死と出会い 2話 乙女心
お墓参りを終えた僕と愛理。ランチのあとある人物を紹介される。
#小説 #墓参り #乙女心 #死と出会い
僕は様々な思いを交錯させながら、愛理と二人で雄二の墓前を離れ墓地をあとにした。雄二の魂も付いて来ているような気がする。それを、彼女に伝えると、
「まあ、そうかもしれないね。でも雄二の魂なら逆に傍にいて見守って欲しいくらい」
「まあ、そうだな」
そう言いながら、僕らは笑い合った。
「ところで秀一、何食べたい?」
と、自転車をこぎながら愛理は言う。風が目に沁みる。若干、冷たく感じる。
「んー。こんなことのあとだからあんまり食欲わかないけどなあ」
と、気乗りしない僕。
「さっき、食べようかって言ったじゃん!」
愛理は少し怒っているようだ。きっと、彼女はいつも僕が食欲あるのを知っているので心配もしているのかもしれない。それはそれで、嬉しい。
「愛理は食欲あるんだな。ショックじゃないのかよ」
「そりゃ、ショックよ。でも、こういう時だからこそ食べなきゃ。多少、無理してでもね」
「なるほどねー」
僕は気のない返事をした。関心がないように聞こえただろうか。
「それに、話したいこともあるんだから」
「ん? なに?」
愛理は躊躇う様子で、
「……実はね」
そこで、止まってしまった。どうしたのだろう。まるで、人形のように黙り込んだ。
「どうした?」
「ううん、言うね。実は、秀一を紹介してほしいっていう子がいるのよ」
僕はそれを聞いて黙った。僕を紹介してほしい? そんな子がいるのか。にわかに信じがたい。まるで、騙されているんじゃないかと錯覚する。
「それでね。秀一は会う気があるかなー? と思ってね」
「誰のこと言ってるの?」
「私の後輩。絵里っていうの」
「絵里ちゃん? わからないなあ」
今度は愛理が黙った。何だか様子がおかしいのは気のせいか。
「ランチしながら言うよ」
うん、と僕は頷いた。
僕は道路沿いにあるパスタ屋の前で止まった。
「ここでもいい?」
「あ、パスタ。食べたい!」
愛理はパスタが好きなのを知っていたので立ち寄った。彼女はさっきとは打って変わって笑みを浮かべていた。やっぱり女子は食べ物には弱いようだ。
「じゃあ、ここにしよう。僕も、パスタなら食べられそうだから」
そこのお店は、白くて、割と細い板が横にして壁に打ち付けられていて、それが縦に並んでいる。三角屋根でそこも白い板張り。おしゃれな感じの店だ。愛理とは初めて来る。白いドアに、擦りガラスの窓が二枚づつ縦に貼り付けられている。
自転車を壁沿いに二台並べながら愛理は、
「おしゃれなお店ね」
「だろ? この前たまたま通りすがりに見付けたんだ」
「そうなんだ」
愛理は何だか嬉しそうだ。良かった。まるで、仏様が笑っているようだ。「早速、入ろう」
「うん」
端から見るとカップルのように見えるかもしれない、と僕は思った。まあ、悪い気はしない。愛理なら。
中に入ろうとドアを開けた時、小さなカウベルが鳴った。
愛理がドアの上の方を見る。
「これが鳴ったんだあ」
「そうみたいだね。僕も初めて見た」
建物の中はこじんまりとしていて、それほど広くはなく、二人用の白い椅子と茶色いテーブルが三席分あった。残りの一席は、四人用の椅子とテーブルが設置されてあった。
僕らは奥まった二人用の席に座ることにした。
「何だか私たちカップルみたいね」
愛理と同じことを思っていた僕は、
「そうだね」
と、答えただけだった。ぶっきらぼうだったかな。
その後、僕らはそれぞれの好きなパスタを注文して食べながら愛理は喋り出した。
「さっきの、絵里の話だけど」
「あ、うん」
「もしかして忘れてた?」
「い、いやいや……。そんなことはないよ」
「ふーん」
愛理は僕が本当は忘れていることに気付いているようだ。
「じゃあ、話すけど、会ってみたいと思う?」
「うーん。ていうか、何で、僕なわけ?」
「君、君、君ぃ! 乙女心がわかってないなあ」
愛理は僕に指を指しながら言った。
「もしかして……?」
うんうんと、彼女は首を縦に振っている。
「マジで? でも、僕見たことないよ」
「向こうが見たのよ、秀一のことを。どこで見たかは知らないけれど。要は一目惚れってやつ?」
僕は黙り込んだ。そして、
「ごめん。今はそういう気になれない……。雄二があんなことになったばかりだし」
「だよねえ」
「だから、気持ちが落ち着いてからっていうのはどう?」
「うん、でも、それってもったいぶってるように絵里は感じるかもよ」
「いや……。そういう意味じゃないってことを説明してあげてくれない?」
愛理は少し考えているようで、
「相変わらず、優しいのね。秀一って」
「そうかな……」
「わかった。今回はそう伝えておくね」
愛理は急に笑顔を見せ、そう言った。僕には愛理の笑顔に安堵の色が窺がえた。
僕には女心がわからない。
でも、どちらにせよ、今はその気になれないからいいのだけれど。いわゆる、僕の気分次第ってやつ。まるで絵里ちゃんって子の気持ちを考えていない僕。まあ、仕方ないか。
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