【短編小説】恋という魔法
今日で俺は二十四歳。安西猛という。職業はコンビニの店員で正社員。将来、店長になりたいと目論んでいる。今は独身で彼女もいない。
俺の母は妹を産んで間もなくして亡くなった。父は健在している。至って元気。父はスーパーマーケットで部長の地位にいる。
それと、俺の妹の名前は安西康子、二十歳。大学二年生。文学を勉強しているようだ。将来どういう仕事をするのかまだ考えていないらしい。因みに俺は大学には進学せず高卒。康子には彼氏がいる。
俺は妹の康子のことが大好き。だから、二人で買い物に行きたいけれど康子が言うには、
「彼氏と間違われたくない」
という理由で一緒に買い物に行ってくれない。残念。彼氏がいるから尚更彼氏と間違われたくないと敏感になっているのだろう。
俺が勤務しいているコンビニの店長の年齢は五十代。六十五歳で定年だから十年以内で上手くいけば店長になれるだろう。雇われ店長だが。それでも俺は充分満足だ。
俺は毎日母の位牌がある仏壇に手を合わせている。命がけで出産してその命を落としてしまうという惨劇。父の兄に聞いた話では、母が命を落とした時、父はショックのあまり気絶したという。父は母をよっぽど愛していたんだな、と思った。享年二十五。きっと優しい母だったに違いない。
父は現在、五十歳。店長から部長に出世するらしい。社長にまでならなくても、副社長にはなりたいと言っている。がんばってなって欲しい。
この前、妹の康子から相談を受けた。それは大学で省きにあっているという。大学にはいってまでいじめみたいなことがあるんだな、下らない。僕が
アドバイスしたのは弱気になっては駄目。強気になって省かれていると感じても、知らんぷりしていればいい。その内なくなると思うから。今まで仲のよかった友達にまで省かれて悲しいと康子はいっている。まあ、それもそうだろう、仲良しだったのにそんな態度をされたら。原因はいったいなんだろう。何で康子がそんなめに合わなくちゃいけないのか。愛しの康子。シスコンと呼べるだろう。そう言われても俺はビクともしない。康子は俺のアドバイスに納得したようで、
「ありがとう!」
と言っていた。かわいい。俺は彼氏に負けないくらいの愛情を康子に対してもっていると思う。これだから俺に彼女ができないのだろう。
今の時期は冬。クリスマスまでには彼女を作りたい。シスコンもいいが、いつまで強い愛情をもっていても彼女にはならない。当たり前だが。どうやって彼女を見付けよう。友達に紹介してもらうかな。それかナンパか。うーん、紹介の方が信用してもらえるだろう。
友人の亀梨優斗、二十四歳。中学生の頃の同級生
だ。彼はモテていた。確かにイケメンだし、背も高い。痩せていて薄っすら筋肉が付いている。細マッチョというやつ。モテる要素しかない。だからバレンタインデーの日には靴箱に靴が置けないくらいのチョコが置かれていた。だから亀梨優斗に嫉妬して彼の外靴に画鋲を入れるなど、悪戯をする生徒もいた。
でも、そんな彼を俺は別に嫌いではない。いい奴だと思っている。陰湿な悪戯は社会人になった今ではないと思う。モテているのは変わらないけれど。そんな奴だから女友達はたくさんいるのだろう。紹介してもらえるのは亀梨優斗しかいない。
LINEを彼にしてみよう。
<オスッ! めっちゃ久しぶり! 元気か? 頼みがあるんだが女の子紹介してくれないか?>
LINEは既読がつくまでやや暫くかかった。忙しいのかな。約一時間後。亀梨優斗からLINEがきた。
<よう! 久しぶり! 女の子? いいぞ。どんな子が好みだ?>
うーん、と俺は考えた。
<優しくてかわいい子がいいな>
またすぐにはLINEはこない。既読もなかなかつかない。いったい何をしているのだろう。それと、亀梨優斗は今どんな仕事をしているんだろう。
既読がついたのはそれから約一時間程経過してからだ。俺は苛々してきた。
そして、本文がようやくきた。
<OK! なるべく好みに合うような子を見繕っておくよ>
<わかった、よろしく。何で返事がくるまで一時間もかかるんだ? 何してる?>
<仕事しながら暇を見付けて返してるから時間がかかるんだ>
そうか、仕事中だったんだ。
夜になり、LINEがきた。開いてみると亀梨優斗からだ。
<オスッ! 安西の好きそうな子いたわ>
<マジか! 対応が早いな。サンキュ>
<いや、それはいいんだ。若い子はたくさん知ってるから>
俺は気になっていることを訊いた。
<亀梨はどんな仕事をしてるんだ?>
<俺か? 知りたいか?>
<できれば。言えない仕事をしてるわけじゃないんだろ?>
<ああ。AV男優だ>
俺はその話しを聞いて驚いた。マジか! だから若い子との知り合いが多いのか。なるほどな。
<そうなのか。じゃあ、素人の女を相手にしてるのか?>
<まあ、そんなところだ>
<いいな、若い女抱けて。それで給料貰ってるんだろ?>
<そりゃそうだよ。遊びでやってるわけじゃないから>
<そうだよな。バックにやくざかなにかついているのか?>
<まあ、一応いるぞ>
<それは怖いな>
<全然。おかしなことをしなければ何も怖くないぞ>
<そうなのか>
<おれの話しは置いといて、いつ女の子と会えそうだ?>
俺は部屋の壁に貼ってあるシフト表を見た。
<次の休みは明日だ。女の子は会うとしたら夜がいいのか?>
<それは、その子に寄るわ>
<だよな>
<訊いといてやるよ>
<わかった、よろしく>
その夜の十一時頃。俺は亀梨優斗が紹介してくれる女の子がどんな子か気になって仕方がなかった。何とかこれから会えないものか。一応、彼にLINEを送った。
<オッス! こんな時間に悪いな。起きてるか? 俺、一刻も早くその子に会いたいんだ。今からは無理か?>
無理を承知で言っているから駄目なら駄目で仕方ない。
LINEは少ししてきた。開いてみると亀梨優斗から。本文はこうだ。
<今、その子も交えて三人で呑んでるんだ。来るか?>
そうなんだ! 俺はその文を見て驚いた。
<ああ。行く!>
<女の子二人と、俺の三人で二人ともAV女優だ>
俺はAV女優と聞いてムラムラしてきた。
<何処に行けば良いんだ?>
<おれの部屋で呑んでるから来てくれ>
<了解!>
俺は急いで支度をして、赤い車で亀梨優斗のアパートに向かった。道路はアイスバーンでつるつる路面。そのことを忘れていて俺はスピードを出して走った。すると車はスリップし、電信柱に正面から突っ込んだ。
「やっちまった……」
額を触ってみると、血液が手に付着した。
「うわああー! 血だー!」
俺は慌てて救急車を呼んだ。その電話の相手に、警察も呼んで下さい、と言われ百十番通報をした。辺りは静かで冷静になった時、亀梨優斗に連絡するのを忘れていることに気がついた。くそ! これじゃ、行けない。とりあえず電話するか。呼び出し音を暫く鳴らしたがなかなか出ない。十回くらい鳴らしてようやく繋がった。
『もしもし、安西か? 遅いぞ! どうしたんだよ』
「事故った……。頭から血が出てる……」
一瞬、間が空いた。
「え! マジか!? 怪我してるのか。 救急車と警察呼んだか?」
「ああ、呼んだけどまだ来ない」
『事故ってどんな事故だよ?』
「電信柱に正面衝突した」
間もなくパトカーと救急車のサイレンの音が聴こえてきた。
「来たから電話切るわ」
『ああ、気を付けてな!』
僕は救急隊に頭から出血していることを告げ患部を見せた。
「救急車に乗って下さい! 病院で手当てします!」
言われた通りにした。
警察官は、
「手当が済んだら署で事情聴取をします」
と言っていた。
僕は意識はある。なので救急隊と会話をしていた。
「どうして電柱なんかにぶつけたの? それも正面衝突。廃車になると思うよ。あの壊れ方は」
「ですよねえ……。用事があって急いでた」
「そうなんだ。でも、結果がこれじゃあ身も蓋もないよね」
そう言われて俺は苛っとした。そこまで言われる筋合いはない。
「あんたには関係ないよね」
そう言うと救急隊員は黙った。確かにそうだと思ったのだろう。でも、お世話になっているのは確かだから、言い過ぎかもしれないと反省した。
さっき救急車が来るまでの間、俺の車を見ていたが修理するより買った方が安そうだ。セダンなら軽自動車より安いだろう。勿論、中古で。貯金はほぼ無いに等しい。だから、ローンを組もうと考えている。
二十四時間やっている病院に着いて検査をした。頭から出血をしていたがもう止まった。結果は異常なし。よかった。次は警察署に行かなければならない。そう思って外に出るとパトカーが一台停まっていた。俺は病院の入り口からパトカーを見ていると警察官が出て来た。そして、話掛けられた。
「安西猛さん?」
「うん」
俺は頷いた。
「警察に電話くれたよね。電柱なぎ倒して」
「うん」
俺はうんうんと頷くだけ。
「病院に行ってどこか異常はあったの?」
「いや、ないよ」
「じゃあ、パトカーに乗って。事情聴取するから」
そうして警官二人と俺の三人でパトカーに乗り警察署に向かった。
話し終えたあと警官は壊れた車まで送ってくれた。
「動くかな?」
警官がいうので俺は、
「どうなんだろう、エンジンかけてみる」
車のキーは刺さったままだった。そしてセルを回してみた。エンジンはかからない。やはり予想通り廃車か。
「動かないね。業者に頼んでおくから、とりあえず今日は帰って。歩いて帰れる距離?」
「うん、歩いて三十分くらい」
「なら、帰れるね」
俺はまた頷いた。
一応、亀梨優斗に電話をかけた。酔って盛り上がっているのかなかなか繋がらない。とうとう留守番電話サービスに繋がってしまった。留守電に話しを残す気はないので電話を切った。
俺のアパートに着いた頃、電話がかかってきた。相手は亀梨優斗から。
「もしもし、亀梨か」
『ああ、どうしたんだよ来ないのか?』
「廃車になったから行けない、悪ぃ」
『マジか!』
「大マジだよ。嘘言ってどうするんだ」
『そうか。じゃあ、明日は俺が彼女と安西を迎えに行くよ』
「わるいな、すまん」
『まあ、こういうこともあるだろ』
「亀梨、いつからそんなに心が広くなった?」
『は? おれは前からこうだよ』
ほんとかな、と思いながらも、
「そうか」
と言った。
亀梨優斗からLINEがきたのは夜中の十一時頃。俺は眠っていた。昼間はいろいろあったから疲れてしまった。本文を開いてみた。
<女の子は安西と会うことをOKしたぞ。安西はいつならいいんだ?>
寝ぼけていたのでまた眠ってしまった。少ししてまたLINEがきた。再度開く。何だよ、うるさいな! と怒鳴っていた。そして、俺は思いついたようにハッとして目覚めた。女の子の話しだった。
<何でLINE返してこないんだよ! 女の子と会わなくていいのか?>
<すまん。疲れて寝てた。俺は夜か休みの日ならいいぞ>
<じゃあ、夜にするか。明日はどうだ?>
急だな、と思ったが、まあいいかと思いLINEをした。
<ああ、いいぞ。七時くらいに来てくれたら用意は出来てると思う>
<わかった。じゃあ、それくらいの時間に行くわ>
<了解! 女の子の都合はいいのか?>
<ああ。あいつはいつでもいいと言ってた。ニートだし>
<そうなのか。わかった>
無職なのか。何か病気でもあるのかな。まあ、その内わかるだろう。
一人暮らしの俺は事故って廃車になったことは父には言っていない。言ったらうるさいから。父とは暫く会っていない。今年の正月以来かな。今は十二月だから約一年会っていない。あんな酒癖の悪い父には会いたくない。会えば会ったで口論になるし。会わないのが一番。
明日、車を買いに行くか。ちょうど休みだし。今日だけ職場までの行きかえりを歩けばいいだけ。面倒だけど仕方がない。この際だから新車を買うかな。よし! そうしよう!
翌日、町内の車屋に行った。昨今は普通乗用車よりも軽自動車の方が高い。でも、車検代や車税は普通乗用車の方が高い。なので全体的に安いのは普通乗用車かな、と思ったのでそちらを買うことにした。セールスマンに車や支払いの説明を受け、シルバーの普通乗用車を買うことにした。でも、保証人が一人必要らしい。亀梨優斗は保証人になってくれるだろうか。電話で訊いてみよう。仕事中なのか電話に出ない。なので一回切った。父には会いたくないし。
俺はセールスマンに言った。
「親しい友達や親が電話に通じなくて」
僕は嘘をついた。父には連絡していない。
「そうですか。では、今日じゃなくてもいいのでお友達やお父さんに連絡つき次第ぼくの方に連絡もらえますか? 手続きの続きをしますので」
「……わかった」
僕は事務員が淹れてくれたホットコーヒーを飲み終えてから、
「では、電話するので」
「よろしくお願いします。お待ちしております」
それから約一時間後。亀梨優斗から電話がきた。
「お疲れ!」
『おおー、お疲れ。電話くれた時、仕事してた』
「実はさ、俺車買うんだ。それで保証人が一人必要で亀梨が保証人になってくれないかな? と思って電話したんだ」
そう言うと亀梨優斗は黙った。どうしたんだろう?
『そうか……。お父さんはだめなのか?』
「亀梨、お前も知ってるだろ。俺が親父と不仲なことを。だから、顔も見たくないんだ。だから、普段から親しくしてくれている亀梨に頼んでるんだ」
保証人の話しをしてから亀梨優斗の様子がおかしい。なぜだろう。
『保証人かぁ、普通は身内に頼むんだけどな。おれは他人だし、もし安西が払えなくなったら、おれが払わなきゃいけないだろ。そこが問題なのさ』
「じゃあ、保証人にはなってくれない、ということか?」
『悪いがそういうことだ』
俺は断られて頭にきた。今まで親友で何でも話したり、してやったりしたのにお金の話になるとこれだ。本当に親友かよ。名目だけの親友のような気がする。
「わかったよ! 亀梨にはもう何も頼まない!」
『いや、お金のこと以外なら助けるぞ』
「いいよ、もう。失望したわ」
そう言うと彼はこう言った。
『そんなこと言うなよ。いくら親友でも出来ることと出来ないことがあるぞ。それくらいわかってくれよ』
そう言われて俺は更に腹が立った。
「わかった! もういい! 困ってるのに助けてくれないということは親友ではないな!!」
そう言い放って俺は電話を切った。畜生! あの野郎! 怒りと共に悲しみも込み上げてきた。裏切られたという思いが強くて。
こうなったら仕方がない。車を買うのをやめよう。必要なのはやまやまだけど。お金貯めて現金で買うことにする。それなら保証人も必要ないだろう。
翌日。今日は仕事だ。少し早めに出て歩いて出勤する。面倒だけど。昼休みにセールスマンに電話をして申し訳ないけれど今回は買うのをやめる旨の話しをしよう。非常に残念だが。でも、仕方ない。保証人になってくれる人がいないんだから。
いつものように仕事を十二時までこなして休憩に入った。まずは昼食を食べてしまおう。店に売ってる唐揚げ弁当と麦茶を買った。デザートにティラミスも買った。事務所でそれらをたいらげ、車屋のセールスマンに電話をかけた。
『もしもし、安西さんですか?』
「うん、そう。安西。実はさ、車買えないわ」
『え! どうしてですか?』
「誰も保証人になってくれなくて。だから、お金貯めて現金で買うよ」
相手の鼻息が受話口から聞こえた。溜息だろう。
『そうですか、わかりました。では、その日をお待ちしていますね』
「悪いね。書類進めていたのに」
『いえいえ、大丈夫ですよ』
「じゃあ、また」
今日は、俺と亀梨と女の子で遊ぶ日。俺が事故って廃車になったから亀梨が迎えに来てくれる予定。でも、あんなことがあったあとだから女の子と会うのも今回は断る。なので、LINEを送った。
<亀梨。今回女の子と会うのはやめるよ。また、気が向いたら連絡するわ>
俺は思った。俺の言動はあまりにも一方的だろうか。俺だけが悪いのだろうか? いやいや、そんなことはないはずだ。保証人になってくれる人がいなくて困ってるのに力になってくれないアイツもアイツだ。亀梨からLINEがきた。
<相変わらず勝手なやつだな。女の子もその気になってるんだぞ。どうするんだよ?>
<亀梨の方から断っておいてくれ>
<まったく、お前ってやつは……。残念がるその子の顔を見るのはおれなんだぞ>
<顔が見たくなければ電話でいいだろ>
<そういう悪知恵だけは働くんだな>
<悪知恵? 普通だろ>
<ていうか、もっと相手の気持ちを考えろって言ってんの!>
とうとう口論になってしまった。今度会う時気まずいな。暫く時間を空けないと会えない。
<相手の気持ちを考えろ>か。確かに僕は自分のことしか考えてないかも。
同い年とはいえ、亀梨優斗の方が大人かもしれない。悔しいけど勉強になる。
翌日。俺は朝八時三十分頃に出勤した。でも、店長の姿がない。どうしたのだろう。その時、俺のスマホが鳴った。画面を見てみると店長からだ。すぐに出た。
「もしもし、安西です」
『もしもし。今日具合い悪くて病院に行くわ、胃の調子が悪くてな』
「わかりました。大丈夫ですか? お大事にして下さい」
『ありがとな。店、頼んだぞ』
「はい、わかりました」
店長が具合い悪いのは珍しいことだ。確か五十代後半だろう。パートさんに聞いた話しだと、この職場に来てから一度も欠勤したことがないらしい。そんな丈夫な店長がどうしたというのだろう。
昼前になり、また店長から電話がかかってきた。
「もしもし、お疲れさまです」
『安西君。わたし入院することになったわ』
「え! マジっすか!」
『マジだ。嘘を言ってどうする』
「それで、どこが悪いんですか?」
『検査したら胃潰瘍らしい』
「そうですか。本部には店長が電話しますか? それとも俺がしますか?」
『そうだな、俺が自分でするよ』
「わかりました。因みにどこの病院ですか?」
『この町の町立病院だ』
「わかりました。時間を見付けてお見舞いに行きますね」
『何も気を遣わなくていいんだぞ』
「ええ、一応パートさんにも伝えますね」
『ああ。よろしく頼む』
「では、失礼します」
そう言って電話を切った。
俺はお客さんがいないのを見計らって事務所にパートさんを呼んだ。そして、店長の話しをした。パートさんの内の一人が驚いた様子で質問してきた。
「え! そうなんだ。いつ退院するの?」
「それは聞いてない。ただ、町立病院に入院するらしい。俺は時間を見付けてお見舞いに行こうと思ってる」
「そうなんだ。私もお見舞いに行こ。普段、お世話になってるから」
「そうだな」
僕は監視カメラを見てみるとお客さんがレジの前に立っていた。
「あ、お客さんだ。仕事に戻るぞ!」
そう言ってそれぞれの持ち場に戻った。
俺の妹の安西康子は二十一歳になる。どうやったら一緒に買い物に行ってくれるのか。奢ると言えば付いて来るだろうか。それとも、康子の友達と三人とか四人でなら一緒に行ってくれるだろうか。
彼女は欲しい。でも、康子とも行動は共にしたい。多分、後者の方なら一緒に行ってくれそう。でも、康子の友達は知らないから無理かもしれない。
一応、康子に訊いてみた。するとこう言った。
「うん、友達と一緒ならいいよ。でも、お兄ちゃん、友達のこと知らないからぼっちになるけどいいの?」
「うん、いいよ。康子の友達と知り合いになれたらそれはそれで嬉しいし」
「そう。私と友達とお兄ちゃんでいいよ。友達は男子と女子どちらがいいの?」
「女子がいいな」
即答すると、
「お兄ちゃん、下心があるんでしょ?」
「そ、そんなことはないよ」
「動揺してる」
康子はニヤニヤしながら俺を見ている。
「そんないやらしい顔で俺を見るな」
「あはは!」
笑ってるし。康子、俺を馬鹿にしてるな。そう思った。
「じゃあ、女の子の友達にいつなら時間空いてるか訊いとくよ」
「わかった。よろしく」
翌日の朝、康子に話しかけられた。
「友達、今日でもいいらしいよ」
「俺がいること言ってあるのか?」
「もちろん、言ってあるよ」
「そっか、それでもOKなら嫌がられてはいないみたいだな」
「そうね」
「俺の仕事が終わってからになるから、夜七時くらいになりそうだわ。それと車ないからタクシーで行くから。迎えにも行くし。康子、友達の家知ってるんだろ?」
「うん、知ってるよ」
俺はあることを目論でいる。康子の女友達と仲良くなって交際したいな。まずは会ってみてどんな子か見定めてみないと。優しくてかわいい子ならいいな。
こういう日だっていうのに残業になってしまった。店長の身内の人が危篤になってしまったらしく残された仕事を俺がやらなくてはならなくなったからだ。康子にLINEをした。
<俺、残業になった。多分、一時間くらいで終わると思う。友達、会ってくれるかな? 八時くらいからになってしまうけど>
そう打って送った。
帰る頃になりLINEがきた。康子から。
<友達、会ってくれるって>
よかったー、と思い、
<わかった。今から帰るから>
三十分くらい徒歩で帰った。車がないと不便だ。そうだ! 康子に保証人になってもらえばいいのか。気付かなかった。
部屋に着いて支度を始めた。急いで用意した。シャワーを浴び、紫のセーターにベージュのチノパンを履いた。ローカットのブーツを履きタクシーを街中まで行き拾った。まずは実家まで行くように運転手に住所を言った。路面はアイスバーンになっていて、ゆっくり走っていた。急いで、と言おうとしたが事故っても嫌なので言わなかった。
十分くらい走って着いた。社内で康子に電話をかけた。
「もしもし、康子? 着いたぞ」
『わかった、今から行くね』
俺は運転手に話しかけた。
「運転手さん、もう一人乗るので俺、助手席に乗りますね?」
「わかりました」
禿げ上がった年輩の運転手はそう返事をした。早速、俺は助手席に乗り換えた。それからすぐに康子が出て来た。僕は手を挙げた。運転手はドアを自動で開けてくれた。乗って来た康子に言った。
「遅くなってすまん」
「仕事だから仕方ないよ」
康子はピンクのワンピースを着て、髪はポニーテールにしていた。可愛い。
「じゃあ、康子。運転手に友達の家の住所を教えてあげてくれ」
そう言うと康子は住所を教えた。車が動き出した。
俺はスマホを見ると八時を過ぎていた。すっかり遅くなってしまったな。後で康子に保証人の話しをしないと。きっと、なってくれるはずだ。身内だし。
友達の家はアパートだった。
「一人暮らしか?」
「うん、そうよ。幸子に電話するね」
幸子っていう名前なんだ。苗字は何ていうんだろう。まあ、後で訊こう。
「もしもし、あ、幸子? 着いたよ。タクシーで来てるから」
「うん、じゃあね」
「今、来るよ」
「わかった」
俺はアパートを見ていると二階のドアが開いた部屋がある。暗くてよく見えないが、若い女性だから康子の友達だろう。階段をゆっくり降りて来てタクシーの傍に来るとまた運転手はドアを開けてくれた。友達も後部座席に乗った。
「こんばんはー。初めまして」
俺がそう言うと友達も、
「初めまして」
と言ってくれた。
「お兄ちゃん、どこに行くの?」
「ハンバーグとステーキが食べたいから、その店に行く。いいだろ?」
「私はいいけど、幸子は?」
「うん、いいよ」
話がまとまったので、店の名前を運転手に伝えた。
少し走ったところにその店はあった。煉瓦模様の壁に茶色い屋根。康子はこう言った。
「へえ、こういうお店あったんだ。お洒落ね」
「だろ? さあ、降りるぞ」
そう言って俺らはタクシーを降りた。タクシー代は俺が出した。食事代も俺が出そうと思っている。遠慮したら、次一緒に食事したら自分の分だけ出してもらおうと考えている。
店内に入り、
「いらっしゃいませー!」
と数人のウェイトレスの声が店内に響いた。明るくて感じのいい店だ。俺は前にも友達と来ている。ウェイトレスがやって来て、
「三名様ですか?」
と訊かれた。俺は、
「ああ、そうだよ」
「お煙草はお吸いになられますか?」
ウェイトレスに続けて訊かれた。
「吸わないよ」
「わかりました。こちらへどうぞー」
と言ってウェイトレスは先に歩き出したので、俺らも付いて行った。
「こちらのお席へどうぞ」
その席は四人用で窓際。窓の外を見ると、太陽の光が燦々と降り注いでいる。気持ちがいい。
康子は言った。
「幸子は私の隣に座ってね」
「うん」
幸子さんは笑顔だ。僕は彼女に質問した。
「幸子さんの苗字は何ていうの?」
「山下です」
「山下さん。山下幸子さんて言うんだね」
「はい」
山下幸子さんは細身の体型で、整った顔をしている。可愛いというか、綺麗というか。
ウェイトレスはメニュー表をテーブルの上に置き、
「お決まりになりましたらそこの赤いボタンを押して下さい」
と言って去って行った。
俺はメニュー表を康子と幸子さんの方に向けて見せた。
「何がいいかな?」
「うーん、私はステーキにしようかな」
康子は言った。山下幸子さんは、
「あたしはハンバーグがいいな。小さいサイズで」
俺はメニュー表を自分の方に向け、眺めた。
「俺もステーキにする。一番大きなサイズのを」
窓際の俺の方にある赤いボタンを押した。ピンポーンと大きな音が鳴った。
ウェイトレスがすぐにやって来て俺は注文した。そして、すぐに厨房に向かって行った。
「幸子さんって呼んでいいの? それとも山下さん?」
すぐに返事が返ってきた。
「幸子でいいですよ」
「え! 呼び捨て?」
「いえ、幸子さんで」
だよな、いきなり呼び捨てはないだろう。彼女は苦笑いを浮かべている。
「妹が幸子さんを紹介してくれたみたいで。来てくれてありがとう」
「いえいえ。あたしもどんな男性か興味があったので」
三人で注文の品が来るまで雑談していた。幸子さんは、
「猛さん、話してて楽しいですね」
「ほんと?」
彼女は頷いた。
「LINE交換しませんか?」
幸子さんは積極的。
「え、いいの? 是非!」
こうして連絡先を交換してもらった。意外な展開。こんなに急速に幸子さんとの距離が縮まるなんて。嬉しい。どちらかといえば好みのタイプの女性。だから尚更。
俺は妹に相談した。
「車買うから保証人になってほしい」と。
すると、
「うん、いいよ」
よかったー。一発OKだ。さすがは俺の妹。俺の仕事が休みの日に康子も含めて車屋に行こうと話した。もちろん、大学は終わってから。
今日は月曜日。康子にLINEを送った。
<今日、俺休みだから大学終わったら車屋にいかないか?>
<うん、いいよー。買う車は新車? それとも中古車?>
<新車だよ。軽自動車。維持費が安いからね>
<なるほど。学校から帰ってきたらLINE送るよ>
<わかった、よろしくな>
昼、十二時三十分頃。LINEがきた。相手は山下幸子さん。本文は、
<今日会えますか?>
お! マジか。予想だにしない展開。俺は山下幸子さんに好かれているようだ。
<今日、康子と車買いに行くのさ。だから、夜なら会えるよ>
<わかりました。都合のいい時間になったら連絡下さい>
こんなに俺に会いたがる女性とは初めて出会った。いいことだ。俺のどこに魅力を感じるんだろう。訊くのも気が引けるしなぁ。俺と幸子さんは相思相愛に近いと思う。
午後四時頃。康子からLINEが来た。
<今、帰って来たよ。タクシーで迎えに行くね。この前、ハンバーグご馳走になったからタクシー代は私が出すよ>
<サンキュ~>
なんていいやつなんだ、康子は。いい妹でよかった。
約三十分後。部屋のチャイムがなった。来た! と思った。玄関に行って、
「はい」と返事をすると、「私」と聞えた。ドアを開けると黒いロングコートを羽織って背中まで長い髪を垂らしている。相変わらず可愛い妹。
「判子持って来たか?」
「うん、持って来たよ。ていうか、いつも持ち歩いているし」
「そうなんだ。タクシー、待たせてるんだろ?」
「うん」
「じゃあ、すぐ行くか」
俺は青いダウンジャケットにジーンズを履いている。
外に出て部屋の鍵をかけてからタクシーに乗った。運転手に行先を教えてから出発した。俺が取引のある車屋。隣町にある。二十分くらい走ってから到着した。ここのセールスマンとは数年来の付き合いだからある程度融通がきく。
受付に行って、奥田さんという交流のあるセールスマンを呼んだ。受付の若い女性は初めて見た。新しく入ったのだろう。その女性は言った。
「すみません、お名前窺ってもよろしいですか?」
「安西だよ、安西猛」
「安西さんですね。少々お待ち下さい」
女性は事務所に行った。すぐにセールスマンはやって来た。笑みを浮かべながら来た。
「安西さん、お久しぶりです。元気でしたか?」
「ああ。俺は元気だよ。今日は車を買いに来たんだ」
「ありがとうございます!」
「新車の軽自動車が欲しいんだ」
「どうぞ、座って下さい」
そういってセールスマンはカタログを持ってきた。そして、人気のある車種や燃費のいい車などいろいろ説明してくれた。
一時間くらい話した結果、燃費がよく、シルバーの軽自動車にした。シルバーは汚れが目立たないということも説明してくれた。そして、支払いの話しになった。
「ここの会社のローンにするわ」
「ありがとうございます」
セールスマンは席を立ち書類を持って来た。俺は早速記入していった。
「保証人は妹になってもらうから」
と伝えると、
「お願いします」
相変わらず低姿勢。
「よし、書き終わった」
「ありがとうございます。数日お待ち下さい。納車の日取りをのちほどお電話で決めさせていただきます。都合のいい日があればその時教えて下さい」
「わかった。よろしくね」
こうして車を購入した。納車されるのが楽しみだ。
そういえば山下幸子さんに誘われていることを康子に言ってなかった。外に出てからその話しをした。歩きながらタクシーを拾った。車内で俺は言った。
「幸子さんから誘われたぞ。だからこれから遊びに行って来る」
康子は驚いたらしく、
「え! ホントに? お兄ちゃんモテるじゃない! 私も行きたいところだけど二人で楽しんできな」
「ああ。そうする」
俺は帰宅してから山下幸子さんにLINEをした。
<今、帰って来たよ。どうする? とりあえず俺の部屋に来る?>
三十分くらい経過してから幸子さんからLINEがきた。
<じゃあ、今からタクシーで行きますね!>
俺の住んでる場所を教えた。
<アパートに着いたらタクシー待たせておいてね。そのタクシーで出かけよう>
準備があるからもっと時間がかかるかと思ったら二十分くらいで来た。事前に約束してあったから用意してあったのかもしれない。いきなり部屋で二人きりはやばいのでカラオケにでも行こうかな。夕食も兼ねて。俺は部屋で二人きりでもいいけれど。そのことを伝えると「わかりました」と言う返事がきた。
約十五分後。山下幸子さんが来たのか車の音が聴こえる。少しして、俺の部屋のチャイムが鳴った。俺は玄関に小走りで行った。「はい!」と短く返事を
すると、「幸子です、山下幸子です」そう聞えた。「開いてるよ」と声を掛けると、ガチャリとドアが開いた。
「こんばんはー」
と明るい声が聴こえた。
「おお! 幸子さん。いらっしゃい」
「来ましたよ」
彼女は笑みを浮かべながら黄色いセーターに茶色い柄の入ったロングスカートを履いている。
「可愛い!」
思わず叫んでしまった。
「どうしたんですか?」
「いやいや、幸子さんがあまりにも可愛いから叫んでしまった。」
「そんなことないですよ」
「そんなことあるわあ! ちょっと待ってね。今、財布とか持ってくる」
「はーい」
財布とスマホ、部屋の鍵を持って外へ出た。俺はドアの鍵をかって待たしてあるタクシーに乗った。山下幸子さんは既に乗っていた。俺は言った。
「寿司食いたいなー」
彼女は、
「お寿司屋さん、行きますか?」
と言ったが俺は、
「いやいや、高いしょ」
そう言うと、
「回らないお寿司屋さんなら、そんなんでもないと思いますけど」
確かにそうかもしれない。でも、山下幸子さんの食べたいものを訊いていない。
「幸子さんは何が食べたいの?」
「あたしですか? あたしは何でも食べますよ。好き嫌いは殆どないです」
その話しを聞いて俺は感心した。素晴らしいなと。
「じゃあ、回転寿司に行こう」
そこはこの町に一軒しかない。なので、その店名を運転手に伝えた。運転手は俺達が話し込んでいたから苛々しているように感じた。まあ、いいや。こっちは客だ。少しくらい待たせてもいいだろう。それも仕事の一環だと思う。
目的地に着いて俺がお金を払った。山下幸子さんは言った。
「あとで、折半しましょう」
「いいのかい? ありがとう」
僕らはタクシーから降りて店の入り口まで歩き、自動ドアと表示されているので開くのを待った。硝子のドアが開き、入店した。
「いらっしゃいませー!」
と威勢のいい大きな声が聴こえてきた。僕らは空いている席に座った。結構混んでいる。
今日は天気がよかったので気分もいい。山下幸子さんも同様に気分がいいのか二人して三十五皿食べた。腹いっぱいだ。彼女もたくさん食べたからお腹をさすっていた。太っちゃう、と独り言を言っていた。聞こえていたので
「たまにはいいんじゃないの?」
と言うと、
「そうね。頻繁じゃないからいいか」
「うん、そう思うよ」
支払いを済ませ、僕らは外に出た。
「ありがとうございましたー!」
帰る時も威勢がいい。感じのいい店だと思った。彼女にそう伝えると、確かにそうね。と言っていた。
いつの間にか山下幸子さんは口調がため口になっているのに気付いた。でも、その方が親しみがあっていいと思う。仲良く食事も出来て、美味しい寿司も食べられて僕は満足している。もし、山下幸子さんと交際出来たらこれ以上言うことはないくらい幸せだ。僕は彼女に訊いた。
「お酒呑みたい?」
「ん。少しなら」
「コンビニでお酒を買って僕の部屋に行かない?」
「うん、行っていいなら行きたい」
本当は歩いて移動すればいいのかもしれないけれど、今は冬でとても寒い。だからタクシーを捕まえて移動している。珍しく、住宅街にタクシーが走っていた。僕は手を挙げるとタクシーは止まった。そしてドアが開いた。僕は先に山下幸子さんを乗せた。次に僕が乗った。
「猛君、先に乗せてくれるなんてなかなかの紳士ね」
僕は笑いながら、
「そうかい? ありがとう! 嬉しいよ」
僕は部屋の住所を運転手に伝えた。その前にコンビニに寄って欲しいということも伝えた。
まずはコンビニに着いた。僕がタクシーから先に出て、最後に山下幸子さんが出た。僕は運転手に
「買い物してくるんで少し待っていて下さい」
と言うと、
「はい」
そう聞えた。
僕はコンビニの入り口のドアを開けてやり、山下幸子さんが先に入ってもらった。
「猛君、ほんと優しいね!」
そう言われて嬉しかった。後から僕が入ってカゴを持った。
「ここは折半ね」
彼女はそう言うが、
「いやいや、僕が誘ったんだから僕が払うよ」
「え、大丈夫なの? 結構出してもらってるけど」
「大丈夫さ」
「わかった、ありがと」
僕は笑顔で彼女を見詰めた。可愛いなぁと思い始めた。これってもしかして、恋ってやつ? そっか、そうだ! AV男優の亀梨優斗が女の子を紹介してくれるって言ってたけど、それには及ばないかもしれない。
「何呑む?」
僕がそう言うと、
「チューハイがいいな」
と山下幸子さんは言った。
「じゃあ、俺はビール。この際だから三百五十ミリの六缶パックを買うかな」
梅とレモンの缶チューハイを彼女はカゴに入れた。僕はビールを一パックカゴに入れた。
「お腹空いてない?」
「うーん、少し空いてるかな」
「だよね、僕は空いてるからカツカレーを買う。お寿司あんなに食べたんだけどね」
俺は笑いながら言った。つられて彼女も笑う。笑顔が可愛いと思った。俺は恋という魔法にかけられたようだ。
「あたしはおにぎりにする。梅と鮭」
「美味しいよね」
俺が賛同すると彼女は、うん! と力強く返事をした。レジで会計を済ませ、タクシーにまた彼女から乗った。
空を見ると星が光っている。明日は晴れかな。そう言うと、山下幸子さんは、「え? 星空なら明日晴れなの?」と不思議がっていた。それに対し、
「うん、そういう日が多いよ」
僕が説明した。
運転手は、
「発車しますよ?」
「あ、すみません。お願いします」
つい、話し込んでしまった。
「猛君、物知りね」
「いやあ、そんなことはないよ」
僕は苦笑いを浮かべながらそう言った。
タクシーはアパートに着き、僕が払おうとするとそれを制し、山下幸子さんが支払った。僕は、
「ありがとう!」
とお礼を言った。
「いえいえ、猛君はもっと出してくれてるから」
「デートは男が多く出すものだよ」
そう言うと、
「かっこいい!」
と絶賛していた。
「いやいや、そんなことはないよ。当たり前だよ」
「そうなの?」
「うん、俺はそう思うよ」
タクシーから降りて僕は部屋の鍵を開け、ドアを開いた。レディーファーストで先に山下幸子さんを先に行かせた。
「ありがとう!」
「いえいえ」
俺は気合いを入れた。
「よし! 呑むぞー!」
山下幸子さんは、
「そうね!」
と同意してくれた。嬉しい。
俺は完全に山下幸子さんに惚れていた。今日カミングアウトすべきか、それとも次回にすべきか。迷う。雰囲気次第だな。
「電気のスイッチ壁にあるの見えるか?」
「うん、見えるよ」
買い物したものは俺が持っている。
「初めて入る部屋だからずっこけるなよ」
「うん、気をつける。居間のスイッチはどこにあるの?」
「入って左側の壁にあるよ」
暗くて見えないだろう。カチッという音と共に電気がつき明るくなった。
居間は少し散らかっている。
「ちょっと散らかっているけど気にしないでくれ」
「わかったー」
でも、俺は内心散らかっているから、恥ずかしいなと思った。なので、素早く片付けた。空いたスペースに、
「ここに座ってくれ」
「うん、ありがと」
俺が座るスペースも作った。俺の横に置いてあった買い物袋の中身を出しビールとチューハイを一本ずつテーブルに置き、残りは冷蔵庫に入れた。
そして乾杯をし、一口呑んだ。
「旨いなぁ!」
「美味しいね!」
それから約一時間くらい呑みながら喋った。徐々に酔ってきた。山下
幸子さんは、
「猛君、酔ってきたね! あたしもだよ」
「今日は気分がいいなぁ」
俺は言った。彼女はこちらをまっすぐ向き、急に真面目な顔をして言った。
「あたしね、猛君の妹の康子に今日初めて紹介されたけど、感じのいい人だなと思ったよ。あたしでよければ付き合って欲しい」
積極的な子だ。こういう子に巡り合いたかった。
「もちろんさ! 俺のタイプだわ。積極的だし。可愛いし」
「可愛い? ほんと?」
「ああ、ほんとさ。会って間もないけどよろしく」
幸子って呼び捨てでもいい?
「うん、いいよ。あたしも猛って呼び捨てにする」
「うん、構わないよ」
こうして俺と幸子は交際することになった。僕らは恋という魔法にかけられた。少しでも長く付き合いたいな。人生は長い。あわよくば結婚したいな。この話はゆくゆくしよう。まずは付き合ったばかりだから存分に楽しもう!
了
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