死と出会い 12話 侮辱
愛理とはあまり話さなくなってしまった。彼女も僕のそばからいなくなるのかと思うと悲しくなった。掃除が終わって愛理に近づこうとしたら、彼女は男子生徒と僕の噂話をしていた。
あれから約一週間後。僕と愛理は同じクラスにいてもあまり話をしなくなった。いつもは彼女のほうから話しかけてくれることが多かったから、急に近づいてこなくなると気まずいものがあった。なにか思っていることがあるんじゃないか、ということを察していたから。しかも、悪い意味で。
それと、もうひとつ気にかけていることがある。それは、雄二の四十九日の法要のことだ。すでにこの世にいない雄二。それと、少し疎遠な感じがする愛理。もしかして、彼女も僕のそばからいなくなってしまうのか……。なんだか悲しい気分になった。
今は、帰りのホームルームの時間。僕は愛理のほうに目線を向けると、彼女は窓の外を眺めていた。なにを想っているのだろう。僕はわからなかった。愛理とこういうふうになったのも、絵里ちゃんを紹介してもらってからのような気がする。もし、そうだとしたらその行為を後悔しているのではないだろうか。僕はそう思ったので、掃除が終わってから彼女に話をしてみよう、と思った。ちなみに、今日の部活は休み。
ホームルームが終わり、掃除の時間。僕は愛理に声をかけてから今日自分が担当している廊下の掃除に移った。彼女は今日も教室の掃除が担当。
廊下の掃除は二十分くらいで終わった。いつもより時間がかかってしまったから愛理は教室の掃除を終えて帰ってしまったのではないかと思い、焦って教室に向かった。教室に来てみると掃除はだいたい、終わったようで彼女はクラスの男子生徒とおしゃべりをしていた。近づいてみると、僕の話をしているのが聞こえてきたので立ち止まった。
「愛理ちゃんって最近、秀一としゃべってないよな? いつもはおしどり夫婦のようにしゃべっているのに」
「あんなやつとおしどり夫婦だなんて、そんな。嫌だよ」
僕は嫌なことを聞いてしまったと思い、気まずくなって教室の入り口付近に身を潜めて聞いていた。
「なんかあったのか?」
クラスでは一、二を争うほどのイケメンの相田だ。なにを企んでいるんだ?
「別になにもないよ」
「おまえ、秀一のことが好きなんだろ?」
一瞬、愛理はたじろいだように見えたのは気のせいだろうか。
「そ、そんなことあるわけないじゃん!」
「おまえは気づいてないかもしれないけど、となりのクラスではおまえと秀一ができてるって噂だぞ、知らないだろ?」
「え? マジ?」
愛理は表情をゆがませて相田に聞いた。
「マジだよ。となりのクラスに行って聞いてみろよ」
相田はいやらしい顔つきで、そう言った。
「いいよ、べつに……」
「それとも、おまえは、自殺した雄二のことが好きだったのか?」
その発言に愛理はもとより、僕は頭に血が昇った。
「おい! 相田! 雄二の話を愛理の前で話すのはやめろ!」
僕は、つい口から言葉が出てしまった。隠れて様子を見ていようと思ったのに。
「なんだ、秀一。いたのか。隠れて聞き耳を立てるなんて女々しいぞ」
「うるさい! そんなことより今の発言を取り消せ!」
僕は怒りを抑えきれず、強い口調でそう言った。
「なんでそんなにキレてるんだよ? おまえも雄二のことを気にしていたのか。あんな弱虫」
その瞬間、相田は弱々しくその場に倒れた。僕が殴ったからだ。周りの女子生徒は驚いて「キャーッ!」と声を一斉にあげた。
「おまえ……。このオレにこんなことしていいと思ってんのか!」
鼻血を流しながらカッコ悪い姿勢で相田はこちらに向かってきた。
「相田君やめて!」
愛理が叫んだ。彼の動きは止まった。
「なぜ、止める?」
すごい形相で相田は愛理を睨みつけている。そこに、
「コラ! お前ら! なにやってるんだ!」
そこには、バスケ部顧問の宮崎先生がいた。
「宮崎先生! こいつが……」
「話しは聞くからとにかく、職員室へ二人とも来い!」
剛腕な宮崎先生は、いとも簡単に僕と相田の腕をつかみ、移動しようとする。
「イタタタ……。先生、離せよ」
相田は、悲痛に顔を歪ませる。相田のファンなのか、近くにいた女子生徒が彼にティッシュを渡す。
「サンキュ!」
言いながら、その子に向かってウインクすると嬉しそうに笑顔で反応した。
僕は内心、こんな男、どこがいいんだと思いながら職員室に連れられて行った。
愛理は心配そうな眼差しで、僕を見ているようだった。
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