「ヒューマンコンポスト」とは
死んだら自然に還れるものだと何となく思っていたから、ヒューマンコンポスト(人間堆肥)の存在を知って衝撃を受けると同時に、むしろ日本では全く行われていない(世界でもまだ珍しい)ことに驚きもありました。
死後、体は堆肥となり土に還り、そこから木や植物が育つことで、自然の循環の大事な一部に戻る。それを実現するのがヒューマンコンポスト(人間堆肥)であり、その考えは、Positive Death、ポジティブな死生観の一つだと思っています。
自分が死んだら、生まれ変わるのか、存在が完全に消えてなくなるのかわからないけど、少なくとも私は灰になって何百年と壺の中に残るのではなく、体は土になり、木になりたい。
家族がいて子供がいたら、お墓が欲しいと思うのかもしれないけど、私は完全に自然に還りたい。
ヒューマンコンポストの合法化の歩み
2020年、アメリカのワシントン州でNatural Organic Reduction(NOR、自然有機還元)、つまりヒューマンコンポストが法的な選択肢となりました。その後、コロラド州とオレゴン州でもNORが合法化され、他のいくつかの州でも法案が進行中です。
日本での埋葬方法
日本では、まだヒューマンコンポストは実施されていません。
日本は世界一火葬率が高く、99%以上が火葬なので、私自身も火葬をすることが当たり前だと思って来ました。
他の埋葬方法としては、ごく一部の霊園で土葬がおこなわれている他、あと希望者が増えて来ているのが「樹木葬」。その言葉のイメージから「自然回帰」する埋葬方法なのかと思いがちですが、ヒューマンコンポストとは違います。
まず、樹木葬は火葬の一つだと私は捉えます。なぜなら樹木葬とは、身体をそのまま自然に還すのではなく、火葬ののちに、墓石の代わりに樹木をシンボルとする埋葬方法だからです。
この樹木葬が近年注目を集めてきた背景には、少子高齢化による墓地の承継問題や、土地(墓地)不足があると考えられます。墓石がなく承継者が必要なく、永代供養のできる樹木葬がその解決方法としても注目されています。
また、これも火葬後の埋葬方法になりますが、遺骨を自然に撒く葬法で、海や山に散骨するスタイルもあります。
樹木葬や散骨は近年希望者が増えているそうなのですが、独身だったり、家系を「受け継いでもらいたい」という感覚が少ない人にとっては当然の流れなのかと思います。
そしてやっぱり、死んだ時は環境ダメージに加担せずに終わりたいし、土に、自然に還りたいと考えると、やはりヒューマンコンポストのような埋葬方法に惹かれます。
ヒューマンコンポストの埋葬プロセス
NORのパイオニアであるアメリカのRecomposeでは、コンポストのプロセスはこのようになっています;
1. サイクルの始まり
NORは、有益な微生物の力を借りることで始まります。
2. 葬儀について
ウッドチップ(木片)やアルファルファ、ワラなどを敷き詰めた棺に、スタッフが遺体を寝かせます。棺を閉じ、土への変化が始まります。
葬儀は、他の埋葬方法と同じように、家族や友人たちが集まり、大切な人を敬い、尊重するための儀式です。
3. 棺について
遺体は30日間、棺に入ったままで堆肥化が行われます。ウッドチップやアルファルファ、ワラなどに囲まれ、微生物が自然に体を分解して分子レベルで変化し、栄養豊富な土壌が形成されます。
4. 堆肥について
1体あたり1立方ヤード(約0.8平方メートルなので、結構な量)の土壌を作り、棺から取り出して2週間から6週間かけて硬化させます。完成後は、保護地や森林、庭を豊かにするために使用することができます。
5. 新しい命の始まり
作られた土は、私たちの体から出た栄養分を自然界に還元してくれます。森林を回復させ、炭素を固定し、新しい生命を育みます。
Recompose によると、堆肥は遺族に引き取られるほか、ワシントン州のBells Mountainに堆肥化した土壌を寄付し、森林の一部になるように手配することも可能です。そこにあるNORは、自生する樹木を育て、土地を育むために使用されています。
葬儀の環境問題
アメリカでヒューマンコンポストが広がっているのに重要な原因に、どうしたら自然に還れるのか? という社会的な価値観の変化があるような気がします。人間含め動物の身体は、何もしなくても死後分解されるはずなのに、火葬やエンバーミング(欧米の葬儀で行われる、遺体に防腐処置を施して遺体を保存する方法)といった現代の葬儀では、私たちは死後も箱や壺に閉じ込められます。
よくわからないから葬儀会社に高いお金を払って任せるのではなく、死後の自分の体を自然に還すという選択は、私たちの身体を有機物として見ようとする、もっともナチュラルな流れなのです。