泣いてた君と、
どうも山ぱんだくんです。四つ年下のバイトの同僚に「そんなんで来年から働けるの…?」と心配されています。どこの世界戦でも威厳がない。
さてさて山ぱんだくんと月曜の理屈
第八十五回は「泣いてた君と、」
あと二週間で今年終わるけど、どうする?デートとか、しとく???
第八十五回 泣いてた君と、
高校を卒業する時、「ああ、ここからまだ出て行きたくないなあ」と思った。それはとても、おかしなことだった。
遅刻と欠席ばかりで、授業はおろか期末試験にも行かず、あと一回休んだら留年と言われていた。そんな高校生活を送っていたのに出て行く時になってそんなことを思うなんて。
多分、学校が嫌いなわけではなかったのだ。規則正しいチャイムも、古い校舎も、部活熱心なクラスメイトも、僕は結構好きだった。ただ、なんとなく気が向かない、という日が積み重なって、気付いたらそんなことになってしまった。それだけのことだった。
「じゃあ、ここにまた戻ってこよう」
実に素直な判断力でそう決めた3年後、21歳の5月、僕は母校の教壇に立っていた。悪い冗談みたいな話だなと思う。
そんな感じで始まった教育実習だったけれど、今でも思い出すことがある。ちなみに担当していたクラスからの寄せ書き、とかはなかった。奴等は実に薄情な野郎どもだった。
「生きててよかったなぁ」
それは、ある日の放課後のことだった。
生物準備室に遊びに来た生徒となんの気なしに喋っていたらその生徒が泣き始めてしまったのだ。その原因はどうしようもならない問題で、そのどうしようもなさを彼女が一番よく知っていて、だからこそ悶々とグラグラとして、いつ崩れてもおかしくない不安定さを抱えていた。
僕はただ何が出来るでもなく、彼女が泣いている横に座って足をプラプラさせていた。たしか「どうしようもないって分かっているけど泣きたくなる時ってあるよなあ」みたいなそんなどうでもいい言葉をかけていた。
それでもその時、僕は大げさでなく「ああ、生きててよかったなあ」と思ったのだ。彼女がちゃんと泣けて、ひとりぼっちじゃなくて、誰かがいる横で泣けて、良かった。泣いている彼女をひとりぼっちにしなかっただけで、自分の生きている意味があったなあと。そんなことを考えていた。
来年から就職して、働く。仕事について考える時、なぜだかあの日の泣いてた君を思い出す。泣いている誰かをひとりぼっちにしない。そんな仕事が、したいなあと。